父
昼食は今朝残ったスープを温め直したものだった。野菜屋の男はファラーナクと話し終えるとバザールの方へ帰ってしまっていた。食後に私は天井に吊るされた。ファラーナクは安楽椅子で編み物をしている。私の服だ。
夕方にも野菜屋の男は来た。彼は夕食後、庭で煙草を吸った。内へ戻ると、私のことを抱きかかえる。彼の吐息は煙草臭い。私は泣く。するとファラーナクがこちらへ駆けつける。彼女は彼を咎めることはせず、私を泣き止ませることに注力した。私は、彼女が彼に物言うまで泣き粘ろうとした。しかし、疲れて、彼女の腕の中で眠ってしまった。
目を覚ますと、寝室の揺り籠の中だった。布団ではファラーナクと野菜屋の男が激しく身体をぶつけ合っている。私の目が慣れないうちに彼は射精を完了する。その後しばらくは布団の擦れる音が、部屋で一番大きい音であった。今回はきょうだいの誕生を期待しながら眠りについた。
案の定、その次の年に弟が生まれた。アーザードと名付けられた。私の父と彼の父は違うから、異父兄弟ということになる。私の父ホルモズは討伐から帰ってまもなく亡くなった。ドラゴンの吐いた炎によって身体の大部分に火傷を負っていたのだ。家に帰って来たときも、彼は肉の塊のようであった。一度、厚く包帯の巻かれた手で私を撫でた。包帯は温かかった。彼は直ちに墓へ入った。まるで墓へ行くついでに家に寄ったかのようだった。
アーザードの父は野菜屋の男で、名はラフシャーンといった。ローヤー市のバザールでは一番稼いでいる商売人である。ファラーナクと同じくらいの年齢であり、それは私の前世の享年と同じくらいの年齢でもある。私は彼のことが嫌いだ。嫌いは確かだが、彼に対して抱くものが憎しみであるのか、嫌悪であるのか、特定しようとするとすぐに姿を変えてしまって、何であるのか言い表すことはできない。その声を聞くと口もとが歪んでしまう。生理的に受け付けていないのも確かだ。
彼の一挙手一投足から漏れ出る性欲。ファラーナクと接するときにはそれがよく見える。彼女は、一言で表せば、良い女性だ。髪、顔立ち、胸、腹…… と男性の性欲を撫でるような造形物が、彼女には多い。今や私は肉体的に彼女の子どもであり、彼女に一番近い男性である。ファラーナクが私に向ける感情は、おそらく本能から来る、母として注ぐ愛である。しかし、彼女がラフシャーンに対して抱いているのは、一人の女性としての、恋愛感情である。ファラーナクの乳を吸い、彼女に全身を洗われ、食事を与えられ、…… という日々を過ごせば、彼女について特別な感情が生じてしまうことは避けられない。皮肉にもラフシャーンと同じような、女性を求めてやまない年頃の男なのだから。私は彼女の子どもとしてこの世界に来た時点で、彼女と性的に交わることも、彼女がラフシャーンへ向けるようなあの眼差しを向けられることも起こりえない。ラフシャーンは私が喉から手が出るほど欲しくてやまない、そのどちらをも手にしている。だから、毎日目の当たりにしているファラーナクとラフシャーンの交わり、特にセックスは、私を嘲笑っている。手の力が十分でなく、マスターベーションさえできない。
ラフシャーンが私を抱くとき、私は泣きわめく。赤ちゃんの身は涙もろい。そうすると彼は顔をしかめる。その表情を糧にしてさらに叫ぶ。トラックに轢かれる前にも出したことのない声量。そして、おしっことうんちを出す。




