第8話 騒ぎの行方
宮殿内は大騒ぎになる。門では衛兵が二人、手にやけどをして治療を受けている。そして、闘技場では宮廷騎士団員四人が曲者にのされたのだ。
犯人はミハス村の少年と噂されている。話は宮廷騎士団長バルタザールに聞こえる。バルタザールは衛兵二人と宮廷騎士団員四人を執務室に呼び出す。
衛兵がバルタザールに進言する。
「私たちはバルタザール様と約束をしているという少年にやけどを負わされました。」「どうして、私に連絡がこない。」
「私たちは来客とは思いませんでした。少年のたわごとと思って入門を止めようとしたのです。」「私は、部下に少年が訪ねてくると知らせるように指示したぞ。」
「聞いていません。」「そうか、どういうことだ。」
「まだ連絡が行っていなかったものと思います。」「バカ者!それでそのざまか。いったい何をしたんだ。」
バルタザールは怒り、部下四人を睨みつける。四人は言い訳をする。
「あの少年は不正をしました。あのような者は騎士にふさわしくありません。」「騎士にふさわしくないのはお前たちではないのか。」
「少年は、魔法の詠唱もなしに鎧を粉々に破壊したのです。何か不正を下に違いありません。」「その無知な頭で判断するな!ミリア様も詠唱なしで魔法を使うぞ!」
「知りませんでした。それに試験が失格になると暴れて我々に切りかかったのですよ。」「四人もいて取り押さえられないのか。」
「少年は逃げ足のヤガンの弟子です。卑怯なんですよ。」「卑怯者はお前たちだろ。謹慎を命じる。退団も覚悟しておけ。」
「お待ちください。私たちは・・・」「四人をつまみ出せ。」
バルタザールは、自ら今回の件を調査して報告書を宰相エッケハルト・ミレッカーに提出する。二週間後、バルタザールは、国王アウグストに謁見する。
宰相エッケハルトが今回の騒ぎの処罰を伝える。
「原因となった宮廷騎士団員四人は騎士の地位をはく奪する。騎士団長バルタザールは監督不行き届きで一週間の謹慎とする。」「はっ。」
「なおウォール・ヤーンは、潜在的な脅威として内密に処分する。」「お待ちください。ウォールは次期聖女の従騎士に必要な人材です。」
アウグストがバルタザールに言い聞かせるように言う。
「ウォールは農夫の子だ。下賤の者に聖女の従騎士をやらせるつもりか。私に恥をかけというのか。」「いいえ、ウォールは貴重な人材です。手元に置いておくべきです。」
「分かっておらんな。我々の脅威になるかもしれないのだぞ。だから、処分するのだ。」「ご再考をお願いします。」
「ならん、諦めよ。以上だ。」「・・・・・」
バルタザールは次期聖女と対になる国の宝が失われることを感じる。アウグストは考えを改めないであろう。
俺は村に帰ると両親に王都であったことを話す。ゴルは、「今は動く時ではない。機会を待つんだ。」と俺に言って自重するようにする。
ミリアのことは心配だが、俺は次の日から畑で働き始める。そして、二週間後、村の近くの森にグレイグリズリーが出没したというので有志の村人と山へ入る。
俺は、暗殺者が村の近くまで来ていたということは知らなかった。




