第9話 ウォール対ラース
ラースの額から汗がにじみ出てくる。このままでは負けてしまう。どうすればいい。ラースはこれまでの経験を生かしたシミュレーションを繰り返して勝ちのパターンを探す。
ウォールから見てラースの構えは隙だらけである。どこからでも打ち込むことが出来そうだ。ウォールは間合いの外から飛び込むように上段から打ちこむ。
ラースは同時に後ろへ飛んだがウォールの方が早い、目の前を木剣の風圧がかすめる。明らかに剣の振りの速さは、ウォールの方がラースより数倍早い。
ウォールは間違いなく化け物じみて強いと感じる。それでも勝てるパターンを探る。ラースは左前方に走る。ウォールの後ろに回り込む隙を伺う。
しかし、走っているラースに強烈な突きが放たれる。ウォールは高速でラースに近づき突きを放ったのだ。木剣の突きがラースの金属製の鎧の胸当てを紙屑のようにひしゃげる。
ラースはのけぞって致命傷をかわしていた。なんて突きだ。かわせなかったら終わっていたぞ。ラースは後方に三回飛んでウォールからかなり距離をとる。
そして、鎧を外し始める。ウォールは黙って見ている。ヤガンはラースが最後の勝負に出ると考える。
鎧を外したラースは、これで最速の一撃を入れる可能性が少し高まったと考える。ラースは正面から攻め、下段から木刀を切り上げる。
ウォールは上段から木刀を打ち下ろす。打ち下ろされた木刀はラースの右肩を砕く。ラースの切り上げた木刀は空を切る。ウォールは半身を引いてかわしたのだ。
ラースは左手で木剣を持つとウォールに突きを繰りだす。ウォールはぎりぎりでかわすとラースの腹に木剣の柄頭を打ち込む。ラースは気絶して倒れる。
ヤガンが勝敗を宣言する。
「勝者、ウォール。」
観客から拍手が起きる。ウォールはラースの右肩をヒールする。気絶したラースは村長の家に運び込まれる。
夕方、ラースは目を覚ます。様子を見ていた村長が言う。
「ようやく、目を覚ましたか。」「私は負けたのですね。」
「負けたが、よく頑張った方じゃ。」「勝てなければ、意味はありません。」
「ウォールは強いぞ。村では剣豪のヤガン先生の次に強いはずじゃ。」「王都に戻ります。」
「分かった。案内の者をつけよう。」「申し訳ありません。」
ウォールが村長の家へやって来る。ウォールはラースに質問する。
「ミリアは俺を従騎士に推薦したのか。」「そうだよ。教会も君を従騎士にする考えだ。」
「分かった。俺は王都に行く。一緒に行こう。」「私と来るつもりか。」
「そうだ。今度こそ騎士になるよ。」「ああ、なれるだろうよ。十分に強いからな。」
ウォールは喜ぶ。ラースは喜べない。ウォールがミリアに会ったらと思うとつらい。
翌日、ウォールはラースと村を出る。ウォールにダリアとアミンが言う。
「ウォール、農夫をやめてしまうの。」「俺は従騎士になるよ。」
「騎士になれないと言っていたでしょ。」「ミリアが俺を従騎士に推薦しているらしい。」
ダリアとアミンは崩れ落ちる。結局はミリアに負けたのだと思う。当然、父ゴルがウォールを引き留めようと説得しようとしたが、ウォールは聞く耳を持たなかった。
ウォールは騎士になることで想いがいっぱいになっていた。閉ざされていた道が開けたのである。ウォールはその道しか見えていなかった。
ウォールとラースは、森の中の道を進む。突然、ウォールが立ち止まる。
「どうした?」「グレイグリズリーが待ち伏せている。」
「たたかうのか。」「いや、獲物を持ち帰ると時間がかかる。威圧して追い払うよ。」
ウォールは数歩進むと闘気を発する。ラースは驚く。こいつ試合の時、こんな闘気を発していなかったぞ。本気ではなかったのか。
10メートルほど先の藪がガサッと動く。
「逃げて行ったよ。さあ行こう。」「ああ。」
ラースはとんでもない奴と旅をすることになったと考える。




