第8話 早朝の稽古
早朝、ウォールは木剣の素振りをする。農夫になっても剣の鍛錬と魔法の勉強は続けていた。心の片隅でミリアの従騎士になる夢を捨てきれずにいたのかもしれない。
ミリアは俺が従騎士になることを望んでいる。今でもミリアは俺を忘れていなかった。血が湧き上がって来る。そこへラースがやって来る。
「今更、稽古を始めても遅い。私は稽古を欠かしたことはないぞ。」
ラースはウォールの前で稽古を始める。ウォールは黙って木剣を振る。稽古を終えるとラースはウォールに言う。
「試合で会おう。」「・・・・・」
ラースだったか、あいつ、一振り一振りに必殺の気合が入っていないな。基本は出来ているようだが、ヤガン先生の言葉を借りればまだまだだな。ウォールは朝食前の畑仕事に向かう。
ラースは、朝食を終えると村の広場へ行ってウォールを待つ、広場に集まっているのは子どもと老人だけだ。昼前になるとやっとウォールがやって来る。
「ウォール、何をしていた遅いぞ。」「午前中は畑仕事があるのだ。試合をしている暇はない。」
「なんだと、畑仕事の方が大事なのか。」「他の者たちはまだ畑仕事をしている。観客が揃うのは昼過ぎだぞ。」
「なんてのんびりしているんだ。」「みんな働いているんだ。騎士の都合で考えるな。」
「そうか、悪かった。」「ミリアは立派な聖女になれたのか。」
「ああ、民衆にも人気がある。」「それは良かった。」
「それに美しくなられた。白い肌に銀髪と碧眼、まるで妖精のようだ。」「会うことが楽しみだ。」
「私が勝つから、お前は村にこもって入ればいい。」「そうはいかない。俺はもう一度、王都へ行く。」
ウォールとラースはにらみ合う。
前の晩、ウルズはミリアが従騎士にウォールを指名したと聞いて王都ダルヴィークの宮殿に行った。ウルズは上級魔法使い7人がかりで張った防御結界を易々と壊して侵入する。
宮殿に詰めている上級魔法使いが防御結界が破られたことに気づいて騒ぎ出す。宮廷騎士たちにも召集がかかる。
ミリアに部屋にウルズが入って来る。
「この騒ぎは、ウルズ先生の仕業ですね。」「薄氷のような結界を張る方が悪い。」「上級魔法使いが7人がかりで張った結界ですよ。」
「ミリア、お前なら強力な結界を張れるだろう。手本を見せてやれ。」「それでは、上級魔法使いが職を失います。」
「まあよい、ミリア、ウォールを従騎士に指名したそうじゃのう。」「はい、約束がありますから。」
「われは、ウォールにすべての魔法を教えている。われの秘術を教えるところだ。」「ウォールを渡せないのですね。」
「いや、ウォールが従騎士になったら、われも王都に来るだけじゃ。」「悪魔が王都に現れたら大変なことになりますよ。」
「知ったことか。」「でも、村はどうするんですか。」「では、たまに顔をだすことにしよう。」
宮殿に悪魔が出入りすることは大変なことだが、悪魔にあった人間はいないに違いない。人間だと言い張ってうやむやにするしかない。
広場には昼過ぎになると多くの人たちが集まって来る。そして、村長がやって来る。
「まあ、強い方が勝ちということでいいじゃろ。」「待ってください。騎士の試合は正々堂々と行うものです。」
「しかし、審判をする者がいないのでなあ。」「村長、ヤガン先生がいます。」「それは良い考えじゃ。」
ヤガンが無理やり審判に引っ張り出される。ヤガンは嫌がっていたが、やると決めると態度が変わる。
「双方、我らが女神に誓いを」
ラースは女神ケレスに祈りの言葉を捧げる。ウォールはやり方が分からないのでラースのまねをする。
ラースが木剣を構える。続いてウォールが木剣を構える。ヤガンが開始の合図をする。
「始め。」
ラースはウォールに打ち込めることが出来ない。ウォールの構えに隙が見つからないのだ。ヤガンはもう勝負は付いているなと思う。




