第21話 ミリアの治療
バルタザール騎士団長はざわついた会場を見て言う。
「なにが、あったのです。」「ミリア嬢の食事に毒が入っていたのだ。容疑者のロホスと執事は拘束してある。」
「ミリア様は・・・ご無事のようですね。」「バルタザール、私が毒程度で死んだりしないわ。」
「事情を教えてください。」「ここにいるパウラが私の給仕をしていたのだけど様子が変だったので会場の人々の思考を読んでいました。」
「会場の全員ですか。」「浅く読むだけならできるわ。それでロホスの執事が仕掛けをしていることに気づいたの。」
「止めることは出来なかったのですか。」「パーティーで騒ぎ立てるわけにはいかないでしょ。そして、魚料理に毒が入っていることに気づいてポイズンヒールをかながら食べたのよ。」
「無茶をしないでください。次の聖女はあなたなのですよ。」「ごめんなさい。」
「このパウラという女性は参考人として預かることにします。」「いいえ、私が保護します。彼女、魔法が使えるわ。」
「そうですか。代わりに騎士団への協力はしてください。」「もちろん。承知しています。」
私は、ダミアンを見る。すると慌てたように言う。
「私は知らなかったのだぞ。疑うなら疑えばいい。」「ダミアン王、私たちはいがみ合っている時ではありません。」
「どういうことだ。」「この国に亡国の危機が訪れると神託にあります。そして、それを防ぐのは、私と従騎士です。」
「ミリア嬢でないと国が亡ぶのか。」「神託には、そうあります。」
「分かった。ミリア嬢が聖女になったら協力しよう。」「ありがとうございます。」
これで、ダミアンが私を暗殺することは無くなるだろう。
宮廷騎士団は、執事を調べるが口が堅く調べが進まない。そこで魔法使いに思考を読んでもらう。
そして、執事はロホスの命でミリア暗殺に動き、パウラをさらって犯人に仕立て上げる。さらに料理人の一人を抱きかかえて毒を入れるように仕向ける。毒は即効で効く致死性の毒だった。
宮廷騎士団は、さらに料理人を拘束して調べるが金欲しさに犯行に及んだことしかわからなかった。
ロホスは、調べに対して、ミリアを殺せば宰相の地位をダミアン王に保証してもらったと証言する。しかし、ダミアン王は知らないと否定する。
宮廷騎士団は、これ以上、ダミアン王を追及できなかった。結果、ロホスは斬首され、執事と料理人は縛り首になる。そして、リヒテンシュタイン家は取り潰される。
私は今回の件にダミアンが関与していたと思っている。しかし、ダミアンが手を引くなら追及はしない。
パウラは母親のことを気にしていた。そこで私はパウラと母親に会いに行く。もちろん外出なので騎士の護衛付きである。
パウラに家に到着するとパウラが恥ずかしそうに言う。
「このあばら家が私の家です。」「そう、お邪魔するわ。」
警護の騎士が私を止める。
「入ってはいけません。このようなところはミリア様にふさわしくありません。」「何を言っているの。入らないと母親に会えないでしょ。」
「汚いですよ。貧民の家ですよ。」「黙りなさい。同じ国民です。騎士が守る対象でないですか、違いますか。」
「確かにそうですが・・・」
いつの間にか住民に囲まれている。住民たちは黙って私たちを見ている。私はパウラの家に入る。家には一部屋しかない。薄暗い部屋の中で窓辺にベットが置いてある。
私が近づくと血の気の無い中年の女性が眠っている。パウラが私に言う。
「私の母です。」「どこが悪いの。」
「酷く咳をしています。」
私は魔法で胸から気の流れに異常がないか探っていく。ウルズ先生は、ボディサーチと呼んでいた。もともとは敵の弱点を探る闇魔法だ。
胸をサーチすると肺の機能が衰えている。私は肺にヒールをかける。そして、パウラの母親に言う。
「起きられますか。」「あ・・体が軽いです。」
パウラの母はベットから起き上がる。
「あとはきちんと食事をとれば元気が出ますよ。」「ありがとうございます。」
パウラが涙を流して、床に正座して頭を下げる。
「ミリア様、生涯お仕えすることを誓います。」「私の力になってくださいね。」「はい。」
私とパウラが家を出ると住民から歓声が上がる。
「まるで聖女様のようだ。」「お嬢さん、すごいぜー」「奇跡だー」
パウラがみんなに言う。
「こちらはミリア様です。次期聖女様ですよ。」
歓声がさらに大きくなる。幼子を抱えた母親が前に出てくる。
「失礼は承知で申し上げます。この子を助けてください。三日前から高い熱で苦しんでいるのです。」「分かりました。助けましょう。」
断ることはできなかった。私は貧民街を出るまでに13人の治療をした。パウラが尊敬のまなざしで私を見る。彼女の中で、私はかなり美化されたようだ。
護衛の騎士たちも態度が明らかに変わる。彼らの中で、私の株は爆上がりしているのだろう。
こうして、私は貧民街の住民から圧倒的な支持を得た。




