第19話 生贄
王都ダルヴィークの西地区に貧民街があった。パウラ・ヴァイスは1日の稼ぎ銅貨1枚を握りしめて家に急いでいた。家には病気で寝込んでいる母親がいる。
裏道で人がいない所に差し掛かると黒い布で顔を隠した男が道を塞ぐ。
「パウラ・ヴァイスだな。」「はい。そうです。」
パウラは怯えながら答える。
「お前に良い仕事をやろう。一日銅貨一枚では母親に薬も買えまい。なあに簡単な仕事だ。」「何をするのですか。」
「食事を運ぶだけの、簡単な仕事だ。報酬はこれだ。この袋には金貨が入っている。薬をいくらでも買えるそ。」「そんなにいただけるのですか。」
パウラは、こぶし大の袋を見せる男に言う。この仕事には裏があるに違いない。危ない仕事だ。
「どうだ。」「断ったらどうなります。」「分かるだろ。」
男はナイフを見せる。
「分かりました。お引き受けします。かわりに前金で報酬をください。」「賢い奴だ。ほれ、薬を買ってこい。」
「はい。」「薬を母親に渡したらここに来い。逃げられないことは分かっているよな。」「はい。」
パウラは仕事が終わったら殺されると思った。だが、逃げ出すことはできない。どうせこの生活からは抜け出せないのだ。死んでも大して変わらないだろう。
パウラは、馬車に乗せられて移動し、小屋に監禁される。そこで給仕の服を与えられ。似顔絵を見せられる。
「こいつはミリア・アースだ。こいつに料理を運ぶだけでいい。簡単だろ。」「はい、分かりました。」
「お前は当日、パーティー会場に潜入するのだ。それまでここで待っていろ。」
ロホスは、男から報告を聞く。
「生贄を用意しました。」「余計な情報は知られていないな。」
「はい。料理を運ぶことしか知りません。」「ならいい。」
ロホスは、ダミアン王子に謁見して進言する。
「聖女ディアナが倒れた今、次期聖女のミリア嬢と親交を計ることが重要だと愚考します。」「何か良い案があるのだな。」
「宴を開いてお話をされることがよろしかと・・・」「良い考えだ。任せるぞ。」
エッケハルト宰相がロホスに言う。
「本当にただのパーティーでしょうな。」「そうですが、なにか。」
「ミリア嬢は神託で選ばれた次期聖女です。大丈夫でしょうな。」「私をお疑いで・・・」「いや、心配なだけだ。」
ロホスはエッケハルトを見て思う。早くその地位を私に変われ。いつまで地位にしがみついているつもりだ。
ミリアにパーティーの招待状が届く。内容は、ロホスの屋敷でパーティーを開き、ダミアン王と親交を温めて欲しいと言うものだった。ミリアは招待状をディアナに見せて指示を仰ぐ。
「パーティーを断ることはできないわね。ロホスはダミアン王と繋がっている貴族だから十分に注意しなさい。」「はい。分かりました。」
ミリアはパーティーに白いドレスを選ぶ。銀色の髪に碧い目に白いドレスは似合い雪の妖精のようだ。キルケが見て、自分のことのように喜んで言う。
「ミリア、似合っているわ。きれいよ。」「ありがとう。でも、パーティーは楽しくなさそうだわ。」
「あの、ダミアンに会わないといけないものね。」「何かあったら、叩きのめすわ。」
「一応。王様だからね。」「似合っていないのよ。」
パウラは監禁されていた小屋から馬車に乗せられる。馬車は荷物と一緒に会場に到着する。そして、黒い布で顔を隠した男は言う。
「会場に入ったら厨房で待て、渡された料理を運ぶのだ。」「はい。」
パウラの手に汗がにじむ。




