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第16話 ミリア、切れる

 ダミアンが私を追いつめるつもりか、饒舌に話をする。

 「お前の服を少しづつ切り裂いてむいてやる。羞恥に歪む顔が見たいぞ。」

剣の腕は立つのに騎士としては最低のド変態だ。ダミアンが低い姿勢で踏み込む。木剣が地を這うような低いとこるから切りあがって来る。私は木剣で剣筋をずらしてかわすが、服を飾っているフリルが切り裂かれて宙を舞う。

 「良く反応したな。ベルトを切り裂いてやろうと思ったのにフリルだけだったよ。」

こいつ完全に遊んでいる。ダミアンの間合いが広いため、私は防戦に回ることになる。早くダミアンの間合いを計らないとまずいことになる。

 ダミアンは間合いを詰めて私を袈裟切りにしようとする。私は木剣で受け流し、ダミアンの後ろに回り込む。そして、すかさず上段から打ちこむ。

 ダミアンは木剣で受けてつばぜり合いになる。力はダミアンの方が上だ。私を押しのけると右足で蹴りを繰り出し、私の左足を蹴る。キルケが叫ぶ。

 「蹴るなんて卑怯よ。」

私は卑怯とは思わない。戦いになれば、全てを使って勝たなくてはならない。負ければ死ぬのだ。私はこちらの方が性に合っている。

 ダミアンが私の胸元を狙って突きを繰り出す。私は半歩前に出て半身になりかわすが胸元のボタンが木剣ではじけ飛ぶ。ダミアンが好色そうに笑う。

 私はすれ違いざま、ダミアンの横腹に右のこぶしを打ち込む。ダミアンはよろけて左の横腹を手で押さえる。今のは完全に入った。かなり痛いはずだ。

 私は、すかさず腹を狙って胴を打ち込む。ダミアンは木剣で剣筋をずらしてかわすと上段から打ちこむ。私は踏み込んで前に出て木剣を右手に持った木剣の柄頭で受け、右ひざをダミアンの無防備な腹に蹴り込む。

 ダミアンはうずくまる。私は容赦なく木剣で上段からダミアンの右肩に打ち込む。確実に骨が折れたはずだ。だが、ダミアンは降参するどころか、怒りを爆発させる。

 「田舎娘がやったなー、殺してやる。」

怒りで痛みは感じないようだ。ダミアンは、木剣を左手に持って、再び距離を詰めて上段から打ち込んでくる。私は、木剣を打ち払って、左肩を狙って打ち込む。

 ダミアンは木剣を横に振って、私の打ち込みを打ち払う。私は木剣を大きく引いて、前に踏み出すとともに突きを繰り出す。狙いは左肩だ。ダミアンは避けずに右手で私の服を握る。

 私の木剣は左肩を貫く。ダミアンは後ろに下がって木剣を抜くと共に右手で私の服を引き裂く。

 「どうだ。いい格好だ。泣き叫べ。」

私の心の奥で我慢していたものが切れる。私は全力で木剣を上段から打ちこむ。ダミアンは木剣を使おうとするが私の方が早い。木剣はダミアンの額を割る。

 私は止まらない。ダミアンの剣より数段早い剣で打ちのめし続ける。ダミアンは倒れることが出来ない。宮廷騎士が数人がかりで私を止める。

 ダミアンは打ちのめされながら気を失っていた。ディアナが布を持って来て私にかぶせてくれた。

 「ミリア、はしたないですよ。でも、よくできました。」

ディアナが優しく微笑んで言う。ディアナもダミアン王子には手を焼いていたのだろう。キルケが泣きながら抱き着いて来る。

 「ミリア、すごいよ。勝ったのね。」「ええ、文句は言わせないわ。」

ダミアンか担架で運ばれていくと騎士団長のバルタザールが声をかけてくる。

 「よくやってくれた。宮廷騎士団に欲しいくらいだ。」「ダミアン王子を応援していたのではないですか。」

 「副団長のカールを叩きのめしたんだ。応援できると思うかね。」「ダミアン王子が王位を継ぐのではないですか。」

 「そうなんだ。頭が痛いよ。」

バルタザールは仕える主に恵まれないようだ。ダミアン王子は十数か所の骨折で寝込むことになる。

 試合からキルケや私にダミアンから接触はない。このまま約束を守ってほしい。

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