第14話 ダミアン王子、試合を申し込む
私が宮廷騎士団に戦いを仕掛けたことは、宮殿中のうわさになる。
「次期聖女のミリア様は騎士団員に戦いを挑んで戦いに勝ったけど、すぐに無謀にも副団長のカール様と戦って負けたそうだ。」
「問題はそこじゃないよ。ダミアン王子の剣の腕が大したことないと言ったそうだよ。」
「これは、ダミアン王子も黙っていないぞ。」
ディアナの耳にもうわさはすぐに入る。私はディアナに呼び出される。
「ミリア、何をしているのです。ダミアン王子に謝罪に行きますよ。」「その必要はありません。」
「どういうつもりですか。」「私がダミアン王子を叩きのめすからです。」
「訳を言いなさい。理由があるでしょ。」「戦いの賭けに、キルケに手を出さないように約束させます。」
「負けたらどうするのですか。王子に何を差し出すのです。」「私です。負けたら私を自由にしていいと持ち掛けます。」
「負けたらひどい目に遭いますよ。」「勝てます。騎士団の実力は分かりましたから。」
「副団長のカール様に負けたのでしょ。」「わざとです。カール様も気づいています。失礼なことをしたと思っています。」
「キルケを助けてくれるのですね。好きなようにしなさい。」「はい、キルケを助けます。」
ディアナもキルケのことが心配だったようだ。最低の男に娘をやる親はいないだろう。
うわさはダミアン王子の耳に入る。
「次期聖女は田舎者のくせに俺を愚弄するのか。切り殺してやる。」「お待ちください。相手は神託で聖女に選ばれています。殺すのはまずいです。」
「だったら試合をして叩きのめしてやる。地面に這いつくばらせて、許しを請うようにしてやる。」「その方がよろしいかと思います。」
ダミアンの付き人は、ダミアンの言葉に迎合しながら、悪趣味だと思う。
魔法訓練所で私とキルケはディアナの指示のもと魔法の訓練をしている。魔法訓練所には強力な防御結界は三重に張られていて、魔法が暴走しても大丈夫なようにしてある。
私だったらこの程度の結界はいつでも破ることが出来る。ディアナが魔法訓練所のことを自慢げに説明したので結界を破れることは黙っている。
そこへダミアン王子が入って来る。キルケは私の影に隠れる。
「どうしたキルケ。なぜ田舎娘の影に隠れる。美しい姿を見せておくれ。」「キルケは王子のことを気持ち悪いと思っています。出て行ってください。」
「田舎娘、お前には聞いておらんぞ。」「剣の腕も大したことないんですし、取り柄が無いのだから、出直すべきですね。」
「ぬけぬけと、決闘だ。叩きのめしてやる。」「受けてあげても構いませんが、負けたら、今後、キルケに近づかないでください。」
「俺が勝ったらどうする。」「私を自由にしてもいいですよ。」
ダミアン王子は私を嘗め回すように見る。相当に気持ち悪い。キルケの気持ちがよくわかる。
「いいだろう。田舎者だが楽しめそうだ。俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる。」
ダミアン王子の顔がいやらしい笑みで歪む。これは絶対に負けられない。
「試合は三日後、闘技場でよろしいですか。」「いいだろう。楽しみにしているぞ。」
ダミアン王子はこの後、騎士団長のバルタザールの所へ行って、訓練を始める。こういうことには労を惜しまないらしい。残念な王子だ。
私の所に副団長のカールがやって来る。
「練習相手が欲しいだろう。私なら練習相手になると思うがどうかな。」「怒っておられないのですか。」
「試合で手を抜いたことか。」「はい。失礼なことをしました。」
「私に勝ったら、王子は試合を申しこんだりしないだろうからな。そういうことだろう。」「お見通しですか。練習相手をお願いします。」
カールは私の練習相手に申し分なかった。ウォールには及ばないが、ミハス村ではまあまあの腕だろう。ミハス村の男たちはヤガン先生の弟子だから宮廷騎士団より強いことは仕方がない。




