第13話 ミリア、動く
私は魔法に関しては問題なかったが、一般常識は全然ダメだった。特にダンスは壊滅的である。そのため、部屋に戻ってからの復習は欠かさない。
今夜は宮殿内が騒がしい、また、曲者でも出たのだろうか、ウォールが私をさらいに来てくれたのならうれしい。ありもしないことを考えながら机に向かう。
うわさでウォールは王様の不興を買っているらしい、キルケが言うには暗殺されてもおかしくないということだ。
私は逃げ出してウォールと他国へ逃げた方が良いのではないかと考えもしたが、ミハス村には、ヤガン先生とウルズ先生がいるので大丈夫に違いない。
すると部屋の中に気配がする。この魔力の感じは懐かしい。
「ウルズ先生、こんなところへどうしたのですか。」「弟子の顔を見に来たのですよ。元気ですか。」
「私よりウォールを見ていてください。」「殺されそうですか。」
「知っていたのですか。ええ、もう心配ありませんよ。」「もしかして、王様を殺したんですか。」
「やはり、ウォールより頭の周りがいいですね。」「ウォールは大丈夫なのですね。」
「私はまだ全てを教えていませんから、死なせませんよ。」「ウォールをお願いします。」「わかりました。」
私の心配事が一つ消える。次の朝、私はキルケに起こされる。
「大変よ。アウグスト王が崩御されたわ。」「それは大変ね。」
「何落ち着いているのよ。」「だって、ウォールが暗殺される恐れがなくなったもの。」
「ミリア、あなたはいいけど。私は大変なのよ。」「どうしたの。」
「ダミアン王子が王位を継いだら、私、妃にされてしまうわ。」「嫌なの。」
「当然よ。アウグスト王より性格が悪いのよ。」「噂だけでしょ。」
「あったことあるけど最悪だったわ。」「酷いことされたの。」
「部屋に連れ込まれて押し倒されたのよ。バルタザール騎士団長が気づいて止めに入らなかったら・・・」
キルケは泣き出す。よほどショックだったのだろう。私なら叩きのめして二度と近づかないようにしてやるけど。
キルケによるとダミアン王子はことあるごとに絡んでくるらしい。さらに月に一通は恋文が送られてくるという。キルケにとっては気持ち悪い相手に違いない。
そして、父親が亡くなったばかりだというのにキルケに手紙がダミアン王子から送られて来る。手紙の内容はキルケを不幸のドン底に叩き落す。
手紙には、「王位を継ぐと同時にキルケを王妃にする」という内容だった。私はキルケを助けようと思い、ダミアン・リーム第一王子について調べることにする。
すぐにダミアンは女の敵だとわかる。貴族の令嬢で泣きを見ている者が何人もいることが判った。頭も悪いようで家庭教師が手を焼いているようだ。
そんな王子に特技があった。剣技に優れていたのだ。宮廷騎士と互角以上の腕前を持つらしい。
私は賭けに出ることにした。木剣を持って、宮廷騎士が訓練している闘技場に乗り込んだ。私が闘技場に入ると注目される。
「だれか。私と戦いなさい!」「ミリア様、お遊びではありませんよ。」
「逃げるか。臆病者!」「・・・・・」
宮廷騎士も臆病者と言われてはそのまま済ますわけにはいかない。私に向かって木剣を構える。私のミハス村では一人前の扱いを受けている剣の使い手だ。
騎士は私より大きいが、グレイグリズリーに比べれば大したことはない。騎士が上段に木剣を振り上げ打ち込もうとする。早いがミハス村の男たちの方が早い。
私は一気に距離を詰めて中に入ると騎士の首に木剣を軽く当てる。負けた騎士は崩れ落ちる。
「宮廷騎士はこんなものか。ダミアン王子は剣が優れているというが大したことないな。」
私は大声で言う。宮廷騎士以外にも聞かせるためだ。私は闘技場を後にしようとする。
「待て、私が相手だ。」「まだやるのですか。」
「私は、副団長のカール・バール。騎士へ気合を入れてくれたことは感謝するが、このままでは面目が断たない。お願いだ。」「分かりました。」
カールが木剣を構える。相対するだけでわかる。かなり強い。村の男たちと互角だろうか。カールは上段に振りかぶって打ち込んでくる。
私は剣筋をずらして半身になりかわす。騎士たちがざわめく。
「副団長の打ち込みをかわしたぞ。」「やるなー」
このままではダミアンが釣れなくなってしまう。それとなく負けるしかない。私は胴を打ち込む。カールは返す刀で木剣を振り上げる。私の打ち込みは防がれる。
私はわざと木剣を手放す。私の木剣は飛んでいく。
「やったー、副団長の勝ちだー」
騎士たちが騒ぎ出す。しかし、カールは私を睨んでいる。これは、手を抜いたことがばれているなーごめんなさいこれも作戦なんです。




