第10話 ウルズ、仕置きをする
昼過ぎから始まった祭り騒ぎは夜になっても続く。ウルズは「グレイグリズリー一匹殺しただけでよく騒げる」と思う。
さあ、王都へ行きましょうか。ミリアだけでなく、ウォールまで私から取り上げようなんて、ひどい人たちですわ。
ウルズは、村人に気づかれないようにミハス村を飛び立つ。そして、高速で空を飛び30分ほどで王都ダルヴィーク上空に到着する。
「愚鈍で根に持つ性格の王に会うとしましょうか。」
ウルズは宮殿に降りていく。上空には魔法使いが張った防御結界があるが、ウルズにかかれば無いのに等しい。結界は軽々と破られる。
魔法使いたちが結界の破壊に気づき騒ぎ出す。騒ぎは聖女ディアナにも聞こえる。
「結界は上級魔法使い5人がかりで張ったものですよ。」「しかし、何者かに破壊されました。」
「宮廷騎士に知らせて侵入者をとらえなさい。」「はい、すぐにそうします。」
ウルズは、アウグスト王の寝室に忍び込む。アウグストは酒を飲んでいた。侵入したウルズに気づいていない。
「これがこの国の王ですか。」「だれだ。」
アウグストが見ると白髪の赤い目の美女が立っている。
「夜伽を呼んだ覚えはないぞ。だが、いい女だ。こっちに来て酌をしろ。」「まさか。誰もが言うとおりにするとでも思っているのですか。」
「私はアウグスト・リームだぞ。言うことが聞けないのか。」「本当に愚鈍ですわ。」
「私を馬鹿にするのか。誰か、この女を捕まえよ。私が直々に教育してやる。」「誰も来ませんね。」
「誰かー、私が呼んでいるのだぞ。早く来ないか。」「無理ですわ。この部屋の音は外に聞こえません。そのようにしていますから。」
アウグストは傍らに置いてある剣を抜く。ウルズは右手を前に出して握る。すると、剣が砕ける。
「なんだ、これは魔法か、詠唱していないではないか。」「詠唱なんて愚か者のすることですわ。」
「わ、わかった。私に仕えることを認めよう。好きな地位を与えるぞ。そうだ、聖女はどうだ。」「私が愚鈍な王に仕えると思うのですか。」
「な、何が目的だ。財宝を欲しいだけくれてやる。帰ってくれ。」
ウルズは暗殺者が持っていた吹き矢を取り出す。アウグストは吹き矢を見てもわからない。
「吹き矢をどうするつもりだ。」「これは、ミハス村に来た暗殺者が持っていた物です。」
「暗殺者?」「覚えていないようですね。ウォールを暗殺しようとしましたね。」
「ウォール、あのクソガキか、死んで当然だ。」「ウォールは私の弟子ですの。吹き矢はお返ししますわ。」
ウルズは吹き矢を吹いて矢をアウグストに当てる。矢には致死毒が塗ってある。アウグストは床に倒れて口から泡を吹く、そして、けいれんし始める。
アウグストはウルズに何か言いたそうだったが言葉は出ない。ウルズは冷たい目で見降ろしている。アウグストは動かなくなる。
「無様な死に方ですね。ミリアの顔を見てから帰るとしますか。」
ウルズは窓から外に出るとミリアの魔力をとらえて、ミリアの部屋へ向かう。ミリアは聖女になるための教養の勉強をしていた。
魔法で聖女を越えても村娘のミリアは教養が備わっていなかった。このため夜遅くまで勉強していた。
そこへ、ウルズが入って来る。
「ウルズ先生、こんなところへどうしたのですか。」「弟子の顔を見に来たのですよ。元気ですか。」
「私よりウォールを見ていてください。」「殺されそうですか。」
「知っていたのですか。ええ、もう心配ありませんよ。」「もしかして、王様を殺したんですか。」
「やはり、ウォールより頭の周りがいいですね。」「ウォールは大丈夫なのですね。」
「私はまだ全てを教えていませんから、死なせませんよ。」「ウォールをお願いします。」「わかりました。」
ウルズは微笑むと部屋を出ていく。しばらくして、アウグスト王の死体が見つかり大騒ぎになる。




