第九話
「……は?」
気がついたら、視界が変わっていた。
数十人がある空間に集まり、黒板を見ながら先生の話を聞いている。一瞬いつもの教室かと思ったけど、明らかに狭いし、手に持っているのは羽根ペンじゃなくてシャーペンだ。
そして、黒板に書かれている文字は『日本語』だった。黒板の上に掛けてある時計も、前世でよく見た数字が書かれている。
その時計が指す時間と黒板に書かれている内容から察するに、今は午後の数学の授業中。昼食を食べた後だから、周りの皆は眠そうにしている。実際、俺も少し眠たい。
え、ちょっとまて。確か俺は、アムティアの側にダミアンといて、もう少しで仕事に戻ろうとしたところで……そうだ、アムティアが身に付けていたネックレスが光って……
俺は、前世のところにいると。
いや、意味がわからん。
でも、状況を考えるに、十中八九光っていたネックレスが原因だよな。どういった原理なのかは分からないけど、本当になんで前世のところへ……
あれ?
「この教科書、中身が真っ白……?」
「え?どうしたの?急に何か言って」
俺の独り言が思いの外大きかったんだろう。数学の先生がこちらにやってきた。
俺は言い訳をしようとして先生の方を向き、気が付く。
「……い、いえ、何もありません」
「そう?なら授業に戻りますよ。ほら○○!昼食後だからといって寝たら駄目でしょ!」
あはは!と、笑う生徒たち。ごめんなさい~と、謝る生徒。それを聞いて、ノートも書いてないじゃないの!と、さらに叱る先生。
みんな、ただの人形だった。
顔も、服もないただの人形。アパレルショップによくあるマネキンみたいな。
「どうしたんだよ、ゆうと?顔が真っ青だぞ?」
誰かが俺に声をかける。ああ、もう授業が終わったのか。
「この問題が分からないなら私が教えますよ!」
「あ、ずるい!あたしも教えたい!」
「それなら自分が!」
前世ではいつも通りだった、女子たちの声。
全員、マネキンの人形。
俺は、恐怖で動けなかった。
「お前ら、ひかりちゃんを見習えよ。ゆうとに迷惑だぞ?」
「ひかりちゃんは別よ別!あんな天使な子と比べないで!」
「そうだよ!ひかりちゃんは特別なんだから!」
そうだ、妹は、ひかりは……
ひかりも、人形、なのか?
嫌だ。そんなの嫌だ。
たった一人の妹だ。父さんは仕事第一で家に帰ってこないし、母さんはいつも父さんとは違う男と出掛けて俺たちを虐待していた親だったから、俺たちは二人で生きてきたと言っても過言じゃない。
そんな、俺の光が、ひかりが人形だなんて、信じたくない。
そうやって、頭が混乱していた時だった。
「ゆうと~!一緒に帰ろ~!」
バッ!
俺が顔を上げると、ひかりは急に顔を上げた俺にびっくりしたのか、驚いた顔をしていた。
急いで走って来たのか、せっかく朝整えた髪の毛が乱れている。
ああ、良かった。
ひかりは、人形じゃなかった。
……あれ?じゃあ
何で、俺とひかりは、普通なんだ?
……そういえば、俺がこの場所にいる理由は、元を辿ればアムティアが倒れたこと。
アムティアは急に授業中に倒れ、保健室へ連れて行かれた。
そして、恐らくアムティアのネックレスが原因。
最近着けるようになった、ネックレス。「自分の好みドンピシャだから!」と、アムティアはいつも着けていた。
ネックレスに何か細工がなされていたのだと仮定すると……ここは前世の世界では無くて、あのネックレスが俺に幻覚を見せているか、別の空間へ飛ばしているのだろう。
何故他の人達がマネキンなのかは分からないが、今のところ俺とひかりのみが普通の姿だ。
つまり、俺とひかりには何かしらの共通点があるはずだ。
そして、今現在において考えつく共通点は……




