第七話
アムティアが倒れた。
経済に関する授業を受け終わった俺の元に、その情報が入ってきた。そのことを聞いた時、何故か俺の心はざわついた。
アムティアが倒れたのは、ある魔法に関する授業中。特に何も異常は無かったアムティアが急に倒れたので、クラス中は大パニックになったらしい。
俺はその知らせを聞いて、すぐさまアムティアが運ばれて眠っている保健室へと向かった。
その道中、俺の頭の中は混乱していた。
どうして、女神であるアムティアが倒れたのだろう?あの子は所々抜けているとはいえ、警戒心が無いわけじゃなかったはず。もしかして、神の力でも解決できない何かがあったのか……?
「あ、ダミアン」
急に声を掛けられて肩が上がる。バッと後ろを振り返ると、見知った人が俺に向かって手を振っていた。相手は駆け足で走って来ていて、すぐに俺に追いついた。ちょっと息が乱れている。
「ジルヴィン様……?」
俺は驚きの気持ちをそのまま声に乗せた。
何故、ここにジルウィン様がいらっしゃるのだろうか。俺はジルウィン様と同じクラスだが、先程までは教室に居なかった。それに関しては、ジルウィン様はいつも通り忙しいのだろうと考えていたのだが……。
そこまで考えて、俺は相手の目的に気付く。
「ジルヴィン様も、アーティ……アムティアを?」
「ああ」
「……ジルヴィン様は忙しいんじゃないんですか?」
俺がそう問うと、ジルヴィン様は少しためらいながら答えた。
「今までしていた仕事は、急いで片付けてきた。アムティアのことは、学園内にいる従者達からの報告で知った。
まあ、その時に俺の周りにいた奴らはまだ何も知らなかったから、皆には緊急の仕事を思い出したので片付けると言って抜けてきた。バカ正直にアムティアの方へ行くと言ったら、アムティアと強制的に婚約させられるかも知れないからな」
「あ~」
そうか、この人王太子でまだ婚約者がいないからな。普通にジルヴィン様を見たらソフィアのことが好きだと……いや、好きすぎるのだと分かるけれど、王宮の人達は悪い意味で平和ボケしているからなぁ。こう、『疑う』という行動がきちんと出来ない人が多い。
いつも関わっている女性に会う、なんて言ってしまったら、「王太子様にもようやくそのような方が……!」などと勘違いしてすぐ外堀を埋めようとするだろう。
アムティアが有能なのも原因だな。アムティアもソフィアもとても優秀だが、正直ソフィアよりもアムティアの方が優秀だ。アムティアは五百年生きているから、経験の差がものすごい開いているってだけなのかもしれないが。
……そういえば、
「ジルヴィン様は、アムティアのことをどれだけ知っていますか?」
ふと疑問に思ったので聞いてみた。
ジルウィン様は言う内容を纏めるように、顎に手を当てて少し考え、口を開く。
「五百年生きている女神。ソフィアがヒロインで俺たちが攻略対象者の乙女ゲームを見たいが為に神になった転生者だな」
ものすごく知ってた。
「あと、俺もアムティアと同じく転生者」
何気ない表情で、ジルウィン様はとんでもない発言をした。
転生者って……それ、初耳なんだけれども。
「それと……自覚してないだけで、お前に恋している」
「え?」
ついでとばかりに付け足された情報に、俺は驚愕した。
アムティアが、俺に恋を……?
「まさか、お前も自分の気持ちに気づいてなかったのか?あんなにラブラブなのに?」
ジルウィン様は大袈裟に目を見開いて驚く。
いやだって、アムティアは俺がアピールしても、他の女達のように全然靡いてくれない。いつも素っ気ない態度で、俺の行動は効果が無いのだと思っていた。
それに、俺がアムティアに学園に通ってほしいって誘ったのは、ただの退屈しのぎだったし……。
……でも、アムティアに会うのは、とても楽しかったような。女と遊ぶ、という行為は同じなのに、今まで感じていた嫌悪感は無かった。
「……俺は、お前の過去は知っている。だからこそ、その恋心を自覚しなかったってことも納得はできる」
「……俺は、アムティアに恋しているんでしょうか?」
そう俺が呟くと、ジルヴィン様は困ったような顔をした。
「そういうのは、自分で考えるものだ」
自分で……。
「着いたぞ」
ジルヴィン様にうながされ、アムティアがいる病室へと入る。
「アムティア」
アムティアは、病室の端にあるベットの上で気を失っていた。一見ただ寝ているようにも見えるが、血の気が失せていて、呼吸は浅い。
まるで、精巧な人形のようだった。
「アムティア、アムティア」
声をかけても、体を揺さぶってみても、アムティアに変化はない。
どうして……
「何で、目を覚まさないんだよっ……!アムティア……!」




