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第十四話

「お前……!!」

今にも殴りかかりそうな勢いでダミアンが前のめりになる。

「ちょ、ちょっと待って二人とも!」

慌てて私は両腕を広げて割って入った、その瞬間



「アーティっ!!」



ぱぁん、と裏庭の扉がまた勢いよく開いた。

三度目の衝撃音に、私の心臓はもはや爆発寸前だ。


「え、えぇ……?」

「……は?」

三人同時に振り向いた視線の先に立っていたのは……ソフィアだった。

桜色の髪を揺らし、潤んだ瞳でこちらを見つめている。まさに、『ヒロイン』の風格そのものだ。


「そ、ソフィア!?なんでここに!?」

「だって、アーティが急にいなくなっちゃったから!心配で、皆で探してて……」

ソフィアは胸に手を当て、小走りで駆け寄ってくる。

「それに、なんだか声が聞こえて……あの、もしかして……邪魔しちゃった?」


一瞬の沈黙。



「「「………」」」



「……邪魔どころか、大邪魔だよッ!!!!」

ダミアンが全力で叫んだ。

「誰がどう見てもラスト一歩だったでしょ!?雰囲気台無しだよ!ッそうだ、ジルウィン様が先にぶち壊したんですよ!」

「俺だけの責任にするなよ!俺は物陰で見守るって言ったじゃねぇか!」


私とソフィアはぽかんと顔を見合わせた。

なんで、先程から乙女ゲームの告白イベントが修羅場漫才みたいになってるんだろう……。


ソフィアはおろおろと手を振りながら、私の腕にしがみついてきた。

「アーティが困ってるなら、私も一緒にいるからね!」

「ソフィアまで何守ろうとしているんだ!?アーティを守るのは俺の方だろ!!」

「いや、それに関しては兄である俺が守るに決まってる!」


本来ならロマンチックな告白イベントの舞台なのに、どうしてこんな修羅場コメディになってしまったのか。

真相は私にも分からなかった。




………




「……それで、あのお二方は荒れているということですわね」

「はい……」

少し呆れた様子のイザベラに、私はため息をつきながら同意した。



ダミアンとジルウィン、そしてソフィアの怒号とツッコミが飛び交う裏庭をそのまま放置しておくわけにもいかず、取りあえず三人まとめて引っぺがし、先に校舎へ戻った私達。


廊下の曲がり角を抜けると、待っていたのは既に校舎の中へ入っていた皆だった。


「皆様遅いですよ! ダミアン様とアムティア様がいなくなったので探していたのですが……裏庭で何があったのです? さっき爆発音がしましたけれど、まさか怪我でも?」

涙目のアリアに問い詰められ、私達は顔を見合わせる。

「……半分正解だ」

視線をそらしながらジルウィンがぼそりと答えると、アリアはさらに青ざめた。

「ではやっぱり怪我を!?」

「いや、正解なのは爆発音の方で……俺達は誰一人として怪我はしてない、と思う」

正直、爆発したのは精神的な方なんだけどね。

私はさっきの裏庭の混沌を思い出し、苦笑いを浮かべた。


その隣では、ソフィアが心配そうに覗き込んでくる。

「アーティ、本当に怪我は無い? ……ごめんなさい。私、場を壊してしまって」

「いやいや、場を壊したのはダミアンとジルウィンだから! むしろソフィアは普通にヒロインムーブだったよ!」

「む、ヒロインムーブ……?」

首をかしげるソフィアに、ジルウィンが「気にしない方がいい」と即座にフォローを入れる。


「いや、そもそも邪魔してきたのはジルウィン様ですけど?」

「だから俺は、すみっこで見てるだけで良かったんだって!」

「はいはい、二人ともそこまでです!」

また口喧嘩を始めようとする二人を、アルレッドが腕力で引き剝がした。

騎士志望の彼は力が強すぎて、二人とも掴まれた肩を押さえながら顔をしかめている。

けれど、お互い睨み合いだけは全然止まらない。

「二人とも、落ち着いてください」

スムトが宥めに入るけれど、まるで効果はなかった。いつもなら二人ともスムトのお願いには耳を傾けるはずなんだけどなぁ。


そんな二人を見て、ソフィアが不安そうに私の袖を引いた。

「その……本当に、大丈夫?二人とも、アーティのことになると、すごく熱心で……」

「熱心……ねぇ」

なんとも言えない表現に、私は思わず肩を竦める。


すると、イザベラがふっと笑った。

「まあ、仕方がないですわね。アムティア様の周りは、昔からこうなる運命なのでしょう」

「……そうかもね」

私は口元に笑みを浮かべながら、廊下の窓の外へ目をやる。

暮れかけた空に、少し冷たい風。

その中で、賑やかな声と誰かのツッコミが響き渡る。



乙女ゲームのイベントは、もっと甘くて綺麗で、完璧なロマンスのはずだった。

でも……こうして騒がしく、誰かに振り回されながら笑ってる今の生活も、案外悪くないかもしれない。


小さく息を吐き、私は呆れたように、でもどこか楽しげに微笑んだ。


「……まあ、これも私の物語ってことで、いいか」






………



「ふむ。I-20の『物語』も、なかなか面白かったな」

パシリ、と小気味よい音が夜空に響いた。

その音の主は、学園の屋根の上でのんびりと寛ぐ存在だ。


「ある世界で亡くなった魂を、別の世界へ送る……これは初めての試みだったが、アムティアを女神にして正解だった。おかげで退屈せずに済んだ」

満足げに頷くその姿には、揺れる尻尾がひときわ目立つ。

その存在はひとしきり景色を眺めると、ゆらゆらとした尻尾を動かして、新たな世界を形作り始めた。


「次は……あれにしてみるか」

そう呟くと、存在は夜空の中へ溶けるように消えていった。


これで本編は終わりです。ここまでお読みいただきありがとうございます。


本編では読みやすさを重視して、主にアムティア視点でお送りいたしました。

これからは番外編ということで、アムティアが女神になるまでの話(女神になるまで編)や、各乙女ゲームのキャラクター達の掘り下げ(仲間達のお話編)に移りたいと思っています。

話は全然書ききれてないので、毎日投稿は難しく不定期にはなりますが、楽しみにしていただけたら幸いです。


よろしければ、評価やブックマーク、感想をお願いします。

最後に、後書きまで読んでくださりありがとうございました!

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