第十三話
「アーティ」
ダミアンがにやりと笑い、顔を近づけてくる。
近い、近すぎる!あと数センチで、唇が触れ……
「うおりゃぁーー!!!」
ドゴォォンッ!
裏庭の扉が爆音を立てて開いた。
「ッッッッ!?」
「ぶはっ!?」
反射的にダミアンは飛び退き、私は思いっきり咳き込んだ。
なんなの今の乱入音!?魔法の爆発でも起きた!?
「お、よかった!こんな薄暗い裏庭で二人きりとか怪しいから来たけど、まだ未遂だったな!」
飛び込んできたのは、よりにもよってジルウィン。満面の笑みで右手をサムズアップしながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「……え?」
「……ジルウィン様……!」
ダミアンのこめかみに青筋が浮かぶ。せっかくの『イベント』をぶち壊された怒りが、チャラ男スマイルの裏に隠しきれてない。
「いやー、ギリギリセーフ!あっ、続きは俺に構わずどうぞ!俺は物陰に隠れてイベントを見るだけで」
「ッ黙ってくださいジルウィン様!!」
「とわっ!?」
ダミアンの怒鳴り声が裏庭に響き渡り、ジルウィンが肩をすくめて後ずさる。
その横で私はといえば……
顔が真っ赤なまま、心臓がバクバクしていた。
……危なかった。あと一秒で、本当にキスされてたかもしれない。
「……クソ、あと少しだったのに」
ダミアンが小声でぼやく。その不満げな横顔は、夕日の影に隠れてよく見えなかった。
でも確かに……ほんの少し、寂しそうな気配があった。
「いや~でもさ、さっきの雰囲気、すごくよかったぞ?」
ジルウィンが悪びれもせず、にやにやと笑う。
「夕日をバックにイケメンが告白!からのキス寸前!……『マコアイ』でもここまで完璧なシチュは無かったんじゃないか?」
「……ジルウィン様」
ダミアンの低い声が響いた。チャラ男特有の軽さは一切なく、代わりにギラリとした怒気が宿っている。
「貴方……死にますか?」
「え、なんでだ!?俺はただ『観客』として応援してるだけじゃないか!」
「応援の仕方がぶち壊しなんですよ!!」
「でもー、ほらアムティアも顔真っ赤にしてるしさ!ね?俺の妹可愛い〜!」
「~~~~~~ッ!!」
ダミアンが一瞬で爆発した。
「ジルウィン様!!アーティに気安く触れないでください!見るな!呼ぶな!呼吸するなッです!!」
「最後の理不尽すぎないか?それに、アムティアは俺の妹だけど?妹を可愛いって言ってなにが悪いんだ?」
「それは『前世』の話でしょう!?貴方にはソフィアがいるんですから、もう誤解を招くような言い方はしないでください!!」
「ちょ、ちょっと!二人とも大声出さないで!裏庭に響いてるから!」
二人が喧嘩を始めてしまうから、私は両手を振って止めに入る羽目になった。
けれど止めながらも、ジルウィンに「可愛い」なんて言われた瞬間、胸の奥がさらにドキドキしてしまったのは否定できなかった。なんせ、前世では直接褒め合うことはなかなか無かったし。
その視線に気づいたのか、ダミアンはぐっと私を背にかばうように立ち、ジルウィンを睨みつける。
「……アーティは俺のだ。誰にも渡さない」
「うわぁ、独占欲全開だな」
ジルウィンが肩をすくめる。
「でもな、そういうの、余計にフラグ立つんだぞ?」
「お前……!!」
ふたりの間に、また火花が散った。
……ほんと、誰かこの騒がしい攻略対象たちを止めてください。