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第十話

「ひかり……」

いつも通り、ゆうとに一緒に帰ろうと声をかけただけだった。

私の声に反応して、バッ!と上げたゆうとの顔は、とてつもなく真っ青だった。

だから、すっごく驚いて、

「ゆうと、何でそんなに真っ青なの!?」

と聞いたら、

「え……だって、みんな人形で……」

って言った。

私は、ゆうとが言った『人形』の意味が分からなかった。


「え?人形ってなに?別にみんな普通でしょ?」

ゆうとは、何故か酷く傷ついた顔をした。

そして、急に私の手を引っ張って教室の外に出た。

「ちょっ、ゆうと何!?」

「行けば分かる」

行けば分かるって、そういうことじゃない!




ゆうとに連れられて来たのは、学校の屋上。

ここで何が分かるというのだろう。

やっぱり……と、ゆうとがこぼす。

「やっぱりって、どういうこと?」

私がそう問うと、ゆうとは、

「景色を見てみろ」

とぶっきらぼうに言い放った。


景色?そんなの、のどかといえば聞こえは良いけれど、なんにもないただの田舎の景色が広がっているだけで……?




……え、これ……


「真っ、白……?」

緑とか、赤や黄色とかの自然の色はなく、ただ真っ白な空間が広がっていた。そして、真っ白な空間の中に、学校の校舎だけがポツンと浮かんでいる。

「どうして……」



「ここは、あのネックレスが生み出した空間なんだ、アムティア」

アム……ティア……?

「ゆうと、アムティアって、誰?」

「アムティアはお前。ひかりの来世だよ」

「来世?ゆうと、何を言って……」

「お前は、あの乙女ゲーム『真実の愛を貴方と共に』の五百年前に生まれ、乙女ゲームを見たいがために女神になった。ダミアンと出会い、ソフィアと出会い、他にもたくさんの人と出会ってただろ?」

ダミアン?ソフィア?なんでゆうとが『マコアイ』のことを知っているの?


「そして、俺はジルヴィンに転生した。……ひかり、お前はあの時死んだんだ。俺と同じく、トラックに引かれて」


トラックに、引かれて。










……ああ、そうだ、なんで忘れていたんだろう。

あの時、私はゆうとと一緒に帰っていて、そこにトラックが突っ込んできて……



ゆうとと一緒に、死んだんだ。



そうだ、そうだ。来世で生まれた時にはもう覚えてすらいなかった。

今も、生まれ変わったことを忘れてた。



私、本当にバカだなぁ。



「ご、めんなさい……わた、私、ゆうとのこと、すっかり忘れてて……」

「それは後でお返しするが……今は、泣く時じゃないだろ?」

そうだ。確かに泣いている場合じゃない。


私は唇をギュッと噛んで、顔を上げる。

「そうだね。元の世界に、戻らないと」

「うん。それでこそ、アムティアだよ」

ゆうとは……ジルヴィンは、私の頭を撫でた。


二人とも目元にはまだ、雫が残っていた。



………



「多分、この世界から出ないと、戻ることはできないと思う」

おもいっきり泣いた後、私たちは元に戻る方法を考えていた。

「でも、どうやって出るの?」

「それを今から考えるんだよ」

ジルヴィンに怒られた。ひどい。

「ん~、学校の中に出口があるんじゃない?」

「お前……、その出口があるかも分からないし、もしあるとしても、それが出口だって分かるのか?」

ムッ、私は私なりに考えたのに!

まあ、一理ある。私だって誰かを閉じ込めるとしたら、出口は作らないもんね。でも……、

「少なくとも、私たちが入ってきた『入口』があるじゃん」

私の言葉に、ジルウィンが顔を上げる。

「そうか、入口はあるのか。……でも、それは何処にあるんだ?」

「そんなの分かるわけないでしょ!」

「だよなぁ……」

ここで女神の力が使えるのなら、ここから出るなんて一発だったんだけど、女神の力だけでなく魔法ですら使えなかった。ジルウィンも同じみたいで、『妨害系』の魔法か何かが働いているのだと推測する。それか、『ここが前世の世界だ』と無意識の内に思っていて使えない……とか。

取り敢えず、今のところ力技での脱出は不可能というわけだ。


その後も、ジルヴィンと話し合ったけど、良い案はひとつも出てこなかった。

「八方塞がり、だな」

「だね」

はぁ、とため息が二人分。本当に、どうしたら良いんだろう……。




そのときだった。




『ジルヴィン様、アムティア!』

ダミアンの声が空から降ってきた。


「!ダミアンか!」

ジルヴィンが声を上げる。

『あ、やっと繋がった!』

「ダミアン……?なんで、ダミアンの声がするの!?」

『ジルヴィン様がネックレスの光に取り込まれて意識を無くしたから、ネックレスが原因なんじゃないかって思って魔法師団長を呼んできたんだ。そしたらこのネックレス、『呪い』のネックレスだったみたいでさ。このネックレスに素手で触った魔力の多い人を幻に取り込んで、死ぬまで魔力をのさぼり喰うすごくヤバいやつだったんだよ。ま、俺は魔力はからっきしだったから無事だけどね』

「なんだよそれ、めちゃくちゃ危ないじゃないか!というか、それって女神の力まで喰えるやつなのか?!」


あ。


私は急に冷や汗が出てきた。

「あの……私が取り込まれた時は魔法の授業中でね?女神の力使ったら違反になっちゃうなと思って、女神の力を一時的に封印したんだよ。だから、それでネックレスに取り込まれちゃったのかも……」

私がそう告白すると、ジルヴィンとダミアンは揃ってため息をついた。

「いや、その心構えは素晴らしい。うん、とても良いと思うけど」

『封印しなくても、ただ使わなければ良かったんじゃ?』

「だって私、いつも女神の力を使っているんだもん。癖でつい使っちゃうから……」


「……まあ、その話は一旦置いといて。ダミアン、ここから出られる方法はあるか?」

ジルウィンが空に向かって聞く。

何だかその光景は可笑しくて、思わず笑ってしまう。


『あ、ただ単純に白い空間に行けば良いみたいです。そこは幻が無い、つまり呪いの範囲外ってことみたいで』

白い空間って……、

私は周りを見る。白い空間って、ここから見えるところかな?

「じゃあ、ここから飛び降りるってことだな」

『え、ジルヴィン様たちは今何処に?』

「中学校……学園みたいな建物の屋上」

『あ~……飛び降りて良いと思います』

ダミアンって、敬語使えたんだ……。私は思わず現実逃避する。なんだか私にはキャパオーバーな話だ。私、女神なのに。


「アムティア、飛び降りるぞ」

「え、あっうん!」

ジルヴィンはもう柵を乗り越ようとしていたから、私は慌ててそれに続く。


私が柵を乗り越えたら、ジルヴィンは自然な動作で私の手を握る。

「それじゃあ、行くぞ」

「えっ、待ってよ、心の準備が……」

「さん、にー、いち、ゼロ!」


トンッ


「ふぇぇぇぇえ!!!」

ジルヴィンは私の声を聞かずにささっと飛び降りてしまった。手を繋がれていたので、私も同じく落ちていく。もう!心の準備があるのに!




ジルヴィンのバカー!!!














































「ジルヴィン、正座」

「……はい」

「お兄様、アムティア様のお声を聞かずに飛び降りたのですって?お兄様はとんでもなく頭がお悪いようですわね」

「ジルはほんっとうに自分勝手だよね。私と始めて会った時も……」

「いや、あの時の俺様感は演技で……!」

「え?それなら始めて会う人には全員にあんな感じで接しているの?うわぁ……最低だね」

「ち、違うんだよソフィア、フリーゼ!」

「私はジルよりもアーティを信じる!」

「私もです!」

「ソフィア、フリーゼ!!!くそっ、妹だからアムティアのことを責められない…!」

「「妹って?」」

「あっ、……エット、コレハ……」

「「説明して下さい」」

「ハイ!」



「……女って、こんなに強かったんだ……」

「ん?何か言った、ダミアン?」

「ヒッ!い、いえ何もございません、アムティア様!」

「ならよろしい」


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