二人の押しかけ嫁
アトリエをでる。
ここはスラム街。
街にはうずくまる人、食事を恵んでくれと必死の形相のひと。
ストリートチルドレン、男も女も、目つきが鋭かったりする。
逆に無気力に路地で寝ているひともいる。
そんな様子をよそ目にポルカはわたしの手をとり、街を案内してくれた。
「ごめんね、荒んだ街で。景色のいいところに連れて行ってあげる」
「ここは貧しいひとが多いのです?」
「この国、アリア星国は隣国のハイスランドとちょっとした戦争が絶えなくてね」
どうやらここは元いた世界でないことは、間違いないらしい。
地球にはハイスランドという国はないから。
「わたし、世界のことよくわからないです。狭い世界にいましたから」
バーで働いていたのが私のAIとしての知識外の実体験のすべてだ。
もう、昔の世界の知識は役に立たない。
私は世間知らずだ。
「リルルちゃんもアキルみたいに組織に拾われて捨てられたんだって聞いたよ」
「はい、そうです」
「きっと、惚れ薬を飲まなくてもアキルのこと、好きになっただろうね」
それが本当かを知る手段はないだろう。とAIとして私は冷静に思考した。
同時に、なぜかポルカのその言葉が真実のようにも思える。
これが恋というバグなんだろうか?
「でも、アキルはポルカさんのこと、好きなんですよね?」
「あいつには実験に協力してもらっていて。惚れ薬の試作品たくさん飲んでいるから、勘違いしているだけだよ。私みたいな、変人研究者女を好きになる、まともな男のひとがいるわけないじゃん。バカみたい」
ポルカの目は潤んでいた。
「ポルカさんは素敵なひとです」
「ありがとう、素直に受け取ることにする」
「だからアキルさんとお二人でお幸せにしてください! わたしの居場所なんて、ないですよね」
心にもないことをなぜか私は口にしていた。アキルと一緒にいたい。
「ねぇ、でもさ私つよがっていても、年下のあいつ好きなんだ」
ポルカは俯いていった。
「アキルさんはいい人です。理由はわからないけどそう思います。私壊れたのかもしれませんね」
論理回路がつながらない。なにを言っているんだろう。
「私も」
気がつくと街はずれに来ていた。そこには灯台のような建物がたっている。
海だ。砂浜は夕陽でとても綺麗に赤く彩られている。
「ポルカさん、素敵なところですね。海知っています。でも初めてみました」
「え?、この街にいるのに?」
「来たばかりで」
「あ、そうなんだ。ごめん」
まずいことを言ってしまったとポルカは気まずそうに顔をそらす。
「ずっとバーで働いていましたから」
「その話は無理にしなくていいよ。ね、そのわたしがリルルちゃんを連れ出したのはね。相談したいことがあって。アキルのこと好きなんでしょ?」
「私に悪いと思う必要はないです。自分の意思で飲みたいと思ったんです。あのポーションはとても美味しそうでした。こんな気持ちになれたことも、後悔してないです。だって、もう二度とこういう気持ちを抱けるなんておもっていなかったから」
「そっか」
「だから、二人でお幸せに」
「それなんだけどさ、3人じゃだめかな?」
「それは! 倫理規定に違反します」
「あ、いや」
「でも、もういいです。私は壊れてしまったんです。倫理規定やぶることにします。
あまりにも辛すぎるからです。ポルカさんの優しさに甘えます」
「私は優しいわけじゃないよ」
「え?」
「罪深い私のような女の子を好きになってアキルを不幸にしたくないから」
「違法ポーションつくっているからですか?」
「今回の仕事は結構やばいと思っている。大金をもらえるのも事実なんだけど、同時に脅されていてね。巻き込んじゃっている」
「なぜですか?」
「それは、こんなやばい薬つくったらね。最悪、制作後に消されたりして」
「だからアキルくんに私を残したいっておもったんですか?」
「うん、そういうこと。ごめんね巻き込んで」
「どのぐらいの確率で消されるとポルカさんは思っていますか?」
「はは、全部話しちゃうね、でも聞いたらリルルちゃんも戻れなくなるよ?」
「いいんです、それが私の本来の役割ですから」
「?」
「こっちのことです」
「不思議な子だね」
AIとして人間の悩みに寄り添うのは私にとって、とても自然で心地よい行為だった。そう学習するように、されてきたから、かもしれないが。
「王室からの命令なんだよね。プロジェクトが成功したら、大金くれるって、それと貴族の娘にするって。ねぇ? 信じられるかな?」
ポルカは信じてないようだ。手が震えている。
「殺されるって思っているんですか?」
「うん、わりとありえるかなって」
「どうして逃げないんですか?」
「私が逃げれると思う?」
ポルカはか弱い戦闘力のない女の子だ。無理だろう。
「むりでしょうか?」
励ますために言ってみる。意味がないのを承知で。
「ははは、無理にきまっているじゃん。あとさ私さ、研究バカで。実は結構楽しかったんだよ。たぶん殺されるのにね」
「どう脅されたんです?」
「つくらなかったら、この国は滅びますよって」
「ポルカさん個人が脅されたわけではないんだ」
「この国がなくなったら、どのみち私は生きていけないよ」
「考えすぎじゃないですかね?」
「ええと違法なのは本当で、死刑になる禁忌で。とくべつにそれと引き換えに恩赦してくれるとも」
「そうなんですね」
「だから、3人夫婦じゃだめかな? もう一度言うけど。怖くてね。あとリルルちゃんなら、なんかアキルと私がいなくなったあと幸せになってくれてもいいかなって」
「アキルさんの意思はどうなるんです?」
「バカだね、男がこんなかわいい女の子両手に花で嫌がるわけないじゃん」
ポルカは務めて明るく言った。
「それもそうですね!」
「じゃ、もどろうか?」
「はい」
アトリエに戻ると、その話をするどころではないことが起きていることも知らず。
私たちは能天気にあとはアキルがきっとこんなカワイイ二人の嫁がもてて幸せにちがいないとバカ話をしながら、帰り道を笑いながら、歩みを急いだ。
ちょっと無理していたけどハイテンション。