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名も無き子供【後編】

人はいつだって他人か自分第一だ。


村が飢餓に陥れば我先に。家族を見れば子供を第一に。お宝は自分の懐に。誰だって次を迎えるのに精一杯で村の中でも閉じ込められた座敷牢でも腐った人の形を日常のように何度も見た。


生まれた時からひとりぼっちだった僕。


そして、ずっと村で道具として扱われていた。とっくの昔に舌を切られたから喋る事も出来ない。泣き喚いても訴えても誰も彼も怒鳴り声。いつの日か、全てを諦めた。


どんなに殴られても、どんなに服が汚れていても、ずっとお腹が空いても、怖い顔をした村人が道具を殺し、その道具がどんなに泣き喚いていても、全て諦めた。


今日は祭りの日だった。


この村には祀っているとある神様がいる。実際に見るんじゃなくて同じ時期に祭りをし、もてなして次の豊作は豊かであることを祈る。そしてその土産として供物を備えるんだが、今年は道具を肉として備えるらしい。


自分の腕を見ると、柔らかい部分はどこにもないそれに何の栄養があるのだろう。


どこからか、声が聞こえてくる。いつも聴いている恐喝されているかのような声じゃなく、いつの日か忘れたあのごく普通の扱いをされているかのような声色。その辺にあった棒で自分の誠意一杯で教える。声の主は懐から持っていたであろう俵に包まれていた握りを渡してきた。


“食べていいよ”と


その人から教えられた温かいものも暖かい言葉。そして、”ゆうき”という名を挙げられた僕。色々なものが込み上げてきた僕の今後は一体どうするべきなんだろう。

¬¬¬¬¬¬

小さな祭りが始まり、普段暗い隙間が炎のようなオレンジ色に明るい外が大いに盛り上がっている中、座敷牢で1人、座っていた。


(あの人はもし僕が”ゆうき”として生きていけ言われたけど、助けられた後って、どうやって生きていけばいいの?)


短い時間の中、村の中でもいろんな別の人を見て来た。


男児を後継にしてもらって行く者、女児を嫁にしてもらって行く者、また別の場所で道具としてもらって行く者もいた。村から離れた人はもう二度と村に戻ってくることはなかった。そういう人たちがどうなったのかなんて僕には分からない


教えてくれた声の発し方を独り言のように呟く。


「僕には関係ないし、もうどうでもいい。」


どうでもいいと、ずっと思っていた。


優しいご飯の味に触れてしまった。声の出し方さえも教わった。封じてしまった感情を開けてしまった。そして、自分が知らなかった人の優しさに触れてしまった。座敷牢という自分の部屋に戻って来てからずっと自分を抑えることに一生懸命だ。


なのに今まで身震いですらなかった自分の体は夏のはずなのに寒く、目からはずっと水が溢れそうになっている。水なんて流したら喉がカラカラになってしまう。


どこからか荒々しい音が聞こえる。自分が今まで聴いてきた恐喝の声に恐ろしい怒号が頭の中でずっと響く。慣れている聴き慣れた声が恐ろしく怖い。


(そんなこと、感じた事もなかったのに。)


身体が座敷牢から離れようと、座敷牢の出入り口を叩いたが、何にも反応しない。何にも感じなかった自分の体には冷や汗がダラダラと出ているのかと思うくらい胸がドクドクと鳴っている。


扉が開かれると、怒号と恐喝。今の自分はそんな村人の姿を見て恐怖に陥っている。

逃げる間もなく捕まってしまった僕は必死の抵抗をする。そんな事を気にする事なくまた四方八方から殴られ蹴られをいつもの日常かのように何度も何度も痛く繰り返される。


(痛い………もらった握り飯………吐いちゃう。)


抵抗する気力がなくなった僕に暴行を加える行為をやめた村人は、次は四肢を1人ずつに抑えられ、腹に村長であろう比較的健康そうなおじさんが僕の腹の上に乗っかる。その手に持っているものは刃物だということは一目瞭然だった。


(ああ…僕の人生、ここで終いか。)


握りをくれた人は”ゆうき”として生きる資格を与えてくれたけど、結局何にもないじゃないか。結局は人間なんて全員嘘吐きだ。希望だけを与え、悩みに悩んだ末、その道さえ崩れ去って行く。


ああでも、意識を保ち、空気を取り入れるために息をするだけで精一杯な今だから言える。せめて恨みを吐いて死ぬより、希望を抱いて死のう。僕にとって今日与えられたたった一つの希望。


目の前の男が僕に向かって刃物を振り下ろそうとする。命の終わりを感じた僕は遺言の如く呟いた。


「ゆうきとして生きて、世界を見てみたかったな…。」


そんな誰にも届かない戯言を吐いて僕の人生は終わった。







はずだった。


目の前で刃物を手に刺されているのは大体卯の刻くらいの時に出会ったであろうあの時の旅人であった。もう天国や昔夢にでもいるのかとも思ったが、殴られた痛みがジンジンと痛む為、そんなことはないと醒まさせてくれた。


「すまないね、ゆうき。共に行くことが本当なのか試させてもらった。」


「なんで…そんなこと…。」


「おまえさんのような育ちをした人間はな、死に際でもなんにも感じずにその生涯を終えることが多い。無闇に助けても今後もまた同じ道具のようになってしまう人間の方が多いんだ。なぜかは知っているか?昔から埋め込まれた生き方をすればその生き方しか知らずに育つんだ。


だがお前は別の生き方をしたいと願った。ゆうきという名はその勇敢さを証明するために名付けたものだ。」


抱えられた自分は目の前の旅人の前でまた水が溢れ出していた。心は暖かいし、目の前の旅人に会えた事がとてつもなく嬉しい事なのに溜まっていたものがどんどん溢れ出てくるのだ。


「助けを求められたら私もかっこいいところ見せないとな。」


突然現れた旅人の前に村人たちは大騒ぎであり、「何だお前は」や「邪魔をするな」などの怒号が聞こえるが、抱きしめられていた僕はそれに恐怖を感じずに胸に抱かれているからか、安心感さえあった。


…人の体温ってこんなに暖かいんだな。


そして旅人は座敷牢にいた村の人たちから拳や刃物を振りかかられそうになるが其れを諸共せずに華麗に避ける。逃げている途中、監視や村人たちともすれ違い、そしてあっという間に村の外へ出た。


外へ出たことを確認した旅人は僕に面と向かってこう言った。


「ゆうき、私と一緒に帰ろう。」


差し出されたその手を僕は迷わず握りしめた。


天名視点

「そういえば、僕になにをして欲しいんですか。」

「ああ、わたしの神使の番候補になって欲しい。」

「番…?」

「番って言っても恋人や婚約者になるわけじゃない、友達として親友になって欲しいんだ。」

「友達…親友……。」

「人嫌いなんだよね、アイツ。あれでも一応神様だし、人間の世界を見て欲しいんだけどね。」

「僕だってずっと村育ちだからなにも知らないよ?」

「それでいいんだよ。ゆうきの名前は寛裕の裕に尊敬や尊重するに値する価値を示すように名付けた貴だからな。」

「それで裕貴…そんな人物になれるといいなぁ。」

「お前なら世界もアイツとのこれからも変に緊張しなくても大丈夫だ。」


これは、そんな神様と番の世界記録


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