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名も無き子供【前編】

とある貧困な村は飢饉に見舞われていた。子供はともかく、大人ですら肉体労働で鍛えられた筋肉を感じさせないくらい痩せている。それを見守っていた私、天名ノテンメイノカミは村を見回る旅人に偽装していた。


神って言っても別に恵の雨を降らすことも、金や鉄などを出現させて裕福に出来るわけではないんだけどな…と思いながら、村長や村の人達が神に祈る所を見ると少々申し訳なく思う。


天名は名を司る神である。


名は誰にだって付けられるもので、どんな境遇な子にだって一つの名前がある。


天名の役割はつけられた名前に幸運の祈りや導きを捧げる役割を持っている為、毎日多忙であり、今日は自分の神社で祭りが行われる為、仕事を終わらせて参加しようと、村の状況を下回りしていた。様子を見る限り、来年くらいには更なる飢饉に見舞われてみんな死んじゃうんだろうなと思いながら、1人の子供に目が付く。


(私の祈りがない。)


飢饉や貧しい時代や村に行くと稀に、名前がつけられない子供が現れる。そういう子は大体何かしらの訳ありだったり、虐げられている場合がある。そういう子は大体、「お前」や「忌子」、「おい」などの二人称で呼ばれることが多々あり、まともな教育をされていない子供はそれを名前だと認識することが多い。


私が出会った1人の子供はそういう部類なのだろう。そう思い、「君―!」と、声をかける。だが、そこに返事は無く、無言で無表情な顔がこちらに向けられた。「祭りってどのくらいからー?」と質問をすると、そこに返事はなく、ずっと無言であった。


(あれ?聞こえているんだよな?返事はしてたから聞こえているし。)


と、考えていると、子供は木の棒を持って地面に棒を6つと丸にバッテンの図を描き始めた。なんだこれと見ていると、子供は無表情のまま地面をじっと見つめていた。そんな子供の様子や状態を見て少々冷や汗をかく。


(栄養状態が限りなく少ない状態だな。大人しいから死んだことにも気づかれ無さそうだけどし、いつ死んでもおかしくないなあれ…。)


少々不憫には思うものの、何かないかと考えると、使いに持たされた俵握りがあることに気付いてこれ食べて待っててと握り飯を持たせると、天名は子供が描いた図に悪戦苦闘をした。


恐らく、自分が聞いた質問は時間に関することであったこと。そして子供の教育状態から見て、数字や文字自体習っていないが、時間の計り方は理解していること、◯が太陽だとすると、罰は太陽が出ていない時間帯に祭りは始まることに棒が六本。恐らく「暮れ六つ」を意味していることで大体7時半に始まることが分かる。


子供に暮れ六つ?と聞くと、頷いたので正解だとのこと、謎を解いているみたいでだいぶ新鮮だなと思っていた。子供のところにより、食べたか確認する為、口を開けてもらうと、口の中に飯が溜まっていないとわかり、口を閉じてもらう。


「教えてくれてありがとな、君、名前は。」


そう子供に聞くと、首を横に降る。


「そうか、じゃあ喋れるか?あーって発してみな。」


と聞くと、子供は困惑したように口をパクパクしている。そして少ししたら少々落ち込む様子が見て伺えた。握り飯でも食べて少し元気が出たのか、表情が動いているのを見ると微笑ましくなる。


「ははっ、まぁそうだよな!声の発し方は私が教えてあげるよ。」


そういうと、子供はちょっと困惑していた。


「大丈夫だ、お前は声を発せられるよ。まず息を吸って。」


すーっと息を吸う天名の仕草を子供が真似る。


「次に肩の力や喉の力、全身の力を抜いて…そして息を吐くように出す!




私の名前は天名だ!!」


「わ、私の名前は天名だ…。」


初めて聞いた子供の声はだいぶ掠れていたが、声ははっきり出せていた。初めにしてはハキハキとしていたが、この子はだいぶ頭が良いのだろう。


そんな子供は困惑しながらも、そこには驚きを隠せない表情で、少し、嬉しそうであった。


「な、なん、お前…には……舌…が………ないん……だ…って…。」


「うはは、お前に舌はあるよ。だって、私の握り飯、綺麗に食っていたじゃん。慣れない舌使いだけど、ちゃんと喋れるんだよ。」


そう教えられた子供の目にはどんどん涙が溢れ出てくる。今まで溜まってきたものが、溢れてきたのだろう。天名はそんな様子を見ながら、わんわん泣く子供を抱きしめる。


しばらく泣いていた子供の様子を見て、天名は質問をする。


子供は拙い舌で少しずつ、答える。


まず、この村には飢饉に見舞われて大人も子供も足りない状態。村長権限で村の人から、備蓄の食糧も住処も取られて道具のように働かされる人が出てきたということ。普段の村の様子では子供はカカシ者として括り付けられることが多いこと。そんな目の前の子供は親なしだった為、生まれてからずっと道具のように働かされていたことと、今回の祭りでは真夜中に死んだ自分を捧げて神からの祈りを願うこと。


「もう…誰かに……助…け…を…求める考…え......には…ずっと……至らなかった。初め…て…優…し…さに………触れた…ありが………とう。」


今の話を聞いても、更には振り返っても、そこに子供の逃げる発想はありがとうの言葉で浮かばなかったことが分かった。目の前の自分にも助けを求めないのは、そういう人達を何度も見てきたから。神にも縋らない、というのは賢いというのもあるのだろう。神というのは基本、見守るスタンスであり、人のことには一切の手を出さない。


全てを察したかのように寂しく笑った、強く、聡く、優しい心の子供。だが、その心持ちにはいずれにしても限界が来る。掠れた子供の声から、生気の意思がないことには薄々だが、感じ取れていた。


「ああ、ところで、君の名前は先ほどの叫び的には、無いように見えるな。」


そんな子供に名前の確認をすると、笑いながら少し慣れてきた舌使いで答えてくれる。


「そんなものは...贅沢...と、教え...られました。」


「そうか。じゃあ、君に名前をあげる。」


どういうことだというように頭にはてなマークを浮かべる様子に、天名は笑って答える。


「”死にたくない”少しでもそう思ったら「ゆうき」という自分の名前をどんな形でも良いから証明しろ。」


「…どうやって?」


「なんでもだ。私はお前の声を聞き、お前の願いを叶えてやる。






…だから、私が困ったら、私のことも助けろよな。」


その返事を聞かないまま、天名は去っていった。


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