2話 キラキラを追いかけて
あれから家に帰った私を待っていたのは夕飯を作り終えたお母さんだった。
今日はミートドリアみたい。
トマトの赤みとチーズの白にお肉の茶色。
それから漂うチーズと肉とトマトの匂い。
体に悪そうな良い匂い。
「おかえりなさい。今日は少し遅かったね」
出迎えてくれる私のお母さん。
いつも仕事で忙しいのに、単身赴任しているお父さんに変わって私の面倒を見てくれている。
だから、あまり迷惑はかけたくない。
「ちょっと……、ライブハウスの方に」
「ライブハウス?」
「たまたまだよ。たまたま」
そう言って私は、先程の買ったCDアルバムをカバンから出した。
舗装の光沢が煌めく新品。
それを手に取ったお母さんはどこか懐かしい顔をしていた。
「いただきます」
「貴方がライブハウスに行くようになるなんて。このCDの子が気に入ったの?」
「ん?。ん〜、まだ分からない」
「まあ、そうでしょうね。最初はそういうものよ」
お母さんの眼差しが優しい。
まるでかつての自分を見ているような。
「私もそうだったなぁ……」というつぶやきも聞こえた。
「お母さんは……」
「ん?」
「お母さんは、こういうところに行くの反対しないの?」
ささやかな疑問。
普段から学校ではそういう話を聞くから思わず聞いてしまった。
「あぁ……」っていいながら、優しかった顔が少しづつ難しい顔をしつつ、言葉を探ってる感じ。
やっぱりダメだった?。
「『私は』良いけど、まあ世間的にはね……」
「やっぱりダメ?」
「そういう事じゃないだけど……。まあこれも経験よね」
「??」
「この子のこと、気になるでしょ」
「まあ、その、うん。ライブ見て、少しキラキラを感じた」
「ならいいんじゃない。追っかけてみるのも」
「そうなの?。よく分からない」
「まあ、いつか分かるわよ」
そうらしい。
「懐かしいわねぇ……」って言いながら、お母さんはお父さんの馴れ初めを、結構長めに話していた。
そんな話を聞いてるうちに私はミートドリアを食べ終わった。
「ご馳走様。ちょっとお父さんの部屋の機械使う」
「お粗末さま。先にお風呂に入ってきなさい」
「うん、分かった」
とりあえず先に風呂に入ろう。
そうすれば、少しは整理できるだろうから。
@
翌日(休日)の朝。
私はベッドの上で、カセットテープに移し替えたあの少女が歌ってる曲を、手持ちサイズのカセットプレイヤーから聴いていた。
イヤホンから流れるノイズ混じりの歌声と音色。
透き通るような美しさは損なわれることはなく、むしろ味わい深くなっていた。
(暇だなぁ……)
ウッ、と起き上がった私はスマホであの少女の名前で情報を調べる。
【椎名万由理】。
フリーのギターボーカルで、あちこちバンドに助っ人としても参加している。
らしい……。
〔「ならいいんじゃない。追っかけてみるのも」〕
そう、お母さんの言葉がこだまする。
追いかけてみるか……。
私はベッドから立って、家を出た。
@
向かった先は昨日のライブハウスの近く。
いつもここで路上ライブをやっているというストリートアートの壁(所有者許可済)の前にやってきた。
光が差し込む水面を水の中から眺めたようなキラキラしたアート。
ライブハウスで観たあのキラキラみたいな。
そんなことをおもいn――。
クンクン。
んーーーー…………。
私はなぜ頭を抱かれて匂いを嗅がれているのだろうか。
不思議に思い、その変態を見てみる。
「やあ、いい匂いだね。君」
「ヴァッ」
私は臨戦態勢で距離をとる。
時に拘束されることもなく、私は例の変態から距離を離れることができた。
「どうも、はじまして。ボクはワカナ」
「どうも……、璃空です」
って、つい癖で名乗り返してしまった。
両親にアイサツは大事と教わったせいで、ついね……。
「ん?」
それにしても……。
こいつ顔は良いのよな。
蒼茶色の髪のパーマかかったショートヘアに翠色の瞳。
高身長に似合うトップスとパンツスタイルの衣装。
何より演劇で見るようなイケメン寄りの中性的な外見が私を狂わす。
なんかキラキラしたエフェクトが見えるし。
「もう来てたんだ。って、あの時の子?」
「はい。お久しぶりです」
「やあ、久しぶりだね。まゆっち」
(まゆっち?)
「やめなさい。その子困惑してるでしょ」
「そうなのかい?。リアちゃん」
「やめなさいって言ってるでしょ。その子は私のお客さんなんだから」
「へぇ……、珍しいね。キミが他人をここまで入れ込んでるなんて」
「いや――」
うむ。
椎名さんとワカナ?さんの親友にしか思えないようなたわいのない会話が続いている。
いや、ほんと。
しかも割とプライベートな話で、これ、私が聞いていいのだろうか。
「あぁ〜、もうみんな集まってる」
「お、来たね。ゆきのん」
「久しぶり、ユキノ」
「久しぶり〜、まゆちゃん。かなちゃん」
桜色の髪のふんわりしたロングヘアに紫色の瞳の少女が2人に抱きついている。
ニットのトップスにロングスカートの可愛らしい衣装。
ふむ、私は完全に蚊帳の外だな。
どうやってここから抜けようか……。
「あら、このちっちゃくて可愛い子が例の運命の人」
「そうそう、ちなみにリアっていう可愛い名前みたいだよ」
「あらあら〜〜」
「2人ともやめて。あぁ……、困惑して固まってるでしょ」
「あら、ごめんなさい」
「あっ、いや、私は別にいいので……」
なんだろう、これ。
私、この人たちの愛玩動物になってます?。
なんというか不思議なバランス構成だなぁ〜、この人達。
「えっと……、それで。あなた達はいったい?」
「あぁ、そうだね」
「そうだね~」
拝啓、お母さん。
とりあえず追いかけてみたら、不思議な人たちに絡まれました。
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m(_ _)m