第九話
葉っぱを集めます。
蚕を育てるのに桑の葉がとにかく大量に必要で、山で見つけた桑の木だけでは全く足りない。もちろん移植して増やしてもいるのだが、成長の早い木だとしても一年、二年では足りないだろう。
ちなみに桑の葉の収穫は孤児院の子供達にお願いしてやってもらっている。桑の木は畑が広がる川沿いや森に近い林に生えているので、畑仕事や薪拾いの帰りなどに集めて貰う。パッと見普通の木で、誰も蚕のエサになるとは思わない。それよりも桑の実はマルベリーと呼ばれる甘味になる事を教えると、子供たちの貴重な甘味としてついでに葉を集める仕事も大人気となっていた。
対して蚕の方は、二ヶ月程で卵から成虫になる位成長が早く卵も一度に5、600個? くらい生むので増えるのは早いのだが、どうやってもその数を全て成長させる事は出来ないし、こればかりは誰にも知られる訳にはいかないので極めて少数で管理し絶対に外に漏れないようにしている。まあエサになる桑の葉が絶対的に不足しているので増やしたくても増やせないのだが......。
今回献上する為のシルクを作るのにも、結局一年も掛かっているのだ。
元の記憶があるとは言え、それは専門家でもないうろ覚えの記憶で正確な過程が分かっている訳でもなく。試行錯誤を繰り返し、かつ最初に出来たと思った絹糸も後から作る絹糸の方が慣れたおかげか品質も上がっていき、最終的に献上できる品質の物に仕上がったのが今となった訳だ。
もちろん、この一年シルクの事だけ進めていたんじゃあないぞ、仕事もしなければならないし、井戸と水車の事もある。まあそっちは大工のジーンと鍛冶屋に任せてはいるが、全く関与しない訳にもいかず。たまに呼び出されては元の記憶から工夫できる点を伝えたりしていたのだ。
シルク生産は間違いなく許可され、作られる事になるだろう。上手くすれば領主様のその上まで話が進み資金が入るかもしれない。ただし、シルク生産については絶対に外部に漏れてはいけないので新しい拠点を作るにしてもあまり大規模には出来ないはず。
人手が多ければ多いほど管理しきれない人が出る、酒を飲めば口が軽くなるヤツもいるだろう。スパイが入ってくるかもしれない。
そんな不安要素を除外しながら、シルク生産に当たれる場所の確保と人を集めなければならないのだ、俺の家の裏庭と町長の家でチマチマやっているのとは訳が違ってくるのだ。