第八話
怒ってしまった町長を宥め。
木のカップの水を飲んでから、フッと力を込めた目で町長と相対する。
「な、なんだ……」
ビビった町長、基本的に弱気なんだよな、金には強いが。
「盗んだりしない、何故なら作り方はもう知っているからだ」
「知っているだと?! どうやって? 何処で知ったんだ?」
「長年冒険者してたら偶然知る事もあるんだよ。それとも何処の誰某から知りました、なんて知りたいのかい?」
一瞬興味ありそうな目をした後、何かを悟ったのか顔を青くした町長は、そんな事には興味ないとシルクの話だけ進める事になった。
「まあ、作り方は知っているがその材料が何処にあるかは分からないんだよな。」
「なんだとー!!!」
今度こそ顔を真っ赤にして怒鳴るのであった。
……
幸にして蚕も、桑も程なくして見つかった。元々貴重な物ではなかったのだ、誰も知らないだけで。自分でも狩の途中でそれっぽい植物を探していたら、なんともあっさりと見つかってしまった。
蚕の幼虫と桑を見つけて家に持ち帰った日にはひと騒動あった。愛するかわいい嫁のユユは冒険者をしていたので虫なんて平気なのだが、かわいい娘のリリがダメだったのだ。
虫を家に入れるなら、お父さんともうお話ししない、なんて言われたら......。
家の裏に小屋を作りそこを蚕小屋とした。
大工のジーンには水車の仕事が忙しいと言われたが、大事なリリちゃんとの会話が無くなる危機と比べたら水車なんて少し遅れても問題ない。とにかく超特急で小屋を作らせた。
ある程度の繭が揃ったところで、絹糸を作る。
作り方は、、まぁその手元にある平たい機械で調べてくれ。
木綿があるので道具についてはそれなりに揃っている、町長の奥さんも機織りが得意で家にも置いてあるので丁度よかった。今はこの話を知る関係者は少ない方が良い。
織り機は、本来なら絹糸用に作り直したい所だったが、ジーンがとにかく忙しいと言うので無理だった。
出来たのは10cmにも満たないシルクの布、ハンカチにもならない大きさだが、問題は大きさでは無い。大事なのはこの町で作れたと言う事だ、町長の奥さんは作っている途中にもシルクの手触りに惚れ込んでいたようで渡してもらう時にも、かなり名残惜しそうにしていた。
出来たシルクの布は10枚、全て領主様に持っていく。10枚作ったのは、何処かで買ったと思われない為だ。
流石に領主様に会うのは町長だけだ、オレなんかが相手して貰える訳がない。
この町は、ここから馬車で一日ほど離れた男爵領の管轄で税などは男爵に納めている。さらに男爵領はその上の伯爵領の分領なので実質トップは伯爵となる。
我々が話す領主様と言うのは男爵の事だが、男爵は伯爵に話を持っていくのか、我が物にするのか……。
どう説明して、この先の流れをどう持っていくのか。大工のジーンと鍛冶屋、町長と町長の奥さん。オレと愛するかわいい嫁のユユさんだけで相談して何とか上手く行く方法を考えた。