S.S 冬のお祭り2
翌日、さっそくジーンのいる工房を訪ねる。
「おーい、ジーンいるかい?」
奥の方から声が聞こえて、頭から湯気を出したおっさんが出てきた。
「うわっ! ジーン頭の何それ!?」
自分の頭が湯気で光っている事には気が付いてないジーンが頭を触るが。
「いや、何も無いだろ?」
「まあ、いつも通り髪は……」
ジーンの左手のハンマーがフッと持ち上げられたので、それ以上は語れなかった。
「そうそう、屋台の進み具合はどうかと聞きたくて」
ジーンは「あれか」と呟くと、クイっと顎を捻って工房の裏に向かって歩き始めた。
着いてこいと言う事ですね。
工房の裏に着くと。
「おおー!!」
そこには、こちらが想定した以上の屋台が並んでいた。
「すごいすごい! よくこんなに作れたね!」
そう言うと、ジーンが真っ赤な頭をさせて。
「誰かさんが町中で言いふらしてくれたお陰でな、屋台を出す店の連中からの注文が大変だったよ!」
「いやー、ありがとう! やっぱり頼りになるのはジーンだね!」
そこまで言うと、今度はクルッと後ろを向いて「おっ、おう」とだけ素っ気なく答える。
頭は真っ赤だけどね。
心配していた屋台も大丈夫、屋台を出すお店の人達のやる気も十分だし。
あとは当日の天気だな……。
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晴れました! 天晴れ日本晴れ!
少し肌寒いけど、これはこれで冬らしくて良いよね。
数日前からのイルミネーション効果もあって、町の人達の集まり具合も最高です!
噂によると、既にイルミネーションの木の下でプロポーズした男女もいるらしく、未婚男女の気もそぞろのようです。
集まってくれている人たちの前に立ち、挨拶をする。俺の背後ではイルミネーションがキラキラと光っている。
「皆んなー! 今日は集まってくれてありがとう! 今日のお祭りはクリスマスと言います! 冬の訪れを感謝して、次の春を待つまでの英気を養うお祭りです。
屋台もたくさん出ていますし、皆で食べて騒いで冬を乗り越えましょう!」
ワッと集まった町の人達の歓声が上がり、お祭りが始まる。楽器の得意な人達で楽しい音楽も奏でられ、アチコチで歓声や笑い声が聞こえる。
イルミネーションの木も、今日は朝から光の魔石を光らせている。そこには若い男女や小さな子供を連れた家族が集まっていた。今日はこのまま三回は魔石を交換しないとだな。
「ゴウ町長」
町の人達の様子を見ていると、後ろから声を掛けられた。振り返るといつもの三人だ。
「やあロイさん、ザックとアリーさんもご一緒で」
ロイさんは少々困惑顔で、ザックとアリーさんは何やら楽しい物を見るような目でロイさんを見ている。
「あの、済まないがちょっと聞きたい事があってだな」
ロイさんが言いにくそうにしているので、少し人の少ない端の方に寄って、ロイさんの話しを聞く。
「この祭りでは、何か古くからの伝説があるのか? 一昨日から町の女性に「祭りに一緒に行って欲しい」と声を掛けられるのだが」
おやー、この町の女性達はロイさんに目を付けましたか。しかも、三日前に考えたばかりの伝説を古くからの伝説とまで言い誤魔化して。
「えーっとですね、アソコにある光っている木の下でプロポーズすると、幸せになれると言う伝説がですね……」
「そんな伝説があったの!?」
そこまで言った時に、アリーさんが急に突っ込んできた。
「それなら、私もそこで言って欲しかったな」
ザックの脇腹をツツきながら呟くアリーさん。
「と言うのを、三日前に考えました!」
「「三日前!?」」
三人で驚いた顔で突っ込んでくる。
「あ、あー、でもそれでか……うーん」
ロイさんが納得はしたが、困った顔をして唸る。
それを見たアリーさんが「ロイは、夕刻前には此処から消えた方が良いわね」そうアドバイスして、結局そうする事で落ち着いた。
「アリーさんのお腹も……最近は体調はどうなの?」
アリーさんは、自分のお腹を摩りながらニッコリと微笑んで。
「おかげさまで、もう安定期に入ったから。今度は適度に歩きなさいって先生にも言われたわ」
「と言う事は、生まれてくるのは春頃かな?」
「ええ、春が楽しみね」そう言って、ザックとアリーさんは見つめ合って微笑んでいた。
「さてさて、屋台も色々出ているから皆んな楽しんで行ってよ!」
クルッと広場の方を振り返ると、町の皆んなが集まってワイワイと踊り、歌い、飲んで食べ、盛り上がっていた。
「美味しいフライドポタタだよー! 揚げたて美味しいよ!」
「こっちはポタタチップスだよー パリパリした食感がビールに合うよー!」
「新商品! 焼きたて焼きうどん! 寒い日にピッタリだよー!」
「お馴染み、味噌焼きだよー! 味噌焼き鳥に味噌焼き豚だよー!」
「温かいお汁はどうだー! 芋煮あるよー」
「エールにビール! ホットワインにウイスキーもあるよー!」
もちろん子供たちにも飲み物は用意してある。果物を絞ったジュースや焼き菓子もだ。
皆んな笑顔で楽しんでくれている様子、俺も光る魔石を手に取ってジャグリングを披露したりして場を盛り上げた。
だんだんと日が翳り始め、屋台も大半の食べ物が無くなり営業が終了すると。子供を連れた家族たちは家へと帰り始める。
この日、この時間からは未婚の男女の為のお祭りに変わります。
ゆっくりとした音楽が流れる中、ある一組のカップルがイルミネーションの木の下に歩き進む。
息を呑み、黙って二人を見守るその他の男女達。
「え、エレナ! 僕は必ず君を幸せにする! 僕と結婚して下さい!」
「喜んで」
抱き合って涙する男女、イルミネーションの木の下でプロポーズした男女は幸せになるんだよ伝説の完成です!!
二人が仲良く寄り添って木の下から離れて行くと、次のカップルが歩み寄る。
次、また次にとプロポーズや時にはお付き合いがスタートするカップルに混じり。
「ごめんなさい!!」
大声でそう叫ぶと、ダッと広場の外に駆け出す女性もいた。
その場で泣き崩れる男を、そっと肩を抱いてまだ開いている屋台へと連れて行くのは……。
「あれはジーンなのか?」
飲むたびに生涯独身を叫ぶジーンが、今日は恋に敗れた男達……いやよく見ると女性もいるな。恋に敗れた者たちの相談役になっているのか。
そうしてクリスマス祭りの夜も更けて行く。いつの間にかドンヨリとしてチラホラと雪も降り始めた空は、恋に敗れた男女の涙色に染まっていた。
大変お待たせ致しました。
久しぶりにS.Sを公開致しました。
今回は前、後編の二話になります。
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