S.S 冬のお祭り
こんにちは、ゴウです!
この町も段々と寒くなり、時には雪もチラつく季節になりました。
雪といえば思い出すのがキラキラしたイベント、クリスマスです。
この世界でクリスマスと行っても誰も分からない訳ですが、せっかく町の景気が良くなり、小麦も沢山取れ、新しい作物も好評で、お酒もあって皆も浮かれているこのタイミングで、何かウキウキするお祭りでも開催しようと思った訳なのですが。
区画整理して新しく作った町の広場には、数本の針葉樹や秋の実のなる樹木が残してあって、子供たちの良い遊び場にもなっています。
そこに、イルミネーションと飾り付けをして、あとは出店を出せば立派なお祭りになるでしょう。
秋の芋煮会では大人も子供も楽しめたので、今度は若い男女に楽しんで貰いましょうかね。
準備するもの。
キラキラ、これは薄く伸ばした銅の板と鉄の板を適当な大きさに揃えて星やハートや丸い形を作ります。紐を通せる穴を開けたら、あとはひたすら磨く、磨く、磨く、たくさんの金属板を磨くのに回転砥石があって良かったと思いました。
次に、イルミネーションですが。まだ電気なんてものはありませんので、ある物を使ってみる事にしました。それは水の魔石や火の魔石ほど使われてはおらず。どちらかと言うとあまり物になっている魔石、何の魔石かはまだナイショ。
出入りの商人さんに結構多めに集めて貰うようにお願いしていたのですが、どうやらタダでも持って行ってくれるのならと沢山集まったようです。
商人さんにも「こんなに沢山どうするんですか?」と聞かれたので、「二週間後にお祭りをするのでその時に来れば分かりますよ」と伝えておいた。
ピカピカに磨いた板は、紐を通して木にぶら下げられるようにして。集めた魔石も紐でくくって同じようにぶら下げられるようにして箱に纏めてある。
メインのお祭りは一日だけ何だけど、イルミネーションは数日は続けたいしね。
飾り付けの準備が完了すると、俺は材料を持って町の広場へと向かう。
さて、町の広場にやってくると結構寒くなっていると言うのに子供たちが元気そうに遊んでいました。
「あっ! ゴウだ!」
「こら、町長さんでしょ!」
「ゴウ町長なにしてるのー?」
「町長あそぼー」
「ダー!」
うん、皆んな元気だ!
この広場には子供たちが遊べるように、手頃な遊び道具も用意してある。ブランコにシーソー、砂場に鉄棒、どれも難しい技術は必要なく、ある程度手頃な材料で作れる物だ。
もちろん子供たちが使う物なので安全性は充分に考えてあるし。散歩中や子供を連れてきた大人たちにも、子供が無茶な遊び方をしないように注意はお願いしてある。
「町長は今からお仕事するからねー、遊ぶのはまた今度ね。そうだ、皆んなは冬のお祭りの話しは聞いてるかい?」
だいぶ言って回ったけれど、冬のお祭りの事を皆んな認知してくれているのか気になったので子供たちに聞いてみた。
「うん!」
「お父さんが、町長がまた変な事するらしいって言ってた!」
「美味しいのある?」
「お父さんとお母さんと一緒に楽しみにしてる!」
「ダー!」
よしよし、皆んな話しは聞いているようだな。
そして「変な事」って言ってるのは誰だ?
先ずは、広場の真ん中付近に立っている針葉樹に近寄る。高さは三メルトほど大人の背丈の二倍弱ってところか。
さて、ここに作ってきたキラキラを取り付ける訳だが。
ジャジャーン! たけうま〜!
えーっと、説明します。
長い棒に足を乗せる部分が付いた奴じゃなくて、足の裏に直接固定されて底から長い棒が伸びてる奴。両手が自由に使えるのがポイント。
棒の長さは七十セルチ程で、コレで俺が手を伸ばせば、てっぺんまでは無理でも結構な高さまでは手が届くはず。
棒の先に固定された板を、靴にピッタリと縛りつける。
途中でズレたり外れたりしないように厳重に結びつけると。
さっきからジーッと見つめる子供たちの目、目、目
ふっふっふっ、町長のちょっとカッコいいとこ見せちゃおうかなぁ〜。
「皆んな、危ないから少し離れてて」
手を広げて、離れるようにアピールすると。
子供たちは大人しく広がって離れていく。
「よーし、行くよー」
俺は、仰向けに地面に寝転がり足を天に上げると、振り下ろす勢いと共に腹筋と腕の力で体をバッと浮き上がらせて。
「とうっ!!」
ガッツ!
「おっとと」
最後にちょっとフラついたけど、見事に竹馬で立つ事に成功しました!
「おおー!!」
「町長かっけえ!」
「すごーい!」
「ダー!」
そのまま二、三歩歩いてみるが……大丈夫! グラグラしないし何とか歩ける。
コラコラ子供たち、おじさんの股下をくぐるんじゃない! 危ないよ、危ないってば!!
子供たちに言い聞かせて、股下くぐりは止めさせが、付いてくるのは止めそうに無い。
仕方がないのでそのまま作業を始めようと思ったら。
「しまったー、そうなるのか」
うん、地面に置いたイルミネーションの材料に手が届かない。
結局子供たちの手を借りて、イルミネーションを渡して貰い。俺が一つ一つ木に結びつけてゆく作業を行なった。
子供たちは途中で飽きる事もなく、最後まで「じゅんばん、じゅんばんー」と言いながら一人ずつ交代でイルミネーションを渡してくれた。
「よーし! ありがとう! 皆んなのおかげで無事飾り付けが出来た! 本当にありがとうなー」
子供たちも、大人の手伝いが出来て楽しかったのか。皆んなとても良い笑顔になっていた。
「そろそろ暗くなるからみんなお帰り」
俺は、手伝ってくれたお礼にちょっとだけお駄賃を渡して皆んなを帰らせる。これはきっとお祭りの日のお小遣いになるだろう。
「さて、最後の仕上げだな」
俺はもう一度イルミネーションを飾った木に近寄り、紐で結んだ魔石に手を当てる。
「光」
魔石に触って発動の呪文を唱えると、フワリと魔石が光り出す。
そう、この魔石は「光魔法」の魔石。この魔石の効果は、ただ光るだけ。それだけなので殆ど利用される事もなく、放置されるか捨てられる魔石なのだ。
しかし、俺はこのイベントを思いついた時、この光魔石の事を一番に思い出していた。
そう、イルミネーションだ!
そして、俺の想像通りの事も出来た。
水の魔石で温度を変えられるなら、光の魔石も明るさや色が変えられないかと。
その結果がこちら!!
「えっ!? 何だあれ!」
「きれーい!」
「キラキラしてる」
「何が光ってるの?」
子供たちが居なくなった後、家へ帰る大人たちや、若い男女が広場を通り抜けようとした時に目にした光景は。
まあ、現代のイルミネーションを見慣れたキミらからすれば大した事ないかも知れないが、この世界の人たちにすれば人生初体験のイルミネーションなのですよ!
あっという間に人だかりが出来ました。
白色、赤色、青色にフワリと光る魔石がゆっくりと点滅し、その光を反射する磨かれた金属板が時には風に吹かれて光がキラキラと揺れる。
そんな光景を初めて見た人々が、一層の歓声とため息を吐く。
この魔石の光は概ね四刻ほどしか持たないので、皆が寝る頃には消えてしまうから文句も出ないだろう。
明日、また魔石を交換する作業が必要だが、これだけ町の人に感激して貰えるのならば、お祭りまでの数日間はやっても無駄にはならないだろう!
「さあ皆んな! まだ知らない町の人達にも伝えておくれ、お祭りの日まで、毎晩この光のイルミネーションは行われると!!」
今、たまたま見かけて集まった人達に宣伝をお願いする。
「毎日!?」
「お祭りって何日だっけ?」
「あの子にも教えなきゃ!」
「もし、いい人がいるなら一緒に来るといい! まだいない人も、頑張って声を掛けて見に来ると良いよ!」
そして、明るい家族計画を兼ねた宣伝も付け加えておく。
「この木の下でプロポーズしたら、一生幸せになれると言う伝説もあるぞ!」
未婚の男女の間に電撃が走る!
「えっ!? いつの間にそんな伝説が?」
「たった今俺が考えた!」
笑い声の間に、真面目な顔をして何か考える男女の顔も見える。
さて、当日のお祭りの準備はどこまで進んでるかなぁ。




