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異世界転生したおっさんが普通に生きる  作者: カジキカジキ


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S.S 町の発展

「おーい、ジーンいるかあ?」


 ロバちゃんに荷車を引かせてジーンの工房までやって来た俺は、日頃の感謝を込めてジーンにある贈り物を持って来ていた。


 トンカン聞こえていた工房の奥から、スキンヘッドの男が現れる。


「何だ、ゴウ? もう暫くは何も作らねえからな」


 このところ俺のせいで色々忙しくしていたジーンさんなので、俺が来ると厄介ごとの様に嫌味を言われる。


「いやいや、今日は作って貰うんじゃなくて。ジーンに作って来たんだ」


「俺に作って来た?」


 工房から出てきた事で日が当たり、禿げた頭を輝かせながらロバの荷車の方を見るジーン。


「これか?」


 荷車に載せた木材やら何やらを見て顔を顰める(しかめる)ジーンさん。


「これはもう組み立てるだけだから、手間はかけないから少しだけ手伝ってよ」


 そう言って運んできた荷物を工房の中へと運び入れ、予定通りにパーツを組み立てる。大きな木枠に、回転部品や留め具、ハンマー部分と始動レバー、家で試した通りに組み立てが終わると。


「さて、後は実際に動かしてみるんだけれど」

 

 今は水車の歯車と連結出来ていないので、手回しで動かして試運転する。


 近くにいたジーンの弟子に手招きをして。


「済まないけど、この歯車をこう回してくれる?」


 試しに俺が歯車を回して説明すると。戸惑いながらも素直に従って歯車を回すお弟子さん。


「そうそう、そのまま回しててね」


 俺はキョロキョロと辺りを見回して。


「あ、コレ使っていい?」


 その辺にあった銅の板を拾い上げてジーンに使って良いか聞いた。


「何をするのか知らんが、勝手に使え」


 了解を得たので、銅板を手に組み立てた機械の前に座り、金床とハンマーの高さを調整、右膝辺りに作ったストッパーを膝でグイッと押す。


 ガン、ガン……ガ


「うわっ!」


 いきなりの音と反動に驚いて、お弟子さんが歯車を回す手を離してしまった。


「ごめんごめん、反動があると思うけどずっと回しててくれる?」


 お弟子さんが頷いて、歯車をもう一度回し始めると。俺も膝をグイッと押して。


 ガン、ガン、ガン、ガン・・・・・


 動き始めたハンマーにタイミングを合わせて銅板を差し込むと。


 ガン、カン! カン! カン! カン! カン!


 心地よく金属を打つハンマーの音に変わる。


 その瞬間、ジーンさんの目が光る! 歯車を回しているお弟子さんも、手を止めずに打ち込んでいるハンマーの動きを興味深そうに見ている。


 ある程度実演が済むと、右膝を離してハンマーの動きを止める。


 カン! カン! カン カ、ン カ……


「お兄さんも、手を止めていいよ」


 そして、歯車の回転が止まったことを確認してから俺も席を立ちジーンに場所を譲ると。目を輝かせたジーンが、あちこちを触りまくる。


「男の子ってこう言うの大好きだよね」


 ジーンの後ろ姿を眺めながら、俺はニンマリとジーンの気が済むまで黙って立っていた。


 ・

 ・

 ・


「で? コイツをどうするんだ?!」


 色々触り回って納得したジーンが聞いてくるが。


「最初に言っただろ? ジーンの為に作ってきたんだって」


 ジーンは後ろの機械をもう一度見ると。


「俺に、くれるって事か?」


 俺はウンウンと頷いて。


「そうだよ。まだ仮組だし本番だと弱い部分もあるかも知れないからさ。補強はジーンの方でやって貰うけど、これはこのまま置いて行くから、後はジーンの好きに使って良いよ」


 そう言うと、ジーンも弟子も子供のように騒いで機械をベタベタ触りまくった。


「ハンマーの強度や、ここの歯車の部分とストッパーとの噛み合わせ部分なんかは見直しが必要かな? 後は全体の補強だろうけど、それは使いながら試してよ」


 ジーンは本当にこう言うのが大好きみたいで、俺の言葉は話半分で聞きながら機械をずっと触りまくっている。


「このストッパーか? これは押して動力を伝えるんじゃなくて、離して伝えるんじゃダメなのか?」


 さすがジーンさん、やっぱり気が付きましたね。俺はストッパーを押して離すの動きをさせながら。


「これはね。万一の場合に怪我を防ぐ為だから、咄嗟だと押すより離す方が早いでしょ?」


 ジーンは、少し頭を捻り考えると。


「なるほど。咄嗟の時に、より簡単な方法で止められる仕組みって訳か」


「そう言う事、さすがジーン。だけど、もっと簡単で安全な方法があればジャンジャン改良してくれて良いよ」


 そして、ジッと機械を見ていたジーンは。


「コレって、鍛冶屋のバルトさんの所の方が欲しがるんじゃないか?」


 うん、やっぱりそう言う考えになるよね。俺は機械の前に立つと、一つ一つの部品を指差しながら。


「そうだけど。それを作ろうとすると、ハンマーが金属製になって重量が増える分。強度もグッと強くしないといけないからさ。俺なんかが作れる代物では無くなるんだよ。もしバルトさんが欲しいってなったら、設計図もあげるからゴメンけど二人で頑張ってくれる?」


 そこまで言うと、何故かジーンの頭が真っ赤になって。


「やっぱり俺が作る羽目になるんじゃねえか!!」


 と怒鳴られた、解せぬ。


 ・

 ・

 ・


 さて、本日はもう一件の様子も見に行ってみますか。


 町の外れ、比較的広く取ってある場所では沢山の職人さん達が忙しそうに働いていた。その中で一番近くにいた職人さんに声を掛ける。


「やあ、こんにちは。親方さんいる?」


 職人さんは、俺の顔を見ると覚えててくれたのか、親方さんのいる場所をすぐに教えてくれた。

 

「親方さーん」


 広場の端の、完成品が置いてある屋根付きの建物に親方さんが居た。


「おう、町長。今日は何だい?」


 しっかり日焼けして逞しい体をした親方さんが、爽やかな笑顔で迎えてくれる。


「いや、進捗の具合はどうかなと思ってさ」


 積み重なって置いてある完成品を見ながら、親方さんに訊ねる。


「この所いい天気が続いているんでな、予定より数が作れているよ」


 そう言って、完成した品をポンっと叩く。


「それは良かった。濾過池の工事もかなり進んでいるからさ、ボチボチこっちも始めようかと思っているんだけど」


 ここで作っているのは、所謂(いわゆる)U字溝と蓋。そして、世界初? の水洗トイレ!! この町では遂に下水道工事を始める事になりました。


 山から掘ってきた石灰石も十分な量があり、焼いた石灰石と砂と小石を水で混ぜて固めたコンクリート作りと便座作りの工房がここ! 焼物とコンクリートのYOYOです。


 職人さんは、以前蚕小屋を作ったり男爵の街で蒸留所を作っていた人の中で「こっちの方が飯がうまい」と言って戻って来てくれた人たち。何か仕事を作らなきゃと考えて思いついたのが、ずっと心に引っかかっていた下水道工事だったのです。


 この町に住む住人はおよそ五百人、世帯数で言うと百ちょいといった感じだけど。それも昨年から人がドンドン増えていっているのでね。すぐに六百人とかなりそう、年間の人口増加率が二割ってどんな新興都市ですか!


「それじゃ来月くらいから始めるって事で、前に準備していた下水道の図面通りで大丈夫かな?」


「昨年から新しく建っている住宅地の場所と、中央通り沿いは大丈夫だが。昔からの家々の方は少し整理が必要だな」


 確かに、てんでバラバラな感じで立っている家もあるからね。しっかり整備された新しい住宅地に引っ越してもらう事も相談しないとね。


 古い家に住んでいる人達には、新しい住宅地に建っている家を見て貰い。気に入ってくれた人達には引っ越してもらおう、その予定でいたのだけれど。


 隙間風の入らない家屋、土間は漆喰で固められ清潔で、明るいガラスが嵌った窓、収納は多めで、裏庭には共同の最新ポンプ式の井戸。ゆくゆくはトイレも水洗式に変わるとなれば奥様達が黙っている訳もなく、引っ越し希望の家族が沢山現れたのだ。


 お年寄りは古い家が良いと言う人も居たけれど、それも仲良しのお隣さんが越すとなったら「やっぱり儂も」と言う人も多かった。元々開拓村だったこの辺りなので、家への執着も少なかったのだろう。


 懸念だった引っ越しの件もスムーズに進み。さらに一年後。


「パンパカパーン! さて、いよいよ下水道の開通と水洗トイレの一部使用を開始しまーす!」


 見物に集まった住人と、職人さん達。町長である俺と、セール男爵に奥さんのリッチさん。伯爵領からやって来ているロイ、ザック、アリーさん。ちなみにアリーさんとザックも結婚して新しい家に入居する予定だ。


 俺が指示すると、親方達が水を堰き止めていた水止板を外す。


 ザザーッ


 勢いよく流れてゆく水は、すぐ先から暗渠(あんきょう)に入るので見えなくなってしまうが、暫くするとずっと先の濾過池の方から「水が来たぞー!」と声が届いてきた。


 ワーッ!


 集まった人たちから歓声が上がり、拍手が起こる。


 さて、次は水洗トイレのお披露目だ。


 これも実演する訳にはいかないので、新しい家に引っ越す人達は自分の家で試して貰うとして。俺は町の人達をある場所へと案内する。


 そこは、町の古くからの家々が立っていた場所で、新しい家に引っ越して空き家になった家屋を解体して再開発をした、新しい町の広場だった。


 その広場の隅には、小さな小屋が立っている。


 ジャジャーン!


「ここは、公衆トイレです!」


 ついて来た皆は、何も分かっていない様子で建物を見ている。


「皆んな、外でもよおしたときどうしてる?」


「……」


 反応がない。


「あー、外で急にオシッコがしたくなったらどうする?」


「そこらへんで立ってする!」


 どっ!


 分かりやすく言うと、目の前の子供が答えてくれて笑い声が上がる。


 そうなのだ、この町というかこの世界では。まだまだ公衆衛生については意識が低く、小どころか大でもその辺で済ませる文化がある。俺が町長になってからは、その辺を徹底して指導してきたお陰で放置はされなくなってきたが、まだまだ外で◯◯◯の文化は残っている。


 なので、外でオシッコがしたくなったら今後はここを使って下さい。もちろん大は絶対です!!


 そして、公衆トイレの扉を開けて中を見せる。男性用の小便器は全てコンクリートだ。大の方は本体をコンクリートで作り、便座の部分を焼物でツルツルに仕立ててある。


「用を足したら、ここに汲んである水で流して下さいね。どちらの場合も桶で一杯程度しっかり流して欲しい。これは、臭いと汚れを下水までしっかり流す役割があるので、忘れずにしっかりやって下さい」


 そう言って桶に水を汲んで、便器に流して見せる。その後は子供や、集まっていた人にも試して貰い解散。


 さあて、これでこの町の衛生状態がかなり改善されるはず。病気や伝染病も防ぐ役割としてアルコール洗浄と下水トイレ、土間の漆喰。


 うんうん、いい感じに町の改善も進んでいるぞ。


 そうやって一人で悦に入っていると。


「ゴウ町長……後で伯爵に報告するために話を聴かせて欲しい。今後の計画もあれば、す・べ・て・話してくれ」


 そう言われて振り返ってみれば。


 ロイさん、ザックさん、アリーさんにセール男爵が複雑な顔をして仁王立ちしていた。


 ……また何かやりましたか?


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