S.S 味噌と醤油の使い道
だんだん冷えてきましたね、ゴウです。
ポタタが毎回かなりの量を収穫できるようになり、皆がコロッケや茹でたポタタ、フライドポタタを楽しんでいる中。俺は新しい食べ方を模索している最中です。
それと言うのも。この町の人達って自分たちで新しい料理を考えるとかはしないのかな? どうにも教えた料理ばかり食べているように思えるのです。
まあ、確かに。食べる物も碌にない状況で、食べられる物は何でも残さず使い切る、美味しいなんて二の次と言う生活を長く続けていたのだから、自分で食材を美味しく料理しようなんて考える余裕も無いよね。
美味しい食べ物が増えると、お腹いっぱいになって町の人の笑顔も増えるし良い事だらけです! なので、美味しいものをもっともっとこの町に広めるのです!
と、言う事で。
先日は、小麦粉と茹でたポタタを混ぜて芋もちを作ったみました。醤油も完成したのでね、焼いた芋もちに砂糖醤油を絡めて食べたのだけれど、家族から大好評でしたよ。
個人的には片栗粉で作ったモチモチの芋もちが好みなのだけれど、片栗粉を作る手間と使用するポタタの量を考えると、まだ食用に使うポタタの方が重要かなと思ったし。
それに「どっちも美味しいよお父さん!」ってリリちゃんに言われたら、どっちでも良いよねーってなるよね!
だがしかし!
醤油に漬け込んだ鳥肉を、片栗粉たっぷりつけて揚げた竜田揚げは違ったね!
「ゴウさんてば、まだこんなに美味しいの隠してたのね」なんてユユさんに言われてしまったし。
リリちゃんは、黙ってモクモクと食べてたし。
竜田揚げは、町の食事場の奥さんにも伝授したのだけれど。奥さんからも「まだこんな美味しいの隠してたんだね」て言われたし。
違うんだよ! これは醤油が出来たからなの! 今までは醤油が無かったから作れなかったんです!
それから、味噌! 味噌は、最初に広めた肉味噌焼きが町で大評判になっています。町にやってくる行商人さんや、職人さん、冒険者にも好評らしいです。
それで、味噌をどう使おうかと考えたのですが。
味噌汁……出汁がない。
まずこの辺りには海産物は届かないし、カツオ節なんて無いだろうし、鳥骨の出汁なんて使ったら何鍋? て事になるでしょう?
んで、手っ取り早く芋煮でどうだと思った訳ですよ。
確か、地域で醤油派と味噌派に分かれてるんだよね?
肉はそれなりに種類も豊富だし、芋は里芋代わりのタロー芋ってのや、ポタタでもいけるでしょ。ネギっぽい葉物は見た事あったな。あとはコンニャクが無かったと思うけど、まあコンニャクは別にいいか!
「ジーンくーん! 芋煮会しましょー」
お仕事しているジーンの小屋に尋ねて行くと、木槌片手に何やらトンカンやっていた。
「何だよ芋煮会って」
手を止めて聞いてくるジーン。俺は、何を作っているのかと気になって手元を覗くと。
「何だよ、もう鍋作ってるじゃん!」
正に、鉄の板を木槌でガンガン叩いて底の丸い鍋を作っている最中でした。
俺の目線が何を見ているのか分かったのか。
「これは食事場のマーサさんから頼まれた鍋だよ! てかお前、また何か新しい食い物教えたらしいな。マーサさん困ったような喜んでるような不思議な顔して新しい鍋を頼みにきたぞ」
なるほど、この鍋は竜田揚げを揚げるための新しい中華鍋でしたか。それよりも、食事場の奥さんの名前がマーサさんだったとは初めて知ったよ、町長としてはダメダメだな。
「しょうがない。これより一回り大きくて、持ち手は吊り下げて持てる様にした鍋を、そうだな十個作ってくれ」
「十だぁ!?」
ジーンが木槌を持ち上げようとしたので、ザッと後ろに下がる。
「またお前は簡単に言ってくれるなあ!」
「ねぇねぇ、頼むよジーン。これでまた美味しい物が食べられるんだからさー」
結局「四日後に取りに来い」と言われたのでやってくれるらしい。流石頼りになるジーンさんだ。
次は、アルさんとコールさんの家を訪ねる。
「どうもー、こんにちは」
地主の皆さんの所では、麦の種蒔きやポタタと大豆の収穫とかで大忙しのなのかと思ったけれど。
そんなのは農家の皆がやってくれているから、ワシらは準備と収穫物を持ってくるのを待ってるだけだと言われた。
俺は、そんなもんなのかと感心していると。
「それもこれもオマエさんのお陰でだけどな!」と言って背中をバンバンと叩かれた。
どうやらセンバコキや手押し式播種機も順調に広まって、農家の皆さんの作業も効率よく進むようになったらしい。ちょっと顔を見せた農家の人にも凄く感謝されたよ。
「で? 今日の用件はなんだ? ただ顔を見に来た訳ではないのだろう?」
コールさんも、段々と俺の事が分かってきたみたいですね。
「実はですね……」
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「ハフハフハフハフ!!」
「美味いなこれは!」
「こっちの醤油味が!」
「いや! こっちの味噌味でしょうよ!」
「肉を変えても良さそうね」
試しにと、味噌と醤油で一つずつ芋煮を作ってみた所大好評となりました。マーサさんの所に持って行かなかったのは、先日竜田揚げのレシピを教えたばかりだったし。芋煮と言えば農家さん? のイメージがあったのですよ。
そして、これが大正解! 地主さんとこの奥さんやご近所さんが集まって、アレやコレや野菜や肉やキノコやらが持ち寄られてあっと言う間に芋煮の発表会が始まりました。
これを。以前やったポタタ祭りみたいに、芋煮会と言うお祭り的にやりたいと思ってると話すと、アルさんとコールさんは「俺たちに任せておけ!」と言って全部請け負ってくれる事になりました。
あっ、芋煮会用の鍋はジーンの所に発注済みとも伝えてあります。
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「ただいまー」
「「……」」
愛するユユさんと、可愛いリリちゃんのジト目が……。
「何?」
「またゴウさんから、知らない良い匂いがしてる」
「してる……」
えっ!? と驚いて自分の体を隅々まで嗅いでみる。そっかー芋煮の匂いが移っちゃってたのね。
次のお祭りを考えていて、芋煮会をする事になったと話すと。また、私達の知らない料理を一人で食べてたと拗ねられてしまいました。
二人の機嫌を治す為に、お土産に貰った肉や野菜やキノコを使った芋煮を作って振る舞いましたよ。二人ともメチャクチャよく食べてくれて、味噌味と醤油味の両方を堪能して、最後に投入した締めのウドンまで綺麗さっぱり食べ尽くしてくれました。
二人はいま、お腹を抱えてうんうん唸っています。
流石に食べすぎだったよね。
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アルさんの所で芋煮をやった二日後の朝、ジーンが芋煮の鍋と木槌を持って真っ赤な顔してやってきた。
「うぉら! ゴウ! お前、今度は何やった!?」
何を怒ってらっしゃる?
よくよく聞くと、アルさんの所で芋煮をした奥様たちが、自分の家にも芋煮の鍋が欲しいとジーンの所に注文に駆け込んだらしい。
俺が頼んだ十個の他に、農家の人達が三十個も頼んで来たら……。
ごめんねー。
今度、何かで埋め合わせするからさ。
九月になりましたが、まだまだ暑い日が続きますね。
早くお鍋の恋しい季節になりますように。




