S.S 塩とポタタ
「やばい……」
どうも、語彙力が低下中のゴウです。
何がやばいって、味噌と醤油です。
味噌は、ジーンに試した所で大丈夫と確認できた。
醤油は、三樽仕込んだ所で一樽がダメだった。
原因は……塩だろう。
塩の量が少な過ぎたのだと思う。
その証拠に、塩が濃い醤油は問題なく発酵、熟成が進んでいる。
味噌は、醤油よりも水分が少な目な事と、空気に触れないように密閉されているので醤油ほど難しくないのだろう。
と言う事で。出来た味噌は家族からも好評で、この冬にも追加で仕込む事にした。
しかし……。
醤油と味噌に使う麦と麦麹、大豆はどうにかなる。
が、塩だけは難しい。
この町では、塩はいつもの商人さんが持って来る分に頼っている。その塩も海塩と岩塩があり、海塩の方が高い。岩塩は伯爵領内に鉱山があり手に入り易いが、海塩は海のある別の領から仕入れてくるので、途中の関税やら税金で高くなる。
味噌や醤油に岩塩が使えるのか? 味は? 俺もそこまでは詳しくないので前回は海塩を使ったが、正直これ以上塩の量を増やすのは難しい。町の人に必要な塩を、町長である俺が買い占める訳にはいかないからだ。
ちなみに、食事場の女将さんにも味噌肉を試食させたらメチャクチャ絡んできた。私の所でも作らせろ、もしくはもっと作って売れ! と。なので壺一つ分の味噌を作るのに必要な塩の量を説明すると、かなり渋い顔をして悩んだ挙句、諦めた程だ。
「次は岩塩も試してみるかな」
次に商人さんがやってきたら、岩塩も頼んでみよう。
おっと、もう一つ忘れてならないのが。麦麹が出来た事で新しい酒、麦焼酎も作れるのではないかと言う事だ。こっちは塩は使わないので気にしなくて良い、麦の収穫量も増えているし、酒になると言えば領主も文句は言わないだろう。
ただ、誰に任せるかだよな。
蒸留酒は男爵にお願いしたから、焼酎も同じで出来るのだけれど、流石に麹菌を持ち込む訳にはいかないよな。ウイスキーとブランデーとは別に蒸留所を作って貰えるかな。
男爵の所の単式蒸留器は、先日やっと二号機が完成した所だ「これでブランデーにも取り掛かれる」と男爵もホッとした所だったよね。
焼酎用の麹小屋と、発酵小屋と蒸留器も追加かあ。
取り敢えず試作で作ってみて、また男爵と蒸溜所のおやっさんに持ってくかな。
怒られそうだなあ……。
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朗報です! 塩の見込みがつきました!
先日、商人さんがやってきたのですが。それは、いつもの商人さんではなく。行商先でテツとアベルに世話になったと言うデオニスさん。
デオニスさんがこの町に来たのは二回目で、初めて訪れた時にテツとアベルの手紙を持って来てくれたのは良かったのですが、その手紙には「王都でポタタを広めたいのでポタタを沢山デオニスさんに持たせて欲しい」と書いてありました。
デオニスさんに詳細を聞くと、二人に護衛依頼をして王都まで行った際。三年ぶりに王都で剣闘大会が開かれると言う話をすると「そこでポタタを売って王都でも広めよう」とアベルが言い出したとの事。そこで、俺は大量のポタタをデオニスさんに預けてテツとアベルの元に運んで貰ったのでした。
「大変ですゴウさん! 助けて下さい」
それから間も無くして、またデオニスさんがやって来ました。タイミング的に王都に行ってすぐに戻って来た感じでしょうか。
デオニスさん曰く、何故か隣国への使節団に同行する商人としてデオニス商会が選ばれたとの事。テツとアベルも一緒に隣国へ行く事。そして、隣国の食糧事情の改善の為にポタタや農具を持って行きたいとの申し出に俺は快諾した。
その代わり、塩を多く仕入れて来て欲しいとお願いしている。デオニスさんは王家から免税手形とポタタの購入資金もタップリ貰っているとの事で、資金も問題なし、塩も税が不要で安く手に入る。正に至れり尽くせりだったのだ。
「ジーンくーん! やって欲しい事があるんだけど」
先ずは、ジーンとバルトさんの元へゆき犂と手押し式播種機を出来るだけ作って欲しいと話す。
「で、金は?」
おや? ジーンさんはいつの間に金の亡者になったのかな?
「それは問題ない! このデオニスさんが王家からしこたま踏んだくってきてるから」
ジロリ、とデオニスさんを睨むジーン。デオニスさんは脂汗をかきながらウンウンと頷いている。
「金があるなら問題ない、俺とバルトさんに任せておけば、犂も手押し式播種機も幾らでも用意しといてやるよ」
それを聞いてホッとするデオニスさん。
「で? いつ迄に欲しいんだ?」
「一週間後、で五、六台は欲しいんだけど」
「出来るか!!」
木槌を持って追いかけて来るジーンさんを置いて、次はポタタの手配です。
アルさんとコールさんも所でも事情を話し、出来るだけ多くのポタタやその他の作物も譲って欲しいとお願いして回った。納期はデオニスさんが王都へ出発する日の直前まで。
そして俺は、小屋にしまってあったマジックバッグを引っ張り出していた。容量が大きくて少し時間遅延も付いたマジックバッグ、これ位なら渡しても問題ないだろうとユユさんとも話して決めた。
大変だったのは、冒険者時代の荷物を何でもかんでも放り込んでいたので、別のマジックバッグに移し替えるのに時間が掛かってしまった事。ユユさんやリリちゃんにも呆れられてしまいました。
一週間後、デオニスさんの馬車には満載のポタタが入ったように見せかけた布袋、と幾らかの農具。本物は俺が譲ったマジックバッグに入っている。
「では、テツとアベルにも宜しく伝えて下さい」
「お任せください。戻りは隣国に行った後になりますが。塩は先に手配して送るようにさせますので」
お互いに握手をし、デオニスさんが出発する。
だんだんと小さくなって行く馬車を見送りながら、旅の無事を祈る。
テツもアベルも頑張れよ!
久しぶりにS.S追加致しました。
楽しんで頂けると嬉しいです。