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S.S 旅立ちの日2

 それから暫く会話を続けていると、ユユリーナさんを呼ぶ声が聞こえてきて彼女は帰って行ったが、帰り際に「数日はそこに入ってて貰うが、暫くすれば出られるだろう」と、教えてくれた。


 翌日もオババ様がやってきて、なぜ俺がここにやってきたのか根掘り葉掘り聞かれた。俺がパーティから抜けて一人で旅を始めた理由を聞いて呆れていたな。


「明日には、外に出ていた(おさ)たちが帰って来るはずじゃ。それまでここで大人しくしといてくれ。長が話を聞いて良しと判断されたら、ここから出してやれるじゃろうて」


「オババ様が(おさ)じゃなかったんだ?」


「わたしゃ単なるお節介焼きの婆さんだよ」


 いや、どう見たって以前の長とか長老だよね。皆んなの接し方とか話し方が違うもん。


 夜にはまたユユリーナさんが食事を持ってきてくれて少し話をしてから帰って行った。やばい、これはやばい。俺のハートはユユリーナさんへの気持ちを抑えきれなくなっている。どれだけビートを刻んでいるんだ! 俺のハート!


 翌日、昼過ぎには外に出ていたと言う長の集団が帰って来たようだったが、俺の元には直ぐには現れず。オババ様や他の連中と話している様子だった。


 夜、ご飯を運んでくれたユユリーナさんは何も喋らずに帰って行ったし……。


「暇だなあ」


 夜、何もない小屋で独りごちっていると。


「では、わしと話そうか」


 昼に帰って来たと言う長? が、小屋へとやってきた。


「長、ですか?」


「この集落の長で、ガルダンと言う。お前はゴウと言ったか、こんな所までどうしてきた」


 長は小屋の柵を開けると、中まで入ってきて俺の隣にドカッと座って話し始めた。


「オババ様にも話したが、単に一人で何処まで行けるか試したくてな」


「そうか、聞いてた通り阿呆(あほう)だな」


 それから、俺の話やこの集落について聞ける範囲で教えて貰い。明日には外に出して貰える事になった。


「最後に、ユユリーナの事どう思う?」


 なになにいきなり!?


「とても素敵な良い娘さんだと思いますよ。こんな俺の話も黙って聞いてくれるし、気がきいて、弓も上手で」


「娘だと言ったか?」


「違うんですか?」


 ガルダンさんは、フッと笑うと。


「娘は外の世界に興味が強いだけだ、決してお前をどうとか思っている訳ではないからな!」


 そう言って柵を閉めると、ドカドカと出て行ってしまった。

 

 翌朝、オババ様とユユリーナさんが小屋の柵を開けてくれて、やっと外に出る事ができた。まだ一人で歩き回るのは許されていないけど、ユユリーナさんが付き添ってくれると言うので全く問題なし!


 集落は森の中の少し開けた場所にあり、長の家の周りに数軒の家が並んでいた。俺のいた小屋は少し離れた場所に建てられていて、その裏手には小さな畑と鶏小屋があった。住んでいるのは全部で二十人ほど、以前はもっと居たそうだが年々減って、若い男女もユユリーナさんとシュリュウだけなのだそうだ。


「何でお前が外に出てるんだ! ユユリーナ! そいつの側から離れろ!」


 俺とユユリーナが並んで歩いているのを見つけたシュリュウが凄い顔をして近寄ってきた。


「シュリュウ、客人に対して失礼だぞ! ゴウは長に認められて外に出る事を許されたのだ。もう不審者ではなく客人だぞ!」


「長が認めても、俺はコイツは信用できない! お前も怪我が治ったんならとっとと出て行け!」


「シュリュウ!」


 言いたいだけ言ってシュリュウは森へと入って行った。何であいつはあんなに怒っているんだ?


「すまないゴウ。シュリュウはこの集落で一番最後に生まれた子供で、周りの大人達からチヤホヤされたせいで少々我儘に育ってしまった。今はなかなか成人を認めて貰えなくてイライラしているんだ」


 ユユリーナさんが少し寂しそうに話してくれた。


「シュリュウの歳は?」


「十四だな」


 あと一年待てば成人だろうに、何を焦っているんだ?


「何故急ぐ必要がある?」


「私がこの集落を出て行くと思っているのだろう、よく父親に外の話を聞いていたからな」


「成人したらどうなるんだ?」


 ユユリーナさんは少し俯いて。

 

「私と、その……結婚する事になっている」


 あー、若い男女は二人だけだものな。それを聞いているシュリュウとしてはユユリーナさんに出て行って貰いたくないのだろう。

 

 それから数日が過ぎて、俺もそろそろ集落を出ようかとなった時だ。


「おいゴウ! オレと勝負しろ! そして負けたらユユリーナを諦めてとっとと出て行け!」


 剣を持ったシュリュウが現れ、俺に剣を投げ渡すとそう言って切り掛かってきた。


 急に襲ってきたので一瞬反応が遅れたが、それでもシュリュウの剣に遅れをとることは無かった俺は、数合打ち合うとシュリュウの剣を弾き、その首に剣を添えていた。


「ま、まってくれ!」


 その段になってから慌てて駆け寄って来るオババと、アレは確かシュリュウの父親か?


「まってくれゴウ殿! 頼むからその剣を引いてくれ」


 シュリュウの父親は、俺の目の前で倒れ込むと見事な土下座を見せて頼み込んだ。


 俺はシュリュウの首から剣を引くと。


「慌てるな親父殿。俺たちは剣の稽古をしていたんだ、切ったりはしないよ」


 顔を上げた親父殿がシュリュウを見るが、シュリュウは本気で俺を憎んでいるような顔をしていた。


「ありがとう、ゴウ殿」


 オババ様が近寄ってきて手を合わせる。


「若者の勝手な勘違いだろ? よくある事さ」


 後できいたところ、ユユリーナさんが長に集落を出たいと話しているのを聞いたシュリュウが、俺がユユリーナさんを(たぶら)かしたと勘違いして勝負を挑んだらしい。

 

 シュリュウの父親から詫びられ、シュリュウを連れて帰って行くと、今度は長とユユリーナさんが現れた。


「災難だったな」


「よくある事さ」


 俺が茶化すように言うと、ユユリーナさんの目が見開く。おや、本気と思った?


「ちょっと早いが、明日の朝にもここを出るよ。これ以上ここにいても誰の得にもならない」


「それが良いかも知れんな」


 そう言って二人も帰って行った。帰り際に振り返ったユユリーナさんの寂しそうな顔が、俺のハートに暗い影を落とす。

 

 ・

 ・

 ・


 チッ チッ ピピッ……。


 やっと朝靄が薄れて来た早朝に、俺は荷物を纏めて集落の出口までやって来ていた。


「やっぱりいたか」


 そこには長がいて、俺を見送ってくれるつもりのようだ。


「世話になった」


 俺は長に頭を下げて挨拶をする。


「気をつけて行けよ、シュリュウの事は済まなかった」


「いらない世話かも知れないが、あいつも外に出してやった方がいい」


 長は、シュリュウのいる集落の方を見て。

 

「そうできれば、あいつも幸せになれるのだがな」


 いろいろ訳ありのようだしな。


「じゃあ、俺は行くよ。ユユリーナさんにも元気でと言っといてくれ、黙って出て行ってごめんとも」


「……」


「?」


 そう言って、俺は教えて貰った下界に出る道まで下ろうとした時だ。大木の影から旅支度をしたユユリーナさんが現れた。


「それは本人に言ってくれ」


 後ろから長が言ってくる。


 置いて行くなと潤んだ瞳で見つめるユユリーナさん。


「きつい旅だぞ」


「覚悟している」


 俺はグッとユユリーナさんを抱き寄せる。


 抱き返してくるユユリーナさん。


「ゴホン!」


 ちぇ、お邪魔虫め。


 俺はもう一度長へと振り返り手を振って。


「必ず大切にする!」


「お父様、行ってきます。我儘を許してくれてありがとう」


 ……

 

 そう言って、ユユさんと二人で集落を後にしたんだ。


「と言うのが、ユユさんとの出会いさ」


 すっかり冷めてしまったお茶を一気に飲み干してからユユさんを見ると、ユユさんも笑顔で見てた。


 いつまでも素敵なユユさん。


「その集落の人たちはどうなったの?」


 長たちの事が気になったのか聞いてきたテツ。


「さあなあ、数年後にパーティで集落を訪れた時には、誰も住んでいない名残だけになっていたから、それっきり行方知れずだ」


「お母さん一人になっちゃったの?」


 リリちゃんがユユさんを心配してくっ付く。


「お父さん達の行方は分からなくなったけど、私にはゴウさんにリリちゃん、テツ君と言う家族が出来たんだもの、寂しくはないわ」


 そう言ってリリちゃんを優しく抱きしめる。


 幸せな家族の時間です。それも、明日にはテツが出て行くと少し寂しくなるのかな。


 ・

 ・

 ・

 

 翌日、町の入り口でテツとアベルを見送る。町の他の連中も大勢見送りに来てくれた。


 テツの首には、ユユさんが集落から持ち出した唯一の残りのペンダントが下げられている。旅のお守りだと言って今朝渡していた。


「元気でな! 行ってらっしゃい」


「「行ってきます!」」

 

皆の笑顔に見送られて、二人の旅が始まった。


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