第五十二話、祝い事
どうやら結婚式があるようです。
「え? 違うの?」
ユユさんが首を振って答える。
「違う違う、婚約が発表されたそうよ」
噂好きの奥様達の情報はとても早く、この国の王子様と伯爵の長女の婚約が発表されたらしい。こんな田舎の町まで広がってくるなんて奥様ネットワーク凄いなあ。
そんな昼下がりのまったりした時間を過ごしていると、表の扉がノックされた。
「おーいゴウ、いるかあ?」
おや、誰か来たようだ。
「町長じゃないか、どうしたの? そっちから訪ねてくるなんて珍しい」
町長を中に迎え入れる。
「いや、お前さんに少し願い事があってな」
あれ…… ちょっと嫌な予感がするよ。
「伯爵のところのお嬢様が婚約なさった話は聞いているか?」
まさに今、奥様ネットワークで聞いた所です。
「それなら丁度良かった、伯爵様の慶事だ、この町からも何か贈り物を送らなくてはと話していてな」
はいはい。
「何やらゴウの所に良いものがあるとジーンから聞いたんだが」
ジーンさーん! 何てこと言っちゃってるんですかー!
「えあ、えっと、それはお酒の事、かなあ……」
町長はジロリ、とコチラを睨むと。
「珍しいガラスのグラスがあるそうじゃないか?」
グラスを作る事になりました、しかも伯爵に贈るお祝いの品。いやいやいやいや、まだこんなのしか作れないよ? くにゃっとしてるよ?
材料だってまた集めないといけないし、数もいるんでしょ? やっぱ無理だよー。
何とか断ろうとしていると。あの町長から「金は出す」と言われてユユさんがニッコリ送り出してくれました。しょぼーん。
……
水車小屋
ギッギー
ワザと硬めにしてある扉を開けて。
「ちょっと待ってて、窓開けて明るくするから」
「よっと」
ガタゴト
「こんな所で集まって変な事やってたのか」
やってる途中から中に入ってきて変な事とか言った!
「変な事とかでないよ、町の役にも立ってるでしょう」
「コレか?」
町長はテーブルにあった硬い板の方を手に取って聞いてきた。
「それは違う、そっちは防具になる素材、窓ガラスにもなる予定だけど……」
板を見ながら「防具? ガラス?」とブツブツ言ってる。
「こっちだよ」
奥にあるガラス用の窯の方を案内する。
最初に作っていた失敗作のグラスを見せて。
「ここで、ガラスのグラスを作っています」
町長がオレの手からグラスを取り上げて眺める。
「……濁ってるな」
最初の頃に作った失敗作だもん…… 仕方ない。
「よっと」
分かりにくく置いてあった土袋を退けて、奥から箱を取り出し…… テーブルに箱を置いて中からグラスをそっと出す。
「今出来るのは、コレが限界」
コト……。
それを見た途端、町長の動きが止まった……。
震える手を…… 無理矢理抑えつけ…… そっと…… そっと、大切そうに両手で持つ……。
「これ…… を、ゴウが?」
「そう、結構上手く作れたと思うよ」
試しに作ったウイスキーグラス、結構上手く作れたと思う。




