第五十話、報告書
セールの町について報告
報告者 ロイロルド・ハウンゼン
ザックスレート・アストリア
町の大工でジーンと言う男が農作業を楽にする道具を開発し町の農家の間で広まりつつある。
犂
牛に引かせ畑を耕す道具、従来の道具より土を深く、早く耕せる。
手押し式播種機
押し手が付いた箱に種を入れ、畝に合わせて押して歩くだけで種植えが完成する。
センバコキ
麦を脱穀する際に使用する、櫛になった先から麦の穂を通して引っ張ると麦の実が簡単に取れる。
人力刈り取り機
鎌の代わりに麦を刈り取る機械、持ち手と回り車がついた刃を押して歩くだけで麦が刈り取れる。
乾燥機
収穫し脱穀した麦の実を乾燥させる、麦が悪くなり難く保管できるようになる。
作物について
麦
一列に揃って育った麦は他の畑の麦より多く実もついてながら太く育っていた。
今年の収穫量は試作一年目ながら、一クタール辺り600キロム(従来の方法では一クタール300キロム)
ポタタ
こぶし大の茶色の作物、この町でも初めて育てられた作物だが寒さにも強く。脆弱な土地でもよく育つとの事。ポタタは年に二度収穫でき収穫量は麦の約三倍にもなる。味も良し。毒あり(後述で処理方法を記載)
クローバー
空いている畑ではクローバーが植えられている場所が多く見られる。
その他
領都で見られる白パンでは無いが、柔らかく香り良いパンが作られ町民に多く食べられている。
領都近郊の畑では見慣れなかった作物も試験的に育てられている、収穫は少し先との事で収穫後に報告予定。
……
「何だコレは?」
報告書を読んで頭を捻る伯爵
「ロイロルド卿から届いたセールの町の報告書、でございますが。私も読みましたがアレの件以外にもかなり風変わりな事をやっていた様で御座いますな」
「この大工のジーンと言う男が全てやっているのか?」
「どうやら他にアイデアを出している人物がいるようです」
「この麦の収穫量やポタタと言う作物についてはもっと詳しく調べて報告させよ。道具についても手に入るのなら購入して送れともな」
「他にも、他の畑と違うところがあれば報告してくるように言え何でも構わん」
「恐れながら」
「どうした?」
「それは少しばかり難しいかと、今回派遣された三人は貴族ばかりなので農業の事はあまり詳しくなく、今回の報告もたまたま現場に居合わせた事で報告書に書けた内容かと思われます。見ていない他の畑との細やかな違いには気が付けないかと……」
「そうか、それもそうだな」
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「さて…… では本題に入ろうか」
執事の背筋がピッと伸びる。
「何だこの『魔石の使用方法に関する報告と対応願い』とは?」
「この報告書によりますと、どうやら我々の知らなかった魔石の効果がまだまだあったようですな」
「冷たい水、温かい水、多く、少なく…… 氷…… か、どれも聞いた事も無かったぞ? 今まで誰も気が付かなかったとでも言うのか?」
「正に」
「ふーーっ」
そう息を吐くと、たっぷり時間をおいて……
「これをワシはどうしたら良いのだ? このまま王にでも伝えたら良いのか? 魔石の新しい使い方を発見しましたと? それはそれはスゴイ事になるだろうな……」
「……」
「どうした?」
「そのままでよろしいかと」
「そのままとは?」
「そのまま王にお伝えしたら宜しいかと存じます」
セバスの珍しい発言に疑惑の目を向ける伯爵。
「ちなみにロイロルフ卿は、冒険者ギルドに出向いてギルド本部へも通達を出させるよう指示を出されたとの事。王へ伝わればあちらで何とかされるかと」
「良いのか?」
「宜しいと考えます」
「丸投げか?」
「如何様にも……」
P.S
絹糸の元になる虫は、白くてモゾモゾして大量に動いてて、アリーを連れて行かなくて本当に良かったです。




