第四十七話、ポタタを広める
「町長、ちょっと付き合ってよ」
急に声を掛けられた町長だけど「暇じゃ無いんだがな」とか言いつつ着いてきてくれました。
視察の目的があるので、領都からきた三人にも声は掛けてあります。
「アル…… コールん所か?」
俺が押している猫車をみた町長が、何か察したようで聞いてきた。
「着いてからのお楽しみ」
今回はコールさん家にお邪魔しました。
「でけえ……」
コールさんはこの町一番の畑の持ち主なんだけど。こんなに家が大きいなんて聞いていませんでしたよ?!
「え? 何これ? 町長ん家より大きくない?」
「煩い! 実際ワシん家よりデカいわ! この町で一番金持ちもコールん所だろうよ」
コールさん家の庭には、アルさんの他にいつも手伝ってくれる農家の皆さんにも集まって貰っていました。
「コールさん、ありがとう」
コールさんに挨拶してから、辺りを見回し集まって貰った皆さんにも声を掛ける。
「さて、今日は集まって貰いありがとうございます。早速なんですが、今回は……も? 今回も、新しい作物を試して貰いたくて集まって頂きました」
「新しい?」「豆か?」「それはもうやってる」「またゴウか」「何だかんだ……」
色々声が聞こえてきますが、気にせず始めましょう!
今持ってきた猫車の上にはポタタが積んである。そこから一個を手に取り、皆に見えるように上げると。
「これが、新しい主食にもなる作物でポタタと言います」
と、皆に見えるように近くまで行って見せて回る。
「これが?」「ポタタ?」「主食に?」
「こいつは、暖かくなる頃に植えれば今時分には収穫できるし、暑い時期に植えたら雪が降る前にも収穫できる、年に二度も収穫出来る美味しい作物です」
皆がザワザワし始めるが、説明を続ける。
「見た目の通り、食べる部分が多くて茹でても焼いても、砕いて柔らかくして何かに混ぜたり、色んな食べ方が出来る」
「あら!」「へー」「便利そうね」
呼んでおいた宿屋の奥さんや、農家の奥さん達から嬉しそうな声が上がるが。
「欠点は…… 連作障害で、同じ土地で作りすぎると病気になる。三年は開けた方がいい」
一呼吸おいて。
「それ、と…… 弱いが、毒がある」
「!?」「そりゃあ」「毒か」急に騒めき立つ。
「まって! まって! 毒と言っても食べ過ぎなければ強い物じゃないし、腹を下す程度だから」
「それに毒を避けた食べ方もある!」
慌ててもう一つのポタタを手に取る。
「コイツのように色が緑になった物は毒が強くなっている、それから芽が出てる奴もダメだ。このへこんだ部分から芽が出るから、芽が出てなくても切り取って食べると大丈夫だから!」
一息で説明する。皆黙って聞いているが先ほどまでのノリがない。
「まあ悪い所も正直に話しておかないとね。今日持って来ているのは食べても大丈夫だから、とにかく食べて見てくれ!」
そう言うと、参加している奥さん達にあらかじめ用意して貰っていたポタタを茹でる鍋と、焼く用の鉄板の方へ移動し準備する。
ポタタは洗ってから持って来たのでそのまま鍋に入れる分と、焼く方はザクザクと太めの細切りにして脂を引いた鉄板の上へ。
ジューッ! ジュー、パチッ!
焼ける音と、良い匂いが漂ってくる。
茹でたポタタは十時に切りバターを置いた物と塩の二種類を置いて、これに醤油があれば最高なんだけどな……と、大豆の次のアイデアが脳裏に浮かぶ。
「準備できたよー、どうぞ食べてみて!」
声を掛けるが誰も手を付けようとしない。やっぱり毒の話しは後の方が良かったかな? けど、食べた後で騙したようになるのも嫌だし……。
「熱っふぁ!」
「「「!!」」」
念のためにお願いしていた、今日のスペシャルゲストが登場してくれましたよ!
「あーなんだ、取り敢えず騙されたと思って食べてみてくれ。オレの言う事なんて信じられないだろうけど、旨いぞ」
この町の救世主、ジーンさんの登場です。
今、この町の農家さんにとってジーンは新しい農具を作ってくれた神様みたいな存在だろう、少しズルいけどジーンの言う事を信じない人なんていないでしょ。
「ジーンさんが言うなら」「食べてみるか」「仕方ねえ」
皆さん恐る恐るですが、ポタタに手を出し始めましたよ。
ふっふっふっ、一度でも口にすれば私の勝利です!
辺りには、皆さんがポタタを食べる咀嚼音だけが響き渡りました。