第四十六話、視察
「おーい、ゴウいるかい?」
今日は領都から来た二人を連れてゴウの家を訪ねている、正確にはゴウの家の裏庭で育てているアレの小屋の視察だな。
「あら町長? そうだったわね、ゴウなら裏庭にいるからどうぞ」
扉を開けて出てきたのはゴウの嫁さんのユユさんだった。ゴウには勿体無いくらいの美人さんだ。いや勘違いしちゃいけねえよ、一番はワシの奥さんのリッチたんだからね。
裏庭に行くとゴウは畑仕事の最中で、こっちには気づいていない。
「おう、ゴウきたぞ」
「あっ、町長おはよう。お二人もいらっしゃいませ」
ゴウは気さくに挨拶を返してくる、後ろの二人の身分も分かっているだろうに。まあ他の者には明かさないのでこれで良いのか?
「中を見せて貰いに来た」
挨拶の事など気にならないのか、二人のうち黒髪をピッチリ揃えたロイさんがゴウに話しかける。
「その前に、我々の事を改めて自己紹介しておこう」
ロイさんはそう言って表向きの自己紹介を済ませると、ワシらと一緒に小屋の中を案内して貰った。
ギギッ
建て付けの悪い扉を開けて、中へ。
サワサワサワサワ……
何とも心地よい音が聞こえる、後ろの二人は何の音か分からず首を捻っている様子だ。
ゴウが棚に並んでいる箱を一つ持ち上げて我々に見せる。
「これがそうなのか?」
たくさんの真っ白な虫が、緑の葉を凄い勢いで喰んでいた。
「これが、絹糸の元になる虫で蚕と言います。食べているのは桑の葉で、この虫がこの位の大きさになったら糸を吐き始めるので…… コッチの木枠に移動させて繭にさせます」
別の木枠には小さめの卵のような白い塊が、何個か不揃いに並んでいた。
ロイさんが箱の中身を確認しながらゴウに尋ねる。
「以前来た時には無かったようだが?」
「んーあの時は時期ではなかったからね。あっ町長! もう少しで一回目の繭を収められそうだからさ、奥さんにも準備をお願いして貰っておいてね」
二人を無視して話を進めるな!
中の様子を観察したあと、二人は畑の方を見回した。
こんどはゴウから話し始める。
「ここで育てているのはポタタとトマトゥルと大豆だね」
「ちょっと待て! 大豆は聞いていたがポタタとトマトゥルとは何だ?! ワシは知らんぞ?」
ゴウはそうだっけ? と悪びれもせず頭を掻いて。
「まあ上手く育ったらまた教えるから、暫くまっててよ」
と言うだけだった。
「あっそうだ、これ町長の奥さんへのお土産ね」
ゴウは枝豆を二本引き抜くと根を落とし、軽く葉を取ってからワシに渡す。
こんな量……後ろの二人にも分けろと言う訳か。
「リッチも枝豆は大好きだから喜ぶよ。ありがとう」
ゴウの家からの帰り道、道すがらの奥さん連中が領都から来た二人を見ながらヒソヒソ話しているのを見かけたが、まさかあんな噂話が広まっていたとは……
「町長、奥さんの事リッチたんて呼んでるんだ」
「あらいいじゃない、私も呼んであげようかゴウたん」
「何だいユユたん」
「「……」」




