第四十五話、アリーの散歩
ふん〜ふ〜
田舎の朝の空気は美味しい…… か微妙よね。
けれども領都の朝と比べたら気持ちいい事は確かね。
私はアリー、領都から伯爵の命でこの町に税務官として赴任してきた。
家の引っ越しもやっと落ち着いたので、前から気になっていたパン屋に行くために早起きして出掛けてきたところなの。
それにしても、田舎だというのに町が意外とキレイに保たれているのに驚いたわ。町中を歩く動物が少ない事もあるのでしょうが道の端の方もキレイにしているし。領都でも時々感じる不快な臭いが少ないだけでも嬉しい。
町のパン屋の場所は町長の奥さんから聞いているし、人気のパン屋だと言うので楽しみね。
近くまで来るとパン屋はすぐにわかったわ。いい匂いがしているのと人だかりが出来ているのだから。
パン屋の中は領都のパン屋…… いえ王都のパン屋より素敵だったわ! 床も壁も漆喰で白く塗られていて清潔で、床がとてもキレイなのよ!
パンの種類や量は領都の方が多いけれど。テーブルに個別に並んだパンと、フスマ入りのパンや堅パンは端の方にあって量が必要な人は個別に数を言って店の人から受け取るようになっているみたい。
けれど、私の目が止まったのは一人一人が白い木のトレーを持って好きなパンを選べる事、パンは直接手で掴むのではなくて掴む器具を使うのね。パンの数は少しずつしか並んでいないのだけれど、白パンに胡桃パン? ジャムパン? チーズパン? 季節限定枝豆チーズパン?! 領都でも聞いた事が無いパンが並んでいるのよ!
さんざん迷った挙句、全てのパンをトレーに載せて店員のおば……お姉さまの所へ行く。
「いらっしゃい。おや? お嬢さん見ない顔だね、もしかして新しく越してきたと言う三人さんかな?」
もうそんな情報が広まっているのね。
「ええ、私はアリーよ、よろしくねお姉さま」
「お姉さまだって! ふひひひ、やだねえこんなおばさんに、こんなに買ってくれてありがとう。うちのパンは美味しいからね、男の人が二人もいたらこんなでも足りないだろうよ」
ゴメンなさい、私一人で食べるつもり……。
「そう言えば噂されてたんだけど。二人の男のうちどっちがお嬢さんのイイ人なんだい? あたしゃ聞いた限り黒髪の男の方だと思ったんだけど」
「黒髪の? ……あっ違う違う、あれは兄よ!」
突然話題が変わったので、驚いて変な感じになってしまったわ。
「お兄さんなのかい。へー、それじゃ茶色い髪の兄さんがお嬢さんのイイ人なんだね。ふふふ」
お金を渡し、布に包まれたパンを受け取ると逃げるように店をでたわ……。
「ふーっ」
突然変な話題になって飛び出してきたけど…… ザックがイイ人ねぇ……。
考えたら急に顔が熱くなるのを覚えた。ナイナイ! 何考えているのよアリー!
それから少し町を散歩しながら借りた家に帰ったのだけれど、既にロイが兄でザックが許婚だとの噂が届いていたわ……。