第四十三話、町の一大事
この頃、近所の奥さん達が何だかソワソワしています。
実は、近くのお宅にそろそろ産まれ月の奥さんがいるのです。
「ユユさん、そんなにソワソワしてなくてもお隣さんが呼びに来てくれるんでしょ、ずっと窓の外を見ていないで座ってお茶でも飲んでなさいよ」
ユユさんにもお手伝いの声が掛かっていて、産気づいたら呼ばれると言うのでこの数日ソワソワしっぱなしです。
「ゴウはお産の経験がないから分からないでしょうけど、出産ってとても大変なんだからね!」
いや、ユユさんも産んでは無いよね?
ちなみにオレは、この時使わずにいつ使うのって感じで高濃度アルコールを大量生産し、除菌除菌と出産待ちのお宅の旦那に家中拭かせまくってます。
もっと前からも、お腹が大きい事に気が付いたタイミングでそのお宅の土間を漆喰で固めてあげたりもしたもんね。土間の漆喰化は近所の家から少しずつ広めていますよ。
「ユユさ〜ん、そろそろだってさー」
ユユさーん、お隣からお呼びが掛かりましたよー。
「はぁー、大丈夫かなぁ、無事に産まれてくるかなぁ」
急に不安になったようです。
「ユユさん、大丈夫だって。お呼びが掛かってもまだ直ぐには産まれないから、今からそんなに緊張してたら体力持たないよ」
ユユさんは緊張マックス状態ですね。
「さて、これ持って行きますよ」
「何でゴウさんも行くの?」
「除菌セットと清潔な布に、水の魔石を届けに行くの。ユユさんオレが言った事覚えてる? 家に入ってくる人達には必ず手を洗って貰って、この高濃度アルコールでさらに仕上げ。妊婦さんが寝ている部屋はとにかく拭いて、あと皆に口覆いをお願いしてね。水の魔石も気にせず使って、温かい水は出せるようになった? かなり熱い水で良いからね、使った布はお湯に入れてジャンジャン新しいの使ってね、あとは……」
「うん、ゴウさん分かったから」
・
・
・
それから数時間……
「産まれたぞ〜!!」
「元気な男の子だー」
「産まれた産まれたー」
どうやら無事産まれたようです。頼まれた男の人が近所中に知らせて回ります。
産まれたかー
ガタガタ!
「よっこらせと」
さあ、お祭りですよー!
この町では伝統的に子どもが産まれるとお祭りになります。と言うか、出産のために近所の奥さんや年頃の女性達が皆手伝いに集まるからです。
女性たちが居なくなると、当然家には男手ばかりになります。おばばや小さな女の子はお留守番でいますが、男達の方が多いので必然的に家の事は男達がします。
掃除をしたりご飯を作ったり赤子の世話をしたり、そうして何よりご馳走です。出産の手伝いをしてくれた女性達に対して感謝と慰労の食事を振る舞います。
「産まれたー」の声を聞いた男達が、それぞれ作った食事を持ち寄りお祭りになるのです。
「やれやれー」「お疲れさま」
「今回は早かったなー」「今年何人目だ?」「あっちの嫁さんが……」
ワイワイ、ガヤガヤ、とても楽しく飲み食いして赤子と母親の無事を祝うのです。
赤子が産まれた家にも食事が運ばれて、家族でゆっくりと過ごして貰います。
この町の楽しみの一つです。




