第三十一話、リリちゃん
今日は水車小屋です。
ギッギー
ちょっと硬めの扉をあけて、アレ?誰かいる?
「おう、お邪魔してるよー」
防具屋のギルさんでした。
「ギルさん、今日はこっちだったの?」
「本業の方が少し手が空いたからな、ちょっと様子見にきた所だったよ」
ギルさんには最初に硬い板(セルロースナノファイバーを硬めた板)を見て貰ってから、ここのカギも渡してある。中にいる時もカギを掛けるように言っているので、オレが入る時は気づかなかったのだ。
「どんなもん?」
「なかなか進んでいるんじゃないか?」
ギルさんは防具に仕組む硬い板を手に持ってそう言ってくれた。
今、ココでは硬い板の元になる物を作っている。水車からの動力でミキサーを回し、植物の繊維を延々と掻き回し続けているのだ。時々目の細かな布で漉して回してを繰り返し半透明くらいの懸濁液になった所で平たい石に塗って乾かすと半透明な紙の出来上がり!
この紙をもう少し厚めに作り数枚重ねたのが、今明かり取りの窓に使っているガラスで。防具の木型に合わせて塗って、膠で貼り合わせた物が防具に活用出来ないかギルさんと試している所なのだ。
試しに作った物はオレが狩で使って実用実験中だな、けれど獲物に襲われる様な事は滅多に起きないので、実質硬さによる動きの妨げや軽さのバランス取りくらいだけど。
一度、どのくらい硬いやつが作れるか試してみたが、硬いってのは刃物や魔物の牙なんかは防げるが衝撃は通る、なので衝撃にも耐える仕組みを取り入れない限りはデカくて重い金属盾の方が有効なので、軽くても刃物を通さない硬さのバランスが重要だと分かった。
あとは獲物により使い分けだな。前回のウルフ系とベアーでは全然違ってくるからな。
これがまとまったらテツとアベルにも特製の防具を作ってやろうと考えている。
……
「ただいまー」
「おかえりー」
愛するかわいい嫁のユユと娘のリリが……あれ?リリちゃん?
「リリちゃんは熱心に何を編んでいるのかな?」
「……」
返事がない……はっ、これが噂に聞いた反抗期と言うやつか!?まさかリリちゃんにも反抗期が?お父さん臭いとか言われちゃう?ノォーーー!
「あっ、お父さんおかえりなさい。編み物してたら気が付かなかったや」
気が付いたリリちゃんがめっちゃ笑顔で返事してくれました。
「リリちゃんは何を編んでいるのかな?」
リリちゃんの手元は凄い勢いで動いている、え?ちょっと早過ぎない?
「ベールだよ」
黙々と指を動かしながら答えてくれるリリちゃん
「ベール?、ベールって?へ?、リリちゃんどこかお嫁に行っちゃうの?お父さん聞いてないよ!」
反抗期かと思ったら、いきなり結婚話になりました!
「違うよお父さん、こないだねお母さんからお姫様のお話を聞いて、お姫様の結婚式では素敵なベールを被るって聞いたからレース編みで作ってみてるだけだよー」
なるほどーってか、それだけで編んでしまえるリリーちゃん凄くない?
と言うか、何だか凄いのが出来てそうな気がするんだけど……




