第三十話、男の推測
業者の男は再度バザールの町を訪れ、町のあちこちで話を聞き出そうとしていた。
どうやら伯爵に何か話をする為に訪れていたと言う事までは聞きだしたが、肝心の「何か」は突き止められず何もわからないまま、次は出入り禁止を言い渡されないかと顔を青くしていたが、男はふと最近寄っていなかった町のことを思い出した。そして冬に向けて薪の確保の話もする必要がありセールの町へと向かったのだった。
セールの町へ辿り着いた頃には夕刻で、さっそく宿に入ると食事場へ入っていった。情報収集と言えば酒場か食事場だ。男は食事を頼むと周りの声に耳を傾ける。
ガヤガヤ……ザワ……ゴウのや……忙しいってのに……ザワ……何だよ……畑も……ガヤガヤ
何やらオレも顔を知っている連中が集まって飲んでいる様だが、何かあったのか?
業者の男は食事を食べながら会話を盗み聞き入っていた。
……
翌朝
「お客さーん、朝ごはんの用意が出来ましたよー」
宿の娘さんが泊り客の部屋に向かってそう声を掛けると、今日は客が少なかったのか業者の男の他はもう一人だけのようでサッサと食事場へ歩いて行った。
席に座ると、宿の娘さんが朝食を持って来てくれる。
「ん?」
朝食はパンにスープだったが、やけにいい匂いがする。
「これは?」
パンを手に取り一口食べる、気がつくとパンもスープもキレイに無くなっていた。
「いや、うまかったな。」
宿屋を出た男は、予定通り冬場の薪を確保するため木樵の頭の家へと向かっていたが、昨日の夜に聞こえていた話を思い出し遠回りになるが畑の方へと向かった。
「何だ?」
男が辿り着いた畑では、丁度耕している最中だったのだが何かおかしい。牛を使って耕すのは隣の領でもやっているが、あんな風には耕かせてはいなかったはずだ。
それに、牛に引かせている農具も見た事がない。作業している人物に近寄り声を掛けてみる。
「おはようございます」
声を掛けられた男性が振り返る
「何だ?」
「いや、ちょっと見た事ない農具を使われていたので珍しくてつい声を掛けてしまいました。」
「そうか?よそとそんなに変わらないだろうに」
警戒されているのか、あまり詳しくは話してくれなさそうだ……
「いや、オレの知っているヤツはあんなに深くは返せないし、牛の帯も苦しく無さそうな」
「ふん」
少しは分かる奴と思われたのか、少しづつ話してくれた内容は
最近この町の大工と鍛冶屋が作った道具が結構ある事
畑を耕す前にもいつもと違う事をやっている場所がある事
井戸が改良され女性や子どもにも使い易くなった事
パンが旨くなった事(これは朝メシの話の時に感じた)
どうやら農業に関して新しい事を始め出したようだ、この男が出入りしている隣の領は農業が盛んで、この町よりずっと畑が広く麦やその他の穀物を多く取引している。
この町は穀物をよそに売る分までは作れず、主に林業と魔石の取引が多い、そこで農業を広めようと新しい事を始める為に伯爵に許可を求めに行ったのかも知れないな……
新しい情報が知れた事で男は気を良くし、木樵の頭との打ち合わせも早々に終わらせて隣領へと帰って行ったのだった。
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