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第三話


 暗い……。


 上も下も分からない、進んでいるのか止まっているのかさえも分からなくなる程に真っ暗な中を漂い続け。


 どれだけの月日が過ぎたのか。自分自身のことも忘れてしまうくらい恒久な時が過ぎたのか、まだ一時も過ぎてはいないのか、私は何故ここにいるのか何も分からないけれど、ここから出たいと言う事はわかる。


「ここから出たい」


 どれほどの時が過ぎたのか、どれだけ待てばよいのか。


 僅かな光が見えた。


 その光に向かって進んだら。


 いつの間にか真っ暗だった場所がなくなって。


 優しい光に包まれた場所に出ていた。


 優しい光、温かな光。

 

「うぁ、ふぎゃー」


 なに!!


「おい! 生きているぞ!」


「まさか、そんな……」


「アベル、あなたの名前はアベル。あなたは今日からここで過ごすのです。」


……


トスッ!


「やった」


 足音を立てないように仕留めた獲物を回収すると、必要な手順を踏んでまとめる。


 鏃の具合は…… あーちょっと骨にあたっちゃったかな。


 アベルが慣れた手付きで次々と作業する姿を見ていると、いっぱしの狩人にみえるが、こいつはまだ九歳かそこらのはず……。


「ゴウさん、この鏃どう思いますか?」


アベルが、さっき使った矢を持ってくる。


「どれ……!!!」


 渡された矢を見て驚いた、その先に付いていた鏃は確かに獲物の骨に当たったのか僅かに歪んでいたが、それよりもその鋭い研ぎに驚いたのだ。


「アベル、お前がこれを研いだのか?」


 アベルは怒られるのかと思ったのか、少しオドオドしながら答えた。


「う、うん、僕が研いだんだ……やっぱり下手くそだよね……でも! 新しい方法を考えて、最近は上手く研げるようになってきたんだよ」


「新しい方法?」


「あっ、え、えと砥石をね、こう回るテーブルに載せてグルグル回して、回っている砥石に鏃を当てて研ぐんだよ。鏃を動かしながら研ぐよりズレにくいから綺麗に研げるんだ」


 砥石を回す?


「ちょっとまて…… 今日の獲物は充分獲れた。明日は休みにするから、そうだな昼過ぎに教会に行くからその研ぎを見せてもらえるか?」


「うん!」


 翌日、朝は昨日狩った鳥の始末と道具の手入れ、ユユさんの手伝いと昼メシを済ませて教会へ向かった。道すがら昨晩も考えていた事を思い出す。


 砥石を回すという事はロクロか? しかし教会の辺りに川は無かったはず。


 俺の家は町の西側で森に近い方にある。狩をするから当然なんだが、町の中心は反対の南側で東側にはそれなりの水量の川があり畑が広がっている。南北へは街道がありその先は大きな街と繋がっている。

 

 何にせよ、どうやってアベルがそれを思い付いたのか、何を作ったのか、とにかく見てからだ。


 教会に付き、お祈りを済ますと教会の裏の孤児院へ案内してもらう。ギルド経由だがアベルを良く狩に連れて行くのでシスターにも少しは顔を知られている事と、お布施と昨日獲れた鳥肉を手土産にしたので案内もスムーズだった。


「あっ、ゴウさん」


 俺を見つけたアベルが笑顔で迎えてくれる、他にも顔を見た事がある少し小さい子どもたちも一緒だ。


「おうアベル、約束通り道具を見せてもらいに来たぞ」


 小さな子どもたちがくっついてくるので、引っ掛けないようにしながらアベルの近くまで歩いていくと、昨日話していた道具の準備をしている所だった。


「それか?」


「はい、これが昨日話した道具です。」


 アベルがどういう仕組みになっているのか丁寧に説明し、実際に動かして見せてくれる。


 昨晩いろいろと考えたのだが、どうやら動力は手の空いた子どもたちで交代で回す人力方式だった。


「それにしても凄いな、どうやって思いついたんだ?」


 アベルはいつもの様に首を少し捻って。

 

「えっとね、鏃を研ぐのが面倒だなあと考えていたら、何か急に頭に浮かんできたんだ。」


「思いついたのか?」


「思いついたと言うか、知っていた事を思い出した感じかな? けれど、本当は全然知らないことなのにね、僕にも上手く言えないんだけれど…… 」


 話を聞いて、俺はアベルも転生者じゃないかと思ったそれとも天才の部類か?


 そして俺も思い出した! 知っている、俺は知っている。水車も歯車も内燃機関も、回転運動を上下や前後運動に変える方法も。いや、もっともっと凄いことも知っている。


 知っていたが忘れていた……。


 子どもの頃、前世の記憶を思い出した後の衝撃で二日間も寝込んだ時に、知識チートの事はすっかり頭から抜け落ちていた。


「ゴウさん?」


 黙り込んでしまった俺に、アベルが心配そうに声を掛けてきた。


「あっ、いやいや凄いなアベル! これはどうやって作ったんだ? まさか自分たちで作ったのか?」


「大体は自分たちで作ったんだけど、この辺とかは大工のジーンさんにお願いした部分もあるよ」


 それから実際に使っている所を見せて貰った後に色々と細かな話を聞き、俺はすぐさま動きだした。


 大工のジーンのところへ行き、アベルに作った部品について。それに俺が知っている知識を合わせてある物が作れるかどうか相談。


 実際に作れるかはまだ先だが、確実に町のためになるし、金にもなる…… はず?


 ジーンの所を出たら、俺は南に向かった。川の様子と畑の具合、もし水車を作るとしたら何処が良いか。この町で必要となるもの、何が使えて何が使えないのか、どこまで広めるのか……。


 数日掛けて調べた後は、ジーンと共に町長の家へ向かった。


 もちろん、事前に声は掛けてある。小さな町とはいえ町長は忙しい、空いている時間を聞いて今日になったのだ。

 

「町長〜」


 

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おぉっ!アベルくんは転生者!!(* ゜Д゜) 「思いついた、というのか知っていた事を思い出した」 このセリフから考えても転生者で間違いなさそう! ゴウさんも知識チートで便利な道具とかどんどん開発すれ…
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