第二十八話、耕す
「何?!バザールの奴が伯爵領から二カ月も戻らなかっただと!」
出入りの業者から隣領の様子を聞いていた人物が急に怒鳴りだした。
「伯爵領で何をやっていたんだ!」
業者の男は急に怒鳴りだした人物に対しオドオドしながら
「いや、そこまでは聞き出せていなくて……」
「そんな事も調べられんで此処に来たのか!もういい!今度はもっとマシな話を持ってこい!」
……
「「「「「お、おおおおおおおおお!!!」」」」」
おっさん達のむさ苦しい声が響き渡る
ここは地主のアルさんの持ってる畑、ついに犂と手押し式播種機が形になり皆さんに披露したのである。
ちなみに備中鍬と猫車は既に披露済みで、現在は町の鍛冶屋総出で増産に当たっております。
「土が、土が……こんな簡単に」
次々と試しては感嘆の声をあげる農家の皆さん
「こっちの種の奴も凄いぞ、これならどんな広い畑でも一人で種まきが終えられる」
大工のジーンと防具屋のギル、テスト段階から手伝ってくれていた地主のアルさんとコールさんも皆の反応に満足そうに頷いている。
「さてジーン、これあと幾つ作れる?」
笑顔で答えるジーン
「アホ言えゴウ、畑耕す時期まであと一ヶ月もないのに何台も作れるか」
笑顔のまま答えるジーンが怖い
いやギルさん、笑ってるけどアナタもですよ?
……
さすがジーンさん、あれから犂は三本も追加で作ってくれました。播種機の方はテスト用の奴を完成版に改良して何とか一台追加。どちらも農家さん達に大好評で最初に手を挙げてくれた四人の地主さんに犂は一本ずつ、手押し式播種機は交互に使って貰いながら追加の完成を待って貰っています。
次々と耕かされる畑、牛一頭に誘導するのに一人と犂を抑えて操作するのに一人、これだけで離れた隣の畑を耕している人々を驚かせていた。
その後、手を挙げていなかった他の地主さん達が町長のとこに押しかけた。
新しい道具でどんどん耕かされる畑をみた他の農家さんが、ワシとこの地主さんはどうして参加してくれなかったのかと言い寄られ、町長さんの家の周りは一時騒然となっていたそうだ。
「まてまて、話を聞きなさい。あの畑を耕す道具はまだ作る予定だ、それに今使っている地主のとこの畑が終わったら次はお前さん達の畑も耕すと言っている、数日遅れる事にはなるが使わせないとは言ってないぞ」
地主達は口々に「俺たちも使えるのか?!」、「新しい農法とやらに参加していなくても良いのか?」、「ワシのとこにはいつ回ってくるんだ」とさらに騒がしくなったそうだ。
結局、この町で畑を持っている地主は全員町長の提案に乗ることになった。それでもクローバーから試せるのは来年からになるので収穫量の比較がより分かりやすくなるのかもな。
犂に関しては、資料を探してどの時代に当てはまるのか自分なりに調べてみたのですが、発達した地域であれば導入済みで、ゴウの住む地域は遅れている感じで入れさせて頂きました。