第二十六話、それぞれの
「ただいまー」
「「おかえりー」」
愛するかわいい嫁のユユと娘のリリが満面の笑顔で出迎えてくれる
テツは裏庭で槍の訓練をしているようだ。
二人は編み物の途中だったらしく、オレを出迎えたら直ぐに奥へと戻って行った。
「そうだ、二人にお土産」
コトッ
テーブルの上に、木の持ち手の先に細い金属の付いた棒を置く。
「あっ、新しいかぎ針だ!」
そう、我が家で編み物と言えばかぎ針編みなのだ。
この辺りでも編み棒による編み物は寒い時期の内職の定番だが、オレは前世でかぎ針編みが好きだったのでこの町に落ち着いてから時々やっていたのだ。それを家族に教えて、今ではリリもハマってやっている。ちなみにユユさんは編み棒の方が得意だ。
「すごい!小さーい、それに木じゃないね?」
「そう、その先の部分は金属になっている。それで編んでもらう糸はこっち」
町長の家で貰ってきた絹糸を取り出す。
「ほっそーい、それにキレイ!」
リリもユユさんも絹糸のキレイさにウットリだ。
「二人とも、この糸を使っている時は絶対に他の人から見られないようにね」
「「分かってる!」」
「おとうさん、コレはどんな編み方をするの?」
さっそくリリが新しいかぎ針を使いたいようでウズウズしている。
「この糸を使ってレース編みをしようかと思っているんだ」
「レース編み?」
「そうかリリは知らないか、おとうさんもあまり教えられないけど、リリだったらスグに覚えて沢山出来るようになるさ」
「うん!リリたくさん覚える!」
……
ビュッ、シュッ!
「うりょ!」
相変わらず掛け声が微妙だな。
「頑張ってるな」
テツが一息ついた所で声を掛ける。
「とうさん……あれその格好は?」
今のオレの格好は、防具は着けていないが右手にショートソード代わりの木剣と左手に小型の盾を持っていた。
「ちょっと、稽古を付けてやろうかと思ってな」
「!!」
オレは今までテツに武器の扱いと言うより、走り込みさせたり体の使い方など基礎的な事しか教えて来なかった。
まあ、この近辺にいる動物や魔物相手だと回数こなしていけば何とかなる程度なのだが、冒険者になって外に出るなら別だ、先日のワイルドウルフなんてザラで、その上のベアーなんかに出会ったら簡単に死んじまう。
それと……もっと大事なのは対人戦だ、嫌な事だが冒険者になると人を斬ることもある……
盗賊になった奴らや、辺鄙な場所に行けば普通の農民から襲われる事もある。ちなみに他の大陸に渡ると人型の魔物も居るらしい、オレは出会った事がないのでどんな奴かは知らないが。
ともかく、冒険者をやっていくのであれば対人戦の経験も積んでおく必要がある、と言うわけで今日の訓練だ。
「うりょ!」
カン!カンッ!
「ほらほら軽いぞ、もっと強く!」
テツが突いてくる槍を、殆ど剣さばきだけで交わしていく。
「クソ!」
ガッ!
「おっ!今のはイイぞ」
「ドンドン来い!」
二人の稽古は日が暮れてユユさんに怒られるまで続いた。
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