第二十五話、アレの進捗
前話より時間が少し戻ります。
三人組に技術を伝えた少し後くらいの話です。
シルク生産も細々ながら継続している。
我が家で育ててる蚕は、だいたい月に一度繭になった個体を十個ほどを残して町長の家に持って行き絹糸にして貰っている。絹糸にする時も繭を何個使って一本の糸にするのか等、色々試して貰っている所だ。
「今のところ繭を七個使って一本の糸にした物を多く作っています。この糸をさらに撚って太くして、作る生地の用途に合わせる感じが良いと思っています」
「そうなんですね」
出来上がった糸を見せて貰いながら説明を聞くが、太さの違いは殆ど分からない。
「それと、ゴウさんにちょっとお願いがあるのですが」
首を捻って絹糸を見比べているオレに、奥さんが恐る恐る聞いてきた。
「何でしょう?」
横のテーブルに置いてある、持ってきたばかりの繭の入った箱を横目で見ながら。
「この繭なのですが、成虫にならないように出来ませんか?」
「え?あっ!もしかして!」
「はい、前回預かった繭なのですが、いつもなら直ぐに絹糸にする為に作業するのですけれど、その週は用事があって数日遅れてしまって、気がついたら幾つか成虫になっていたり、繭が緩くなって使えない物が出てしまったのです」
「あーそうかあ、やっぱり虫は苦手ですよね。ウチも娘からは絶対見えない様にしててと言われていて。」
「あっ、虫は大丈夫なんです。むしろ可愛いですよね、お蚕さん。それよりも羽化した後の繭や柔らかくなった繭は絹糸には出来なくなってしまって、それがとても残念で……」
お蚕さん可愛い?なるほどそっちか。
「それと、成虫にならない様に出来れば、繭をたくさん置いておく事が出来る様になるでしょう?」
「はい」
「そうすれば、質の良い繭だけ集めて絹糸にする事が出来るので、とても良い布を織る事が出来るのではないかって思うのです」
「質の良い?え、奥さんは繭を見て良し悪しが分かるのですか?」
「え?分かりませんか?」
「「え?」」
……
家に戻ったオレは、裏庭の蚕小屋に寄って先ほどの奥さんの言葉を思い出していた。
「羽化しないように、か」
繭から絹糸にする時にはお湯で茹でてしまうから当然中の蛹は死んでしまうが、そう言う事では無いんだよな。茹でて置いておくとカビが生えたりしそうだし、たしか繭が緩くなるからやっぱり保存には向かなそうだしな。
小屋の中を見回しながら、何かヒントになりそうな物を探していると、交換して肥料にする予定の桑の葉を見つけた。
「こいつは纏めておかないとな」
古い桑の葉が入っているカゴを持ち上げた時、引っかかっていた葉が一枚落ちた。
カサッ。
「!」
落ちた葉を拾い上げる。
「乾いている……乾いてカサカサになった葉、そうか!」
オレは小屋を飛び出すと、急いである所へ向かって走りだした!
「ジーンくーん、お願いがあるんだけどー」




