第二十話、二人の同僚
「アリー、ちょっと良いかな?」
廊下を歩いている女性が後ろから声を掛けられて振り返る
「あら、ザックにロイロルフ、どうしたの?何か用かしら」
「アリーはお金の計算とか得意だったよな」
「計算は得意よ、おかげで金に煩い女だと言われて婚期も逃し掛けてる女だけど何か?」
「いやいやいやいや、ちょっとお金の事で手伝って欲しい仕事があってアリーにどうかなと声を掛けただけだよ」
「へー、で?何の仕事?」
「詳しくは言えないんだが」
「なによそれ!」
ザックは周りを探るように見回して
空いている部屋を指さした。
バタンッ
部屋に入るとロイロルフが入り口前を塞ぎ、ザックはアリーを奥へと誘う。
「な、なによ……」
訝しむアリー
「俺たちが先日、伯爵の指示で領都を離れていた事は知っているかい?」
「ええ、そうらしいわね、何か楽しい事でもあった?」
「殆ど何もない田舎の町だったよ、そう言えばパンだけは美味かったな」
ザックがロイの方を見ると、ロイも黙って頷き肯定していた。
「ロイまで、それは興味あるわね」
「興味を持ってくれて良かった。そこは領都から離れたある男爵領のちいさな町なんだが、今度そこに長期で赴任する事になってね。お金に詳しい人物も必要なので、信頼できる君にお願い出来ないかなと思ってね」
「へー、貴方がたが向かうなんて何か余程の理由がありそうね」
「その辺は、今はあまり詳しく聞かないでくれると助かる」
「なるほど……それで、行くのは何年くらいなの?三年、五年位かしら?」
「……」
「何よ?」
「ロイとも話したんだが、この話し上手く行けば行くほど任期が長くなりそうなんだよな、そうなると女性には声を掛け難かったんだが、アリーなら事情もわかってるし独身で動きやすいかと思ってね」
「そんなに!?もしかしてそれってプロポーズも込みなのかしら?」
アリーは一歩ザックに近寄り、ワザと期待を込めた様な目でザックを見る。
「……」
手を広げ、顔を横に振りながら息を吐き
「あのね、黙り込むくらいなら笑ってくれた方が私も冗談で済ませられるのよ」
「すまん」
「まあいいわ、とにかく私はその町に一緒に行って、お金に関する仕事をすれば良いわけね」
「有体に言えばそうなる」
「いつ頃いくの?」
「来年の春頃かな」
「分かったわ、辞令がでたら教えて頂戴」
「助かる」
話は終わりと、入り口へ向かうアリー
「どいて頂けるかしら、ロイロルフ卿」
「良いのか?アリーシア」
「私は別に、私が必要とされる場所で仕事するだけよ」
スッと横にずれ、ドアを開けるロイロルフ
「ありがとう」
痩身で、制服が似合う女性が颯爽と歩き去る姿を男性二人は黙って見送るのだった。
妙齢の女性に、長い期間の出張だなんて、ましてや相手が……ねえ。
次回は、ゴウが三人の職人に無茶振りをします。




