第十四話、町長が帰ってきた。
町長が帰ってきたのは領主に会いに行ってから2カ月後の事だった。
その間、一度だけ領主の家来の方が来て暫く帰らないと伝えたきり。もしかして領主の機嫌を損ねて殺されてしまったのではないか等といろいろ噂されていた。
領主は町長から献上されたシルクの布を見て感動し、これは伯爵に献上せねばとそのまま伯爵の住む領都まで町長も一緒に連れて行ってしまったそうだ。
領都まで馬車で3日、領都に着いて伯爵に面会の手紙を出し返事が来るまで3日、実際に面会出来たのはそれから1週間後の事だったらしい。
伯爵は献上されたシルクの布を徹底的に調べさせた、町長や領主に話を聴くのは何度も繰り返し。本当に町長の町で作られたのか、他の場所で作られたのを購入もしくは盗んできたのではないか、作ったとして原料はどうやって手に入れたのか、あらゆる情報を手に入れようとした。
町長はその間、伯爵のお屋敷に閉じ込められていて、お屋敷の中は比較的自由に出歩けていたそうだが(もちろん監視のメイド付きで)、屋敷の外は庭にさえ出させて貰えなかったらしい。
門外不出のシルクの製法を、全く知らないはずの町長が持ってきたのだそれも当然だろう。
当然伯爵はシルクの存在も知っているし、何処で作られているのかも知っている。この国の中で国外から入ってくる以外のシルクの生産地も知っている数少ない貴族の一人なのだ。
伯爵も以前、シルクが生産できないか考えた事があった。しかし、元になる原料については詳細を知らされておらず国内での生産地は伯爵の領土より南に位置する土地だったので諦めていたのだ。
そこへ振って沸いた自領でシルクの生産が出来るとの話、しかも現物を持ってきたのだ。胡散臭い商人の持ち込んだ話ならともかく、己が収める領土の領主と町長からの話となると訳が違う。
町長と領主が伯爵のお屋敷に閉じ込められている間、伯爵は執事に命じてある人物を領主の街へと向かわせていたのだった。
……
「報告を聞こうか」
人払いされた伯爵の自室、他は筆頭執事だけという中で緊張した面持ちで二人は話し始めた。
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それぞれの報告が終わり、執事の入れた紅茶で一息入れた後。
「ロイロルフ、お前はその男をどう思った」
ロイと呼ばれていた黒髪の男が答える。
「信用は出来ると思います、実際に現物もありましたので」
「ザックはどうだ?」
「胡散臭さはありますが、私もロイロルフと同意見です。それと、あの町にはまだ他に何かありそうな気配もありました」
「ほう、何かとは?」
「すみません、そこまでは調べる時間もなく帰って参りましたので。」
「まあ良かろう、出来るだけ急いで調べて帰って来るように言っておったからな、僅か五日で現物まで確認して帰ってきたのだ、それだけで充分だろう、ご苦労だった」
「「ありがとうございます」」
「さてセバス、この件どう進めたら良いと思う?」
「そうですね、普段の例であれば直轄領にでもしてこちらで管理出来ると良いのですが、この件は話が大きくなると何処からかに漏れるとも限りませんので、町の管理はそのままで、こちらから人を送り込んで監視させるのが良いかと」
「やはりそれが良いか」
伯爵は、自慢の髭を撫でながら暫く考える素振りを見せた後
「では、ロイロルフとザックにその任を命ずる。セバスよ後の事は任せた、二人ももう下がっていいぞ、帰ってよく休め」
町長さん、大変だったんですねー。
まったく誰のせいでしょう。
そして、貴族にも目を付けられましたよ。
次回は、町長と伯爵サイドのお話しです。




