第十二話
「辺りと良く見比べて、違和感を探すんだ」
「「はい!」」
今日はテツとアベルを連れて狩に来ている。
テツが十四歳、アベルも十二歳となり二人とも冒険者になりたいと言い出したので、狩をしながら本格的に指導を始めたのがこの春からだった。
ちなみにアベルは最初に会った時八歳と言っていたが実際には十歳だった事が分かり、テツと一緒に行動する事が増えた。
「ここにウサギの足跡がある、分かるか?」
テツとアベルは、俺が示したウサギの足跡の場所をジッと見る。
「「……」」
「どうだ?」
「わかんねぇ……」
悔しそうな顔をしてジッと足跡の場所を睨むテツ。
「あっ、分かったかも!」
対してアベルは何か分かったようだ。
「これが後ろ足で、ここ! グッと蹴ったような跡だよね」
「正解だ、ちなみにこれは動物のウサギだな、小物の動物は警戒心が強いから余程慌てたりしないとこんな風に足跡は残さないんだが、魔物の場合はウサギでも警戒心は薄いからこんな風に足跡を残したりするが……」
「「……」」
ジッと足跡を見つめる二人。
「!?」
大物の気配を感じて顔を上げる、何かが近付いて来ているようだ……。
「オヤジ?「シッ!」」
話しかけようとするテツを手で抑える、俺が緊張している事に気がついたのか、二人ともジッとして動かない。
森の奥に見えたのはワイルドウルフだった、狼は群で移動するが魔物の場合は数も少なくなる。いま見えたのは二頭だったが他にも居るかもしれない。
「お前たちはここから動くなよ」
二人を茂みに隠れさせ、出来るだけ気配を消して移動する。
子供達が見つからないようワザとワイルドウルフの風上に移動して俺の匂いに気づかせる。匂いに気がついたワイルドウルフが一気に向かって来た!
出来るだけ子供たちから離れる方向で! ワイルドウルフからは離れ過ぎない距離を保ちながら! かつ追い付かれないないよう全力で逃げる。
「チッ! この所サボってたから中々厳しいな」
上手く二頭とも誘えたのは良かったが、この状況で二頭を相手にするのはかなり厄介だった。
ガサガサッ!!
枝や草を引っ掛けながら、半分ワザと音を出して魔物の興味を保つように逃げる。
大岩と木々が上手く並んでいる場所まで誘導し、左右から同時に襲われない状況まで持って来る事が出来た。
「はぁはぁ、さてオマエらどっちから先にやられたい?」
乱れる息を整える。
ギラギラした目つきで涎を垂らし今にも襲いかかりそうなワイルドウルフだったが、状況があまり良くない事もわかるのか、直ぐに飛び掛かっては来なかった。
「チッ、飛び掛かってくれた方が楽だったのによ」
ワザと前に出て襲いやすいように誘うと、我慢できなかった一頭が飛び出して来た!
「あんがとよ!」
「うりゃぁ」
噛みつこうと口を開けて飛び込んできた所に左腕を出して口に突っ込む、そして右手のショートソードで心臓を一突きそのま縦に抜き去る!
胸から腹へ切り裂かれたワイルドウルフが俺に覆わるように倒れて来たとき、もう一頭のワイルドウルフが何かに気づいて子供たちのいた方向へ駆け出していった。
「あっ! くそ」
死んだワイルドウルフを振り払い、もう一頭を全速力で追いかけるがなかなか追いつけない。
「テツ!!」
心配したのだろうか、テツが隠れていた茂みから出て来ており、テツを見つけたワイルドウルフがまさに飛び掛かった瞬間! 茂みから飛び出した何かがワイルドウルフにぶつかり跳ね飛ばされた。
ぶつかって体勢を崩したワイルドウルフが再度襲い掛かろうと振り返った時、追いついた俺はショートソードをワイルドウルフのクビに叩き付けていた。
「はぁはぁはぁ、テツ大丈夫か?」
ワイルドウルフが死んでいる事を確認してから、テツの方を振り返る。
腰を抜かして座り込んでるテツ。
「あ、ああオレは大丈夫、それよりもアベルが……」
アベル! あの時薮から飛び出したのはアベルだったのか! アベルは跳ね飛ばされた格好のまま地面で動かないでいた。
「アベル! 大丈夫か!」
動かないアベルの元に駆け寄り声を掛ける。頭を打っているかも知れないので体は動かさない。
「う、うう……」
狩の指導中に大変な事が起こりました、アベル君の怪我は大丈夫かな。
次回第十三話、ギルドへの報告と新しい素材作りでジーンさんへ無茶振りします! そして第十四話、やっとあの人が帰って来ます!




