第十一話
金集めとして始めたのはパン酵母作りだった、今までこの町で作られているパンは小麦は使っているが全粒パンが主で、白パンは町長か教会のお偉いさん方が食べる程度だ。それも酵母が上手く使われておらず、焼き立てでも結構歯応えのあるパンでしかない。
少しでも旨くなるようにと我が家では、りんごに似た果物から発酵させた酵母を作ってパンを焼いていたのだが、この酵母を町のパン屋に売ることにした。
「何でこんな凄いの黙っていたんだい」
パン屋で、家で作っているパンを試して貰ったところ、パン屋の奥さんから凄い剣幕で詰め寄られた。
「そんなにかい?」
「凄いなんてもんじゃないよ、まるで違うじゃないかい!」
めでたく我が家のパンは、パン屋の奥さんから太鼓判を貰い、定期的に酵母を買ってもらえる事になったのだ。
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朝メシを大満足で終えた俺たちは、支度をして町長の家へと向かっていた。
「直接乗り込むのかい?」
「近所に聞き込みしても何も分かるまい、ごく一部の身内か関係者だけしか知らない話のはずだ」
「へー、そんなもんかね」
話をしながら宿で聞いた町長の家へと着くと、家の前に一人の男が立っており、気さくに挨拶をしてきた。
「やあ、おはよう」
「……」
「そんなに警戒されなくても、オタクたちはバザール男爵の…… いやもしかしてアストリア伯爵様の使いの方かな?」
「「!!」」
「あたりかな?」
「キサマ、何者だ」
ふざけているのか揶揄っている目つきの男に、思わず腰の剣に手を掛けそうになった。
「まあまあ、そんなに睨むなよ。オタクらの目的は分かっている」
男はそう言うと、チラリと家の方を向いた。
我々も釣られて家の方を向くと、いつの間にか家から一人の婦人が出てきた所だった。
「オタクらが探しているのはコレだろ?」
男が指示をすると、婦人は手に持った小箱を差し出し、フタを開けて中を見せる。
「これは確かにこの町で作った物だと伯爵様にも伝えてくれ、必要ならば持って行ってくれても構わないが……」
「!」
持って行く、と言う言葉を聞いて婦人の手が震える。
「あ、あーすまないがソイツは奥さんに渡してしまった物なんで、出来れば用が終わったら返して欲しい。町長が帰る時にでも持たせてくれると助かるんだが」
婦人も、青い顔をして一言ずつ頷き返す。
「中身さえ確認できれば持ち帰る必要はない。我が主人も我々の言葉を信じてくれるだろう」
婦人はホッとした表情で小箱を大事そうに抱え直した。
「これがこの町で作られたと確認が取れれば問題ない、我々はそれを確認して帰るだけだ」
「そうかい、それは良かった。じゃあオタクらのご主人様にも良く言っといてくれ」
そう言って、サッサっとその場を離れようとする男。
「まて、貴様にはもう少し付き合ってもらうぞ」
男は足を止め、腕を広げて首を振る。
「それで、俺はオタクらを何処に連れて行けば良いのですか?」
「わざわざあの場所で待っていた貴様の事だ、何も言わずともこの町の必要な場所を案内してくれるのだろう?」
男は黙って歩き出し、我々もついて行く。さて何処を案内して貰えるのだろうか。
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男の案内が終わり、伯爵領へと戻る道筋
「あの男、僕らの来る事が分かっているようだったな」
「そうだな、それも分かっていてアレを預けたのかも知れんな、食えん男だ」
「食えないね、けれどあの町のパンは幾らでも食える」
「確かに」
フッ
「えっ?! ロイ、今笑った?」
どうやら二人は伯爵から遣わされてシルクの事を調べに来ていたようですね。パンも気に入って貰えて良かったです!
次回、第十二話はテツとアベルへ本格的に狩の指導を始めます。続いて第十三話、ギルドへの報告とまたゴウがジーンさんへ何か無茶振りするようです。




