第一話
初めまして、目に止めて頂きありがとうございます。
テンプレなし、異世界転生したおっさんの活動記です。
よろしくお願いします。
俺の名前はゴウ。
最初に話しておく事がある、俺は転生者だ。
七才の時に前世の記憶が戻った時には大喜びしたが。その後、この世界の現実を知ってからの落胆は酷いものだった、二日間も寝込んでしまい両親には心配させてしまったと思う。
気になるか?
ステータス? チート? アイテムボックス?
無いんだなこれが……
この世界にはステータスも能力を見られる謎のボードや水晶なんて物はなく、他人と比べてちょっと強い、ちょっと得意、ちょっと元気なんて具合だ。
唯一貰ったらしいスキルは多分これだ。
気配察知、気配削減、弓術、忍足、体力アップ、免疫アップ。それこそ元の世界でも人によっては持ってる能力ばかりだ。
それでも、人より先に気付いて、人より見付かり難く、弓が得意で、こっそり動けて、遠くまで走れて、病気になり難ければ、何とか生き延びられるしチートかも知れないな。
そんなこの世界で唯一異世界らしいのが魔石だ、魔石は魔物と言われる生き物の体内、主に心臓のそばにあってナイフを使って取り出す。魔物を倒すと勝手に消えて魔石だけが残るなんて事はない。
普通の生き物(動物)と違うのは、大体に角があり牙が大きく人を見ると襲ってくるという事。故に兎とホーンラビット、熊とワイルドベアなど似て異なる動物と魔物が存在する。
そして、その魔石の使い道が……。
魔法だ!
ステータスもスキルもアイテムボックスも無い世界だったが、魔法だけはあったのだ!
と聞くと、魔法でチートかと思うだろ?
ところが……。
この魔法は魔石を握るか手に持って、「水」と言うと桶一杯くらいの水がダバダバと出るだけで、決してシュパーッと出て魔物を倒したり木をスパッと切ったりは出来ない。「火」もライターの火程度の火力で、ゴーッと炎が出て魔物を倒したりも出来ないのだ。
しかもホーンラビットの魔石一個では5、6回も使うとボロボロになって使えなくなってしまう。魔法があると知った時のオレの歓喜と、その後の落胆が分かるか?
それでも、魔石と魔法は生活に便利なので皆使っている。移動する商人や冒険者は必ず持っている。特に水の魔石は重たい水を持たなくて済むため人気も高く、売るにも買うにも良い金額になる。
そのため、魔石を集める仕事があるわけで、その仕事を主に請け負うのが冒険者だ。
代表的な魔物として、ワイルドベアー、ホーンベアー、ワイルドウルフにホーンウルフ、ワイルドターキーにホーンターキー等だ。
そして、ホーンの名が付く魔物からは水の魔石が、ワイルドの名が付く魔物からは火の魔石が取れる。大型の魔物になると力も強くなる為、より凶暴で倒し難くなるが、その分魔石も大きくなるし、その他の素材も売ることで金になる。
残念ながら肉は普通の動物の方が美味い。
三男だった俺は家にいても邪魔な存在だったので、15才で冒険者になって家を出た。最終的に4人パーティで一番長く活動していたな、俺は気配察知や忍足もあって斥候兼荷物持ち。冒険者で35才まで生き延びた俺は、今ではこのセールの町で狩人をやっている。
冒険者を辞めた理由? ボチボチいい年にもなっていた事と、最後に大きなケガをしてしまい当時付き合っていた弓役のユユが冒険者を辞めると言い出し、俺もそのまま付き合って引退。拠点にしていた街でケガを治し、ユユと結婚したって訳だ。
結婚した俺たちは、子供を欲しがっていたユユさんと話し、今の年齢と育てる期間を考え養子を迎える事にした。
今では、家に帰ると愛するかわいい嫁のユユ、十二才になる息子のテツ、九才のかわいい娘のリリがいるのだ、家族を養う為には俺のチートをフルに使って生きていかねばならない。
一ヶ月に必要な金は最低でも金貨一枚、余裕を持てば金貨二枚あると良いのだが、それは猟の成果による。
より高く買い取って貰える獲物は町の近くでは少く、日帰りできる距離ではあまり狩れない。泊まりで行けば良い獲物も狙えるのだが、家族を置いてそう長く留守にも出来ないので結局近場になり、手に入る金もそれなりになってしまう。
それでも、より高く買い取って貰える獲物を狙って能力をフルに使い、今日も狩をするのだ。
……
「テツ、行くぞ!」
今日は近場の狩に行くため息子のテツも一緒だ、テツは去年から近場の時には連れて行き、狩を覚えさせている。やっと狩の流れや動きを覚えてきた所で正直まだまだ。
まぁ、チートを使っている俺と比べると、普通の能力しかない息子は頑張っている方だとも思うが、それは親バカ補正も入っているのかも知れない。
……
「この辺りからは特に用心しろよ、出来るだけ音も立てるな」
ムスッとした顔で「分かってる!」とわざわざ口に出して答えるテツ。
今ので敏感な鳥には警戒されてしまったな。
それからも用心しながら進むが、時々パサパサッ、パキッと物音が聞こえてくる。
「ふーっ」
俺はため息を吐くと屈んでいた姿勢を伸ばした。
離れたところで鳥が飛び立つ音が聞こえる。
「オヤジ?」
急に立ち上がった俺に、不思議な顔で聞いてくる息子。
「場所を変えるぞ、ここではもう無理だ」
来た方向に戻り始めた俺に慌てて付いて来ようとするテツ。
「どうしたんだよオヤジ? うわっ!!」
ズシャッ
テツは、急に戻り始めた俺に付いて来ようと慌てたのか、足元の石か何かに躓いて転んでしまった。
「大丈夫か!?」
テツに駆け寄って身体を起こす。
「イテッ!」
「足か?」
どうやら転んだ際に足を捻って痛めたらしい。
「歩けるか?」
「イテテッ!無理かも…」
……
オレは、獲物を運ぶ背負子に座った状態でオヤジに背負われていた。冒険者時代は斥候だったと言うオヤジは背はあまり高くなく、体つきもどちらかと言えば細くて逞しい感じはしない。友達の肉屋の父ちゃんの方が逞しいくらいだ。
それなのに十二才の自分を背負ってもしっかり立って歩いている、力があると言っていたのも嘘では無かったみたいだ。
「クソッ」ボソッ
何をやっても思う通りにならず、頑張っていることをオヤジには分かって貰えずにオレはイライラしていた。
さっきだって、この辺から獲物のエリアに入る事は分かっていたのに、オヤジから言われてしまい思わず声が出てしまったし。
オヤジは本当に音を出さない、これだけ枯葉や枝が落ちている場所を歩いているのに不思議だ、魔法かと思ってしまう。同じように歩いているつもりでも、身体の何処かが枝に触れたり、枯れ葉を踏むと音が出てしまう。
分かっているのだけれど、出来ない自分にまたイライラしてしまう。
森の中だと言うのに静かだ、オヤジの足音が聞こえないのはいつもだが、遠くの鳥の鳴き声は聞こえるけれど、近くに獣の雰囲気は感じられない。
オヤジは時々立ち止まり、周囲を確認しながら森の出口を目指して歩いているはず、はずと言うのはオレには何処を歩いているのか全然分かっていないからだ。出口に向かっていると聞いたからそうなんだなと思っているだけで、本当は奥に向かっていたとしても分からないだろう。
一時間ほどかけてやっと森から出る事ができた、普段使っている入口からは少し離れた所に出たようだ。
「ふぃー」
オヤジは腰掛けられそうな石の上に背負子を下ろしてオレを座らせてくれる。
「少し時間が掛かってしまったな」
オヤジはお日様の向きを確認して、おおよその時間が分かる。
「足は大丈夫か?」
オレの方を見たオヤジが足を気にして聞いてくる。
「あっ、ああ大丈夫、痛いのは引いてきた」
冷やしとけと言われ、水で濡らした布切れを足に巻いていたので痛みは大分落ち着いていた。
「そうか…… ちょっと早いが弁当を食べて家に戻ろう」
朝、かあさんに渡された弁当を食べると、オレはまたオヤジに背負われて町へと帰った。
「帰ったらユユさんに怒られるなあ」
ボソっとオヤジの呟きが聞こえた。
文体の一部分を訂正、言葉の修正を行いました。
これで少し読みやすくなったかと思います。