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謝罪か、命乞いか

「今回は簡単な依頼ですし、これくらいで良いでしょう」



 自宅に戻った私は花壇にある花から4種類の花をそれぞれ一輪ずつ摘み取る。

 そしてまず、私が使ったのは青と緑の縦縞が入った花弁の花。



「さぁ。私を案内して」



 この花は探し人を見つけるのに役立つ花。

 私が出会いたいと思う人を念じながら花を軽く振ってやると、雌しべから私にだけ見えるキラキラと輝く粒子がどこかへと飛んでいく。

 この粒子は、私が出会いたいと思った人の所に飛んで行ってくれるので、これを辿って行けばグイント・セルレイヴの所へと辿り着ける。


 なので私は粒子の後を追うようにして暗い夜道を1人で歩いて行く。

 そして十数分程歩いた所で粒子の痕跡が消える。

 普通、どんな場合であっても粒子の痕跡が消える事はないので、それが消えたという事はここが目的地だと言う事。

 私が辿り着いたのは、ごく普通の一軒家だった。



「夜分遅くにすいません。どなたかおられませんか?」



 私は家のドアをコンコンとノックし、中に居るであろうグイント・セルレイヴを呼んでみる。



「こんな時間に誰……あぁ!聖女様じゃありませんか!何か御用ですか?」


「えぇ。あなたがグイント・セルレイヴ様ですね?」


「そうですが……何かありましたか?今は別にあなたに助けて貰うような事はありませんが……?」



 すると、中からスキンヘッドで筋肉質な男が出てきた。

 私よりも背は頭2つ分高く、素人目にも鍛えている事が伺える。

 私が名を聞くと、彼は自分がグイント・セルレイヴ本人であると認めてくれた。

 これでまずは復讐の対象者の特定は完了。

 次にやるべき事は家の中に入れて貰う事。



「別に大した用ではないのですが、最近少し聖女という職に疲れを感じてきてしまって。誰かにお話を聞いて貰おうと考えていた所に身も心も強く頼れる男性の名にグイント様が上がっていましたので、厚かましくも頼らせて頂きたいなと思った所存です。もし、よろしければ家の中に入れて頂いて私のお話を聞いては貰えないでしょうか?」


「お……おぉ!勿論ですとも!さぁさっ!どうぞこちらへ!汚い所ですが俺に出来る事があるなら何でも!」



 私に自覚はないが、友人曰く私は100人中100人が認める程の美貌を持っているらしい。私が声をかければ大半の男性は警戒を解き、気を緩め、心を許してくれる。

 そんな不思議な美しさが私にはあると言う。

 私自身、自分の顔に興味がなかったので友人に言われるまではそんな事に全く気付かなかったが、一度気付いてしまったのならそれを利用しない手は無いと思った。


 今回もそう。このグイントの警戒を解き、家の中に招き入れて貰おうとするなら本来であればもっと手間がかかった筈。

 何せ初対面の女性が日も暮れた時間に1人で家にやってきて、家に入れろと言うのはあまりにも胡散臭い。

 私が聖女と言う事を差し引いても、人を殺したという後ろ暗い過去を持っている以上ある程度の警戒は普通はする筈だ。


 そんな胡散臭さを帳消しにしてくれたのが私の顔であるというのなら、それはやはり利用するべき私の長所という事になる。

 何せ、これまでこうやって男性の家に入れて貰うのに今回みたいに上目遣いで困ったような事を言いながら頼み事をして聞いて貰えなかった試しはない。

 この顔のお陰で私は随分と依頼の遂行を遂げる事が出来ている。

 こんな顔に産んでくれた両親と女神様には感謝しかない。



「……どこに座れば良いでしょうか?」



 そんな感じでグイントの家に入ったものの、見た目通りと言うか、予想通りと言うか。家の中は酷く散らかっており、どこが足の踏み場かも分からない。腐った物の臭いがしない事だけがせめてもの救いだが、それにしたってこれは酷い。



「あ、あぁぁいやすいません!こんな汚ねぇ部屋で!今片付けますんで!少々お待ちを!」



 呆れたように私がそう言うと、グイントは恥ずかしさからなのか、顔を赤らめながら部屋の片付けを雑に始める。

 片付け、と言うよりは物を端から端へ移動させて何とか空間を確保していると表現するのが正しいのだろう。

 私を気遣い、あわよくば好意を持ってもらおうという意思がひしひしと伝わってくるが、それは無意味な事。

 折角私の為に片付けてくれている所に申し訳ないけれど、そろそろ私のやるべき事をさせて貰う事にしよう。



「お構いなく。それよりも1つ、お聞きしたい事があるのですが」


「お!なんでしょうか?何でも答えますよ!」


「何故、メルグ・イーグリスを殺したのですか?」


「!」



 私がカイナ・イーグリスの弟の名を出すと、グイントの顔は一瞬強張り、その次にはニヘラッと笑い直然の動揺を誤魔化した。



「……な、何の事か分かりませんね。何かの間違いじゃありませんか?」



 だが、私の突然の指摘に生じた動揺はそう簡単に誤魔化せるようなものでは無かったらしく、口ではそれを否定するものの、声は震えており説得力は無い。



「まぁ、白を切るというのならそれならそれで構いません。私がやるべき事は決まっているのですから」


「やるべき事って、なんでしょうか?」



 怯えた様子でグイントは私にそう尋ねる。

 見かけの割には肝が小さいのかも知れない。



「殺されたメルグ・イーグリスの兄、カイナ・イーグリスに代わってあなたに復讐を。簡潔に言えば、殺します」


「ひいっ!?」



 ならば少しでも落ち着かせようと笑顔でそう告げたのだが、逆効果だったようでグイントは思いっきり後ずさって私から距離を取る。



「なっ!わっ!?」



 だが、片付けていない部屋が災いを招いたようで、グイントは何かを踏んで背中から転んでしまった。



「こ、来ないでくれっ!?」



 バタバタともがいて体勢を立て直そうとするものの、転んだ時に体に被さった狩猟用の網と縄が変に絡まってしまい、立つ事さえ出来なくなってしまっている。

 まるで蜘蛛の巣に引っかかってしまった虫のようにもがくその様はどこか滑稽で少しの憐れみさえ感じてしまう。



「その、悪気は無かったんだ!殺すつもりも!だから!だから!」



 だが、今更情に絆される程未熟ではないので、私は最後に1つだけ質問をする事にする。



「何か、イーグリス兄弟に言う事は?」



 謝罪や後悔の言葉なら良し。

 それ以外なら……



「助けてくれ!やめろ!殺さないでくれ!」



 苦痛を味わう死に方をして貰う事にしよう。




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