城下町からの脱出
アイルたちは光に向かって走った。風に乗って外の新鮮な空気が吹き込み、アイルはようやく肺の底からまともに呼吸することが出来た。
そして彼らは、ようやく暗渠の暗がりから出た。下水は、城下町の中を流れる小川にチョロチョロと流れていた。。
外は明るかった。陽の光が顔に当たり、アイルは思わず目を細めた。
暗渠の外では、警鐘が激しく打ち鳴らされていた。そして、対岸に見える街のあちこちから火の手が上がり、煙が立ち上っていた。
戦線はすでに外城を越え、市街地に達していた。
アイルは暗渠から川に飛び降りた。川は、この三角地帯の分流はどれもそうだが、浅い川だった。川底には葦が生い茂り、川の中腹に幅2メートルの水の流れがチョロチョロと流れているだけだった。
その時、頭上遠くから剣戟の音が聞こえてきた。
アイル達は、護岸の上に顔をだし、道の先を覗いた。
道の先では、二つの軍隊が闘っていた。一つは黒い甲冑に身を包んだザクセンの兵だった。もう一つは銀色の甲冑に身を包み、たくさんの騎馬兵とともに闘うローゼンハイムの兵士だった。
先頭は激しかった。いくつもの空に血しぶきが舞い、あるものは叫びながら倒れ、あるものは首を吹き飛ばされた。そして、何人もの人間が倒れていった。
アイル達は顔を引っ込めた。
いいか、スラム街を通って抜けるんだ
わかったか
アイルたちは川を上流へと進み、護岸の上へよじ登った。
彼らは通りを見渡したが、人影はなかった。5人は道を突っ切り、一旦路地裏に入った。
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路地裏から西の方向を見ると、およそ500ヤードほど先に、ローゼンハイムの外城壁が見えた。
城は、すでに炎に包まれていた。
都市を彩る橙色に統一されたの屋根瓦の間から、たくさんの黒い煙が立ち上っていた。
その毒々しい黒煙は、城の状況がすでに芳しくないことを示していた。
アイル達は町並みを観察して、だいたいここが城の東南東だろうと当たりをつけた。
彼らは今後の道筋を話し合った。
【ドアンナ】「ここは、大体城の東南東だと思う」
【ドアンナ】「俺たちは、一度南の門で姿を見られている……俺たちがスホルトの人間だというのも、すでにバレているだろう。南から脱出するのは難しい。東に逃げるのが妥当だろうな」
【ヤゴー】「俺は賛成だ。アイルは?」
【アイル】「僕もそう思います」
【ヤゴー】「王女様は?」
【アマンダ】「私も、それでいいと思います」
【ゲイル】「決まりだ。東へ向かう」
五人は、暗い路地裏を走りはじめた。
通りには、すでに人の気配はなかった。薄暗い貧民窟の路地裏に、石畳を叩く靴の音が響いた。どこかの主人のいなくなった家で、番犬が鎖を鳴らしながら、なにかに向かって吠え続けていた。
道の先に、ひとりの浮浪者が座り込んでいた。泥だらけの汚い前髪の奥で、彼のぎらついた三白眼が光った。男は、彼女たちに流し目を送ってきた。
ドアンナたちは、彼を無視して走りすぎた。
そのとき、道の先の明かりの方向から、軍靴の足音が聞こえてきた。
【ゲイル】「隠れるぞ」
彼らはそばにあった家の扉を開き、中に入った。
家はもぬけの殻だった。中の住人は慌てて脱出したのだろうか、まだ食べかけの食事がテーブルの上に並べられていた。
ヤゴーは皿に並べられていたパンを四つかっぱらうと、二階に上がった。アイルたちも、彼のあとに付いて階段を上がった。
二階も、一回と同様にもぬけの殻だった。乱れたベッドの脇の窓から、埃っぽい部屋に日が差していた。
足音が近づいてくると、彼らは身をかがめた。そのうちに、敵兵の足音は通り過ぎていった。
ゲイルは窓から外を覗いた。兵士たちは、黒の甲冑に身を包んだザクセンの兵士たちだった。h
【兵士の声】「おい貴様、若い学生ほどの女がこの辺りを通るのをみなかったか?」
【浮浪者の声】「ああ、みたぜ。そいつらなら、向こうの方に向かった」
ドアンナ達は戦慄した。
しかし、時間が立っても
三白眼の浮浪者は、ドアンナたちを一瞥すると、テーブルに向かった。そして、食事前のテーブルに並べられたパンをひょいひょいと掴むと、スープの皿を取り、スープをずずずと飲んだ。そして、
「しばらく出るな」
【ヤゴー】「ふう、なんとかやり過ごせたな」
ヤゴーはそう言うと、パンを皆に手渡した。ヤゴーは皆にはかじりかけのパンを渡し、自分は噛み跡のないきれいなパンにパクリと噛み付いた。
【ゲイル】「お前、自分だけきれいなパンを食べるのか」
【ペトラ】「私も同じことを思いました。普通は一番キレイなものを王女様に渡すべきです、常識的に考えて」
【ヤゴー】「えー……」
ヤゴーはそう言い、パンを口から取り出すと、それをしばらく見つめた後、アマンダに差し出した。パンには歯型と唾液がねっちょりとついていた。
【アマンダ】「それは、ヤゴー様がお食べください」
【ヤゴー】「だってよ。悪ぃな」
ヤゴーはそういうと、口元をほころばせながらパンを口の中に放り込んだ。
【ゲイル】「……」
【アマンダ】「ヤゴー様、お怪我の方は大丈夫ですか?」
【ヤゴー】「おう、そりゃもうばっちしよ。すげえな、天使の力っていうのは」
【ペトラ】「気をつけてください。悪魔は天使の力を感じ取ることができるそうです。今回は地下道だったので見つからなかったでしょうが、あまり外でこの力を使わせないようにしてください」
【ゲイル】「よくわかった。気をつけよう」
アマンダは自分のパンを半分に分けてペトラにあげた。アイルは喉が渇いたと言い、下から水差しを持ってきた。そうして、5分後には皆がパンを食べ終わった。
【アイル】「これからどうしますか。夜まで待つというのも一つの手ですが」
【ゲイル】「俺は反対だな。家を一軒一軒虱潰しに調べられたら、いずれはみつかるだろう。戦闘が続いている間に、はやく脱出した方がいい」
五人は、すぐにその家を発った。そして、東へ向かった。
きゃんきゃんきゃんというこえ
犬は殺されている
おうしばらくここで待とう
やがて兵士の足音がしたが、それは通り過ぎていった。
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【レイセン】「なにか、変な匂いがする……」
レイセンが鼻を鳴らしながらいった。路地の先は、川沿いの道に合流していた。道の先は、明るい陽の光に照らされていた。
彼女は手を上げて、皆を静止させた。そして、家の柱の角から、曲がり角の先を覗き込んだ。
川の下流に橋が掛かっていた。その橋の上には、ひとりの悪魔が立っていた。
悪魔はレイセンに背中を向けて立っていた。およそ140センチほどの小柄な躰に、腰まで伸びた金色の髪を生やしていた。そして、頭の側頭部からは、ごつごつとした赤い角が生えていた。
彼女は、両腕をだらんと垂らして立っていた。その両腕の袖は、身の丈よりも遥かに長く、手指の先から余った袖が、膝までだらんと垂れていた。
袖は、血に染まり赤く濡れていた。そして彼女の足元には、何人もの兵士の死体が転がっていた。
(絵 1 4 _1)
レイセンが手招きすると、ドアンナたちも顔を出し、道の先の悪魔を覗き込んだ。
ドアンナ「勝てるか?」
ドアンナは聞いた。レイセンは、答えに迷った。
レイセン「わからない。多分、半々ぐらい……」
ドアンナ「わかった。別の道を探そう」
ドアンナはすぐに決断した。もちろん、彼女たちは魔術師として、人々を守る義務があった。本来は、命を賭してでも、悪魔と刺し違えるべきだ。
しかし今、彼女たちは王女を連れていた。いかなるリスクも犯すわけには行かなかった。
彼女たちが建物から引き、背後の道を振り返った時、その背後の道の先から、近づいてくる足音がした。
レイセン「後ろから、なにか来る!」
レイセンは切迫した声音でいった。ドアンナは周囲を見回すと、すぐ脇の建物のドアが開いていることに気づいた。
彼女たちは、建物の中に入った。
建物は、ベーカリーだった。今日の朝に焼いたばかりのパンが、一つも手に取られることなく、棚に整然と並べられていた。
ドアンナは、その様子に、突然無性な悲しさを覚えた。
彼女たちは、階段を上がった。上階は住居になっていた。
彼女たちは、最上階の四階に上がると、細い廊下を進み、一番奥にある扉に手をかけ、開いた。
扉の奥には、赤ん坊が座っていた。椅子の上に乗せられたゆりかごの上に、毛布にくるまれた赤ん坊が座っていたのだ。
どアンナたちは、うろたえた。
赤ん坊が、黒いまんまるな瞳で、ドアンナたちを見つめた。そして、その顔は、最初の驚きの表情から、段々と悲しい表情へ、そして泣き顔へと変化していった。
ついに赤ん坊は、泣き出した。そのつんざくような大声は、開け放たれた窓を通って、路地と、そして川面の開け放たれた空間へ向かって響き渡った。
レイセンが、あわてて前に進み出た。そして、赤ん坊の口を塞ごうとした。しかし、赤ん坊は、歯のない口でレイセンの小指に噛み付いた。
レイセン「痛い!」
レイセンが叫んで手を引っ込めると、赤ん坊はさきほどまでの悲しさに加えて、怒りの感情を爆発させた。
彼は、口元を鼻水でぐしゃぐしゃに濡らしながら、大きな声で泣いた。自らの泣き声が、さらに自身の中に怒りを呼び起こし、さらに大きな声で泣きわめいた。
ついに赤ん坊は、コントロール不能に陥った。
レイセン「どどど、どうすればいい?」
ドアンナ「……」
ドアンナは、答えられなかった。彼女たちは、ただ呆然と立ち、泣きわめく赤ん坊を見ていることしかできなかった。
そのとき、階下で物音がした。
ドアンナたちは、慌てて奥の部屋へ移動した。そして、わずかな隙間を開けてドアを閉めた。レイセンは、腰の剣を引き抜くと、自らの背後に仲間を立たせた。
彼女たちは、息を潜めて待った。ドアの向こう側で、赤ん坊は泣き続けていた。
やがて誰かが階段を上る、踏み板が軋む音が聞こえてきた。
部屋の扉が開いた。そして、黒い甲冑を着込んだ兵士が、部屋の中に入ってきた。
兵士は、部屋の入口にたち、赤ん坊を見た。
兵士はバイザーをあげた。そして、手甲をはずし、赤ん坊の頬に触れた。
すると、赤ん坊はぐずりつつも、大声を上げることはまくなった。
兵士は、階下へと降りていった。
ドアンナたちは、しばらく息を潜めて部屋にいた
階下では、物音が大きくなった。
おそらく兵士たちが、食い物を食べているのだろう
再び、階段を上る音が聞こえた
男は、水色の液体が入ったガラス瓶を持っていた。
海面に湿らせた、液体を飲ませていた
男は海綿をに液体を染み込ませると、赤ん坊の口元にやった
男は床にあぐらを描き、パンを齧りだした
アマンダ「……いい人なのかしら」
ドアンナ「馬鹿なこと言わないで。」
ほらよ
兵士は立ち上がった。すると、赤ん坊は再び大声で泣き出した
男は赤ん坊のほほを書いたが、赤ん坊は大声をあげるばかりだった
やがて、兵士が赤ん坊に背を向け、ヘアを出ようとすると、微クリと躰を震わせた
「うわ!あんたか」
兵士は声を上げた。見ると、いつの間にか、悪魔が部屋に入っていた
悪魔はひとこといった
赤ん坊は、悪魔をみて泣き出した
悪魔は、赤ん坊の頬に手を伸ばした
そして泣かれて拒絶された
「うるさい」
そうして、袖をあげた
赤ん坊を殺した
兵士は、さやから剣を引き抜く、錆びた金属の擦過音が響いた。
「貴様……」
兵士は低い声で悪魔の背中に語りかけた。悪魔は足を止めた
「はあ?」
「なぜ俺たちが、悪魔の言う事など聞く必要があるんだ?
「…!?・・・・・
兵士は切りかかった。
悪魔は、躰を回転させた。そして袖を斧のように振り回した
兵士は甲冑ごとからだを穿たれ、死んだ
悪魔はカイアへ降りていった。
あくまが降りてカッラ、部屋に出た
赤ん坊と兵士は、死んでいた
なんということを
「アマンダ「なんということを……」
jその時、階下で物音がした
橋の上で、戦闘が始まったのだ
窓から、先頭の様子を覗いた。そしていった
ドアンナ「ダグラスだ!」
彼女たちは、急いで階段を降りていった。
橋には、血まみれの死体が折り重なっていた。それは、ザクセンの死体もあり、、あたロードランの死体もあった。
その真中で、ひとりの人物が
皆警戒した。背後で、レイセンが鞘から剣を抜いた。
彼らに背を向けて立っていた。
「あれは、悪魔!」
瞬間、レイセンは地面を蹴り、駆けた。彼女は、ドアンナの真横を一迅の風のように抜き去ると、わずか六歩のステップで大通りを駆け抜け、悪魔の背中に迫った。
彼女は赤い血に沈む兵士を縫って駆けた。立ち昇る血の匂いが彼女の鼻孔を突いた。彼女の大きな橙色の狐尾は、天を衝く角度でいきり立った。
足音を聞き、悪魔は振り向いた。センターパートに分けられた細い金髪が体の動きに合わせて揺れた。彼女の唇は、少女のように赤かった。
【レイセン】「灼熱の炎を纏う魔法」
レイセンは口中でそう唱えると、右手に持った銀の細剣に灼熱の炎を吹きつけた。
剣は炎をまとった……いやむしろ、粘性の炎が細剣を覆ったという方が正しい。
炎は激しい熱で小体積の細剣を焼いた。
エルフの古代文字が穿たれた銀の細剣は、鋼鉄の融解温度を遥かに超える白熱の光を放ち始めた。
太陽光線と見紛う鋭角の光は、直視不能な波長領域で悪魔の網膜を焼いた。摂氏五千度の放射熱は悪魔の白い皮膚を焦がした。
レイセンは、白熱する細剣を、悪魔の背中に切りつけた。
【悪魔】(あの剣に触れるのは、危ない)
袖を変形させ、剣を奪った。そして剣を振り回した。
レイセン『戦技・新月面』
レイセンハ、膝を深く踏み込ん。そして、剣を振り上げた
しかし、灼熱の剣は地面を溶かし、あたかも豆腐でもえぐるような半月の軌跡を描いた
真下から切り上げられた剣は、剣を突き飛ばした
高い金属音を響かせて、
剣は宙を舞った。
レイセンは、続けざまに突きを入れる
悪魔は、剣を袖で受けざるを得なかった。
悪魔は飛び退った。彼女の痩せた躰は剣線に触れることを避けた。
が、その羽織る外套が、灼熱高温の細剣に触れた。
赤い炎が、、瞬時に外套に炎に燃え上がった。
悪魔は頭をそらし、自らの背中で燃える炎を覗き込んだ。その大きな隙を、ダグラスは見逃さなかった。
ダグラスは一瞬の時間を使い、英気をみなぎらせた。その銀色の鏡面に輝く十字槍は、ダグラスの黄金色のオーラを纏った。
殺気に気づいた時はもう遅かった。
ダラス「どんな盾でも貫く魔法」
ダグラスは槍を突いた
悪魔は顔をそらした。しかし、十字槍は彼女の頬を割いた
悪魔
その頚椎から喉に槍で貫かれて、死んだ。
「レイセン!」
ダグラスが駆け寄った。そして、背後にいる王女に気づいた。しかし、もちろん、ダグラスは彼女の声をかけなかった
お前たちは、無事だったのか
知っているか、寮が悪魔に襲撃された
ええ、知ってるわ
この道をまっすぐ行け。避難民がいる
サンブラン門に行け
そこから外に出られる
わかった
わかったわ
「おい、ドアンナ」
「……頼んだぞ」
ダグラスは多くを語らなかった。ドアンナたちは、無言で彼にうなずいた。
彼女たちは、道の先へ向かった
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そうしてしばらく東へ走ったのち、彼らはようやくはじめて避難している市民を見つけた。
彼らは8人の男女だった。彼らは、家族なのだろうか。若い男は太ももに大きな怪我をし、初老の男に肩を貸されて片足をひきずりながら走っていた。
彼らがそうやって走っていると、道の先に何人もの避難者が見えた
おお、これこそは
「ようやく避難者に追いついたようだな
【ヤゴー】「手を貸すぜ」
ヤゴーは見かねてそう言うと、老人と肩を変わったが、どうも背丈が違いすぎた。ヤゴーはえいと掛け声を上げて男を背負うと、小走りで走り出した。
アイルたちは、そのまま避難者たちと城門へ向かった。
彼らは、市場を走った
そこで
大きな化け物に乗った敵兵が来る
突進してくる
ドアンナ「植物を成長させる魔法」
植木鉢が割れて、植物が急激に成長する
そこで、
分厚い生け垣で道を塞ぐ
さあ、逃げて!
ドアンナは叫ぶ
仮面の男たちが、屋上から舞い降りる
それは、乗りてに飛びかかった。やりを振り回し、、白装束を退けた。しかし、背後を取られた。
首をかき切られて、殺された。
ドアンナ「アイル!」
アイルは仮面をずらし、素顔を見せた。
急げ
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サンブラン門
城門では検問が敷かれていた。衛兵が門の左右に立ち、通過するすべての人間の顔を確認していた。
当然のことながら、検問を通過するには時間がかかった。避難は滞り、市民たちは焦りだした。
【市民】「何をやってるんだ、早くここを通せ!」
市民の叫び声が響いた。それに呼応して、列のあちこちで怒鳴り声が響いた。
【兵士】「これは王命だ!貴様らは黙って従え!」
レイセン「王命だって?ふざけんなよ」
ドアンナ「ええ。王がこんな命令を出すがはずがないわ……」
アマンダを振り返った
ここを通れるだろうか
彼女の赤い髪は、あまりにも目立ちすぎた
兵士は叫び返した。王がこのような命令を出すはずはない。おそらく権力中枢に巣くう売国奴が、王の名を騙り偽の命令を発布しているのだ。
けが人を乗せた馬車が、列になれんでいた。ヤゴーは男をその荷台に下ろすと、列の最後尾にたむろしているアイルたちのところまで戻ってきた。
【ヤゴー】「これからどうするよ」
ヤゴーは訊いた。アイルたちが輪になって顔を見合わせていると、その環の中へ一人の男がぬっと顔を出した。
【謎の男】「王女殿下」
仮面を外した
ドアンナ「アイル!」
お前たちをここから脱出させる
着いて来い
男は急に話しかけた。ゲイルは警戒し、腰の剣に手をかけた。
【謎の男】「警戒するな。俺は王の命を帯びてここにきた。お前たちをここから脱出させる。着いて来い」
【ゲイル】「……お前が信用に足る証拠は」
男は、一呼吸して言った。
【謎の男】「その王命は、銀である」
【ゲイル】「……わかった。案内してくれ」
こうしてアイル立ち一行は男について行った。男は、街道に面した宿に入ると、部屋の奥の倉庫に案内した。
部屋の中には穀類の袋が積み上げられていた。男は小麦の袋を束にして持ち上げると、その下に木で作られた扉が現れた。
男は扉を開けた。扉の中は、地下へ続く階段だった。
【ヤゴー】「おいおいまた地下かよ」
ヤゴーが言った。男は蝋燭を立てたランプをゲイルに渡すと、先へ進むよう促した。
王女が男をすれ違ったとき、男は軽く頭を下げた。
全員が地下の階段へ降りた。扉は閉じられ、アイルたちは再び地下の暗闇に取り残された。
彼らは先へ進んだ。
付いてきてくれないの
俺は行けない
なぜ
アイル「俺は王命に従う以外の行動はできない。わかるだろう
ドアンナ「誓いと制約?」
アイル「そうだ。俺はロンメルン城門を通る国民を守れとしか命じられていないんだ。
ドアンナ「わかったわ。じゃあ双子城に、信頼できる人間をよこして頂戴
アイル「わかった」
また会いましょう」
ーーーーー