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思惑と神命(2)

 体育館の裏に秋人が立っている。半袖のシャツにグレーのスラックス姿。補講ではないが、良樹からお呼びがかかり、学校へのお出ましとなった。午前とはいえ日差しが強く、体育館裏の陰に入っても汗が引くほどの温度差はなかった。外がこれほどなのだから、体育館の中はさぞかし暑かろう。


 その灼熱の体育館の中では、5台の送風機をフル稼働させながら男子バスケ部が練習に励んでいる。半分のコートは女子バレー部が使用していた。


 かけ声とともに練習が終了する。上級生部員が引き上げるなか、良樹たち1年生部員が床をモップ掛けする。後かたづけが終わり、秋人が待つ裏口にニョキッと大きな人影が現れた。良樹だ。同じ1年生部員が挨拶をしながら、別れていく。


「おっ、待たせたか」

「いや。どこに行っても暑いから、気にすることではないよ」


 読みかけていた本を閉じると、秋人が涼しげな顔をむけた。


「ほんと、おまえクールだな。今度は何の本を読んでいるんだ。問題集でも解いているのかと思ったら、いつも神話関係の本だもんな。まったくいつ勉強しているんだか」

「いやいや、それは良樹もだろ。この灼熱地獄でよく動けるよ。身体もさぞ悲鳴上げていることだろう」


 秋人が笑いながら銀色に汗をかいた物体を手渡した。良樹は受け取ると、首筋に当てて冷たさを楽しんでいた。秋人が渡したのは、コンビニで売っている冷凍専用のペットボトルの麦茶である。キンキンに冷えているため、まだ霜が薄く残っていた。涼しげな顔をしていたのは、これを持っていたからだ。


「おーっサンキュ!こういう気配りが秋人らしいな。まあ、女子にモテルわけだ」

「ないね。それよりさっきまで良樹のファンもいたみたいだよ」

「あん?俺のって、誰?」

「背は150ないくらい。たぶん、バレー部じゃないかな。モップ掛けしている良樹をずっと見てたよ」

「あーっ・・・・・・。あいつか」


 良樹は素っ気なく答えると、キャップをひねりボトルに口をつけた。


「陽向以外には冷たいんだな」

「田口ひとすじのおまえが言うなよ。あっ、それより来てもらったのは、これなんだ。秋人、これ見たことあるか。最近あがった動画なんだけどえらくリアルなんだ。うちの部でもフェイクじゃねえかと話題でさ。本当は陽向に見てもらいたいんだけど、まずはおまえの意見を聞きたくて」


 良樹はスマホを取り出して、動画を再生した。男女のグループが廃村を探索するという企画の5分程度の動画である。秋人は、田舎の風景に興味を持ち、笑みを浮かべ眺めていた。だが、動画が終わる頃には、冷たい汗を首筋に浮かべ、瞬きをすることなく画面に吸い寄せられていた。


「おいっ、おーい」


 呼びかけられ、やっと画面から解放されると、悪夢から覚めたような目をして良樹を見た。


「おい。秋人、こんなの苦手だったか?」

「あっ、いや大丈夫だよ」

「そうか、良かった。気を失ったのかと思ったぜ。なあ、おまえの目から見てこれ作り物に見えるか?」


 良樹は動画をリプレイしながらフェイク動画が疑われる箇所がないか、確認していた。


「最近は精巧に編集できるから、ここからでは真偽は判断できないな。でも、作れない事もないんじゃないかな。例えば・・・・・・ここなんか何か見えるか」


 秋人は自分が気になったシーンを良樹に確認させた。


「これがどうかしたのか?別に何も見えないけど、おまえ、何か見えるのか?」

「いやあ、ここのシーンはカットして繋が入っているみたいだから、気になって」

「ふ~ん」

 

 良樹が何度か秋人の示したシーンをリプレイしている。


「さすが秋人だな。言われてみたら、何となく不自然な繋ぎがあるように見えるな。じゃあ、これはフェイクか」

「これだけじゃ何とも言えないかな。折角だから、陽向にも観てもらうよ。乞うご期待」


 秋人が笑うと、良樹も納得してスマホをしまい込んだ。


(良樹、カットして繋ぎがあるなんて僕にも分からないよ。良樹には、あの無数の影が見えていない。だけど、確かに動画の人たち以外にも何かいる。僕にでも影が見えるのなら、実菜穂と陽向なら他にも何か見えるかもしれない)


 秋人は底知れない不安を感じながら、笑みを曇らせていった。 

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