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思惑と神命(1)

 朝日が射し込むなか、実菜穂たちが見たのは、卯の神が少女から小さなウサギになった姿である。白とグレーと黒のミニウサギが眠っているのだ。


「みなも、これはいったい・・・・・・どいうこと?」


 実菜穂が目を丸くしている。陽向と霞は、可愛らしいミニウサギとなって眠っている卯の神を見入っていた。


「ああ、知ってのとおり、卯の神はウサギが神格化したものじゃ。獣神じゃ。長い年月苦しんでおるところ、祓いを受け心の荷が軽くなり、気持ちがゆるんだのであろう。しばらくは、このまま休ませておくがよいの。また時が満ちればもとの神の姿になろう。じゃが、困ったことは、分からぬことを聞こうにもこれでは無理じゃな」

「分からないこと?」

「そうじゃ。なぜ、この建物が闇を含んでいたか。なぜ、優里はここから連れ出されたのか。まあ、一番知りたいのは」


 みなもがフッと姿を消すと、数秒後に実菜穂たちの前に戻ってきた。


「ずっと気にはなっておった」


 みなもが手にしていたのは土である。その土を足下にサラサラと落としていった。


「みなも、これは、建物の地鎮際じちんさいの土。いったい?」


 陽向がフロアにこぼれ落ちた土を見ながら思案していた。


 黄土色に輝く土。だが、それはみなもの手からこぼれ落ちた土であり、手にしている土は、赤黒く血を含んだような色をして、おぞましささえ感じた。


「そうじゃ。なぜかは分からぬが、この土が建物の地鎮の土として混ぜられておった。何者がそうしたのか分からぬが、これが呪いとやらの根元でもあろう」

「その土はもしかして、ナナガシラの土か」


「ナナガシラ!」


 火の神の言葉に実菜穂、陽向、霞の三人が顔を見合わせた。この建物で邪鬼、放浪神、卯の神、キナからそのつど伝えられた言葉だ。


 みなもが頷いた。


「ナナガシラ。ここにすべての根元があるのでな。行かねばなるまい」

「行くって、おまえ。神も人も巻き込まれているのだぞ。おまえが乗り込んだらそれこそ大事になるぞ」


 火の神の顔が険しくなる。


「なにを申す。乗り込まねばもっと大事になるぞ。すでに物の怪も邪鬼も人も、それに神までも本来の性を外されておるのじゃ。表沙汰になる前に潰さねば、それこそ取り返しがつかぬ事になるぞ」

「だからといって、なにもおまえが行かぬでもよかろう」

「儂がなんじゃ?お主に来いとは申しておらぬ。お主には大切な勤めがあるからのう。氏神としてじ~っくり地元を護り、氏子をよ~く導かねばならぬ。お主の協力はここまでじゃ。あとは、儂と風で何とかする。案ずるな。はよう帰るがよい」

「いや、ちょっと待て。俺は行かぬとは言ってないだろう。おまえがいままで関わったことに、俺が行かなかったことはなかろう。ただ、これは他の神の地に踏み入ることになる。行くなら隠密に行かねばならぬ。下手を打つと神謀りものだ」


 火の神がみなもを制するように、前に立っていた。


「火の神よ、それには及ばぬ。むしろ、あちらはそれを恐れておろう。神謀りに引きずり出されては、思いも遂げられぬからのう。行けば隠密に儂らを片づけに掛かろう」

「なぜそう言える」

「考えてもみよ。巫女を人柱にし、人に味方をした神々の御霊をも抜く。このようなこと神謀りの場に出せるものか。神のものでも人のものでも、御霊を扱える神は死神だけじゃ。これは神の世界の禁忌じゃ。ユウナミの神の憂いが形になったのう」

「母の憂いが・・・・・・それは」


 火の神が言葉に詰まるなか、みなもは実菜穂たちに視線を移し頷いた。


「まあ、それについてはちと考えがある。実菜穂の憂いも晴らさねばならぬからのう。明日、儂は姉さと母さのもとに参る。風、火の神も一緒に参るぞ」


「はーい。・・・・・・あーっ、ちょっとどういうことよ」


 シーナの高い声が上がった。


 皆がシーナに注目すると、そこには三柱のウサギを抱えた長い黒髪に黒のミニスカートと黒シャツ姿の少女がいた。


「モジモジ夜神よるがみ!いまごろノコノコ出てきて、何のつもりよ。卯の神を抱えてどこ連れて行くのよ」


 シーナの声が聞こえぬかのごとく、ミニウサギを優しく撫でながら、大きな黒い瞳を閉じた。


「風の神。勝手な振る舞いにお兄様が心配していました」

「あーっ、お兄ちゃんを出しても誤魔化されないぞ。いったい、何の点数稼ぎよ。モジモジ夜神は、月の神とのーんびりデートでもしてたらいいのよ」

「相変わらずのフワフワな言葉ですね。卯の神も水面の神の祓いで、清められましたが、このままでは、いずれまた狙われるでしょう。事が解決するまでは、月の神が護りますので」


 夜神は大きな瞳を開けるとみなもを見つめた。


「そうじゃな。卯は月に上げられたもの。それも道理じゃな。頼むぞ」

 

 みなもが頷くと夜神は卯の神を大切に抱えて姿を消した。


 シーナが「イーッ」とした顔で夜神を見送った。

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