水と鼓動(21)
実菜穂が青の神の呪いを解いたことで、青の神の姿はハッキリと現れた。
「見つかりました。約束どおり、全て元に戻します。陽向、霞を助けるといいでしょう」
実菜穂に抱かれたまま小さな声で伝えた。
「待ってください。赤の神様と緑の神様も、それに青の神様も」
「それはできません。姉と妹にまだ強力な呪いがあります。それに、私たちは神の掟にも背きました。その責めを受けなければなりません」
「サナの御霊のことですか」
青の神は頷いた。
「あーっ、そんな心配いらないわよ」
フロアの中にシーナの声が響いた。潤いのあるうフロアにスゥーと風が吹き清涼な気が駆けていった。
「級長乃神。日御乃光乃神、みなも!」
「しなのかみ」
青の神が声を上げた。実菜穂が呪いを解いたとはいえ、全ての呪いが解けたわけではない。青の神はいまにも消えそうになっていた。
「心配しなくていいよ。キナもサナもユウナミの神が迎えることになるよ。ここにいる柱以外に知るものはいないよ。大事にはならないよ。オスマシもこっち側にいるみたいだし、なによりこの根元がそうしたいのだから。それに、ここには水面の神という頼もしい柱もいることだし。憂いはもうないよ」
いつもならフワフワと掴み所がなく、幼い言動のシーナであるが、青の神の前では姉のように頼もしい存在となっていた。
青の神の顔が和らいでいた。
「なにを風の神が仕切っているのだ。事情が分からぬぞ。こっちもあっちもないだろう。それにこいつはな」
事情が掴めぬまま話を進めるシーナに、火の神が割って入ったのをみなもが制した。
「儂は水面野菜乃女神、水波野菜乃女神の妹。長級乃神とは馴染みである。風に導かれここに参上した。まずは、ここにおるものを癒すぞ」
みなもが天井を仰ぎ、瞳を閉じると水色に輝く光の粒が霧雨のようにフロアを満たしていった。陽向と赤の神から紅雷が抜け、目を覚ました。霞と緑の神も起きあがった。実菜穂の傷も癒え、痛みはなくなっていた。
消えそうな姿の青の神がの表情がゆるんだ。赤の神と緑の神、実菜穂、陽向、霞が無事でいることに安心したのだ。
「次はここを祓おう」
みなもがスッと右手を前に出す。その動作だけでこの場にいる神も人も目を離すことはできなくなっていた。水波野菜乃女神とは違うオーラ。だけど、その姿には確かにアサナミの神、水波野菜乃女神が存在していた。ゆるりとした動作、いや、それは舞であった。くるりと身体を回し、建物全てを祓い清めていく。美しく、それでいて清らかな水のオーラが呪い、けがれ、枷となる性を祓っていった。不思議なことであるが、実菜穂や陽向が傷つけた壁までもが元に戻っていた。
火の神とシーナが見つめるなか、卯の神の三柱の姿が元に戻る。赤の神の眼は開き赤眼の輝きで火の神を見ていた。
緑の神の神の口の傷は消え、シーナの衣装に興味津々で話しかけ笑っている。
みなもは青の神を抱きしめていた。耳がピンと伸び、すべての声を逃さないように聞いている。優しく、かわいらしい卯の神。その中でも一番人の声に敏感だった青の神。それゆえ、悲しみの声を拾い、自らも苦しみ、人を助けようとして呪いまで受けた。それが、みなもたちによって解放されたのだ。みなもは、水色の光で包み込み癒していった。
「よかった。陽向、霞ちゃん。遊びが終わったよ。卯の神様も無事だあ。二人ともほんとよかった」
実菜穂が陽向、霞の側に行き無事を確かめた。二人もお互い顔を見合わせると、ホッと安堵の笑みを浮かべた。
長い一夜の体験学習は、ここに終えた。
「さて、話はこれからじゃ。卯の神に聞かねばならぬ事がある」
みまもが三柱に声をかけたとき、卯の神の姿に実菜穂たちは驚きの声を上げた。
「あああー!」
三人の声が朝日を浴びてコーラスをしていた。




