水と鼓動(20)
実菜穂が手に包んだ御霊が白い輝きを増していく。その光の中にサナの姿が浮かび上がった。
切れのある瞳は凛と輝き、垂れてボサボサになっていた髪はストレートに束ねられている。それは、巫女としての少女の姿であった。
実菜穂を見つめる顔には、怒りや憂いの色はもはやなく、感謝の色で満たされていた。
「ありがとう」
かすかに動く唇が実菜穂に感謝を伝えた。実菜穂は、潤いのあるサナの唇に少女の美しさを感じていた。
サナは琴美の方に振り向くと跪き、実菜穂に頭を下げて消えていった。
サナの姿は消え、実菜穂が御霊を琴美に差し出すと、今度は琴美が御霊を丁寧に優しく受け取った。
「サナはどうなるの?」
「はい、死神がユウナミの神のもとにこの御霊を届けます。ユウナミの神は、サナを大切に迎え、護ってくれるでしょう。祓い清められた御霊は、自由に動くことができます。なにより、ユウナミの神のもとには、キナもいます。一人ではないです」
「子供はどうなるのですか?」
「白新地で雪神が迎えています。もはやどの神様も手出しはできません」
不安な表情で聞く実菜穂に、琴美は優しく答えた。実菜穂もホッと息をついて笑顔になった。
(ああ、紗雪なら安心だあ。よかった)
「琴美ちゃん、ありがとう。どうかサナを大切にしてください。私にはまだ、やらないといけないことがあるから」
実菜穂は琴美を見送ると、フロアの出入口に目を向けた。
「青の神様を見つけたよ」
実菜穂は水色のオーラを張り巡らせると、意識を集中した。
(私の気が水になっている。音を全身で感じることができた。まるでソナーだ。そうか、耳で音が聞こえなくても、すべてが水で満たされているから、全身で音が感じられているってこと?)
とおりゃんせ とおりゃんせ ・・・・・・
青の神が歌う声を実菜穂は頭に感じていた。声のする方に向かって歩んでいくと、そこは陽向、霞がいるフロアだった。
(青の神様はここにいる。でも、姿は見えない。似たようなこと私は知っている。ずっと小さかった頃、川辺で泣いている声を聞いたような気がした。ずっと探して、声をたどっていった。そして見つけることができた。うん、あのときと同じだ)
実菜穂はグッと気を溜め、青の神の声を感じていた。
(青の神様はここにいる。音だけになってずっと、見つけてくれることを待っている。青の神様の見てきた光景が私にも見えてきた。そうか、これは呪いをかけられた神様の姿。卯の神様は、サナやキナの味方をしてその報いとして呪われた。目と口と耳を塞がれた。そのなかでも、青の神様は存在さえ消されたんだ。忘れてはいけない、優しき神様。私は見つけられるはず)
溜めていた気を解放すると、水色のオーラがフロアを満たしていった。水が音を伝えていくように、音に反応したオーラの中に青の神様の姿が浮かんできた。呪いによりその姿を音に変えられた青の神。ただ、月夜のときだけは、姿を現すことができた。だが、月が沈んだことから、呪いの力により再び姿を消すこととなった。いま、実菜穂のオーラによりその呪いは解けた。
声を出し続け、見つけてくれるのをただ待っていた青の神を実菜穂は胸に抱きしめた。
「みいつけた」
信じられないという瞳で見つめる青の神を、強く抱きしめる。
ドックン ドックン ドックン
「私の鼓動の音です。人であり、生きている証です。青の神様、音は届いているでしょうか」
水のオーラで満たされたフロアの中で、鼓動の音が波となり、青の神を包み込んでいった。
実菜音の胸の中で青の神は頷いた。
「実菜穂が卯の神を見つけたぞ。遊びはおしまいじゃ。儂は行こう」
みなもが青い光となり建物の方に消えた。火の神とシーナも後に続いていった。




